「何か食いたくなってきたびょん」 「さっき散々、食べてただろ、犬。」 『あ…、そうだ。ねぇ、千種君、クローム、これ食べる?』 「チョコバナナ…」 「美味しそう…、いいの?」 『さっき、山本武から貰ったのよ』 「山本武、ですか」 『そう。骸も食べる?私は甘いもの苦手だから』 「えぇ、頂きます。僕、チョコレート好きなんですよ」 『なら、よかった。』 千種君、クローム、骸にチョコバナナを渡すと残りは一本。 まさか山本武は私が骸達と夏祭りに待ち合わせをしているとでも思ったのか。 本数が、このメンバーにぴったりだった。 「あー、柿ピー!ナッポー売ってるぜ、ナッポー!」 「パイナップル……」 「食べたいの?クロームは…?」 「あ…、私はパイナップル、苦手なの…」 「そう…」 パイナップルの屋台。 それを聞いて骸は素早くピクッと反応。 苦手と言ったクロームを見て、ため息をついていた。 パイナップル苦手って言われてショック受けたの…? 実はパイナップル好きなのかな。 「…由夜」 『何?』 「何故、パイナップルの屋台があるんでしょうね…」 『夏だからじゃないの』 「……」 『……何よ』 「いえ、きっと誰かしらパイナップルを見ては僕を思い出すのではないか、そう思いまして」 『まぁ、それは……、うん。』 「……髪型を見て頷かないでください」 『………』 「骸さーん!パイナップル食べませんかー!あっ、いけね、共食いになっちゃいますかねー」 「犬」 「じょ、冗談れすよ!」 『それにしてもパイナップルの屋台、何でこんなにボロボロなの』 「並盛を取り締まってる奴にやられたって、屋台のおっちゃんが言ってたけど」 「ショバ代をきちんと払ったのに個人的に気に入らないからって…」 『え……』 「……」 こんな事をするのは恭兄しかいないだろう。 ショバ代を払ったのに個人的に気に入らないから、と屋台を潰しにかかったなら間違いない。 『恭兄、パイナップルがそんなに…』 「僕に宣戦布告、ですかね。…犬には後でそれなりにお仕置きするとして、そろそろ花火を見に行きますか」 『花火……』 「屋台を回る方がいいですか?」 『別に…』 「だったら行きましょう。とっておきの場所、ありますから……と、おや?犬達はどこに…」 『……いない?』 さっきまで騒いでたのに気がつけば、いなくなってた。 周りを見ても、それらしい人は見当たらず骸と二人きり。 「犬ならまだしも、千種やクロームまで…」 『先に行った犬を追いかけたんじゃないの?』 「そうでしょうね」 『……』 「では、僕らは離れないようにしましょう」 『え……?』 そう言って骸は私の手を取り歩き出す。 人込みに入るけど骸の手が私の手をしっかり握っているから、はぐれることはない。 背中を見つめると、いつもよりも大きく見えた。 『ちょ…っ、骸、手を離して…!』 「嫌です、…離れたくないですから」 『な……っ』 「…それに今、離したら迷子になりますよ」 『そ、そうだけど…、でも…』 「あぁ、それとも…」 『……?』 「このまま二人で迷子になりましょうか」 『な、何、言ってんのよ…っ』 「……」 冗談です、そう微笑む骸は穏やかで怒る気も失せてしまった。 冗談と言いつつ、骸は犬達を探そうとはせずに神社の裏の小さな丘へ。 そこが骸のとっておきの場所らしい。 「座りましょう。花火、そろそろ上がります」 『……』 「………」 犬達もそのうち来るだろう。 そう思いながら骸の隣にゆっくり腰を下ろすと数分もしないうちにドォンと花火が上がった。 『……綺麗』 「えぇ、そうですね…」 同意するように骸も呟く。 やけに静かな骸に視線を移すと、私をじっと見つめていた。 赤と青の真剣な瞳。 骸も花火を見ていたと思っていたのに、こちらを見ていて驚いてドキッとした。 「由夜……」 『な、に……?』 「……これをどうぞ」 『これは……?』 「林檎飴です」 『林檎、飴……』 「あぁ、そういえば、由夜は甘いものは苦手でしたっけ?」 『……うん』 「………」 『でも、貰っとく…』 「…おや、どうしてです?」 『綺麗、だから』 「………!」 骸から受け取った林檎飴。 花火の光が林檎飴に移ったようにキラキラしてる。 普通の林檎飴だけど、どんなに高い宝石よりも輝いてるように思えた。 夜空の下、私と骸はそれ以上、話すこともなく打ち上げられる花火を見ていた。 来年も、この景色が見られますように願いながら。 『…来年も、見たいな』 「…僕と二人きりでですか?」 『来年は犬達も一緒に』 「……」 end 2008/7/16 フリリク企画 夕祈様へ リクエストありがとうございました! |