「ちゃおっス、雲雀、骸」

「おや、アルコバレーノではありませんか」

「赤ん坊、話は後にしてよ」



赤ん坊は恭兄と骸に臆する事なく近づいて話しかける。
私から離れて三人で秘密の話。

一体、何を話しているんだろう?と彼らを見ていると、胸に抱きついていた子供は地面を見ながらもぞもぞしている。



『……下りる?』

「ん!ランボさん、鬼ごっこの途中だった−!!」

『そう……』

「これ、やる!」

『……』

「おら!もらえー!!」

『はいはい、ありがと』



助けたお礼のつもりなのか、子供の小さな手じゃ大きい飴玉を一つ、私に差し出している。
受け取ると満足したように笑い一枚の紙を落とした事に気付かずに廊下を走って行った。



『……』



…まったく、世話の焼ける子。

三歩ほど歩いて、落としていった紙を拾う。
気弱そうな男の子に渡しておけばいいわよね。
あの子の知り合いみたいだし。

この紙は一体、何だろう?
拾う時にバツ印が目に入り気になってしまい、つい、まじまじと見てしまった。



『……沢田綱吉』

「は、はい!?」

『あなたの名前?』

「そ、そうです!でも、な、何で…」

『二十七点』

「んなーッ!!ランボの奴!!」



先程の子供が落とした紙は沢田綱吉の赤点のテストだった。
沢田綱吉は顔を真っ赤にしてテストを受け取り、急いでくちゃくしゃにして鞄にしまっている。



「…ふぅん、だったらこの場は見逃してあげるよ。」

「クフフ、僕も異存はありません」

『……?』

「さぁ、由夜、帰るよ。」

『は…?ちょっ、何で……っ!?』



赤ん坊と話がついたらしい恭兄達。
あっちはあっちで紙のようなものを赤ん坊から受け取った様子。

その紙を受け取ると恭兄も骸も聞き分けよく、この場を後にしようとする。
何?もしかして、買収された?



「雲雀恭弥、君は仕事が残っているでしょう?由夜は僕が責任をもって送りますよ」

「送り狼に送らせる程、仕事、溜まってないよ。六道骸、君はさっさと消えて。」

「クフフ、失礼な。僕は狼ではありませんよ。」

「あぁ、そうだね、狼じゃなかった。ただの南国果実だ。」

「…喧嘩、売ってます?」

「買うかい」

『……』



静かにエスカレートしていく恭兄と骸の口喧嘩。
いつになれば終わるのか。
私、一人でも帰れるんだけど。

この様子だと戦闘になるのかな、と暢気に見つめる。
予感は的中してお互いに武器を構え一歩下がり距離を置いた時、二人のポケットから先ほどの紙が床へと落ちた。



『何これ?』

「あ……」

「おや」

『………』



拾って見てみると。それは私の写真だった。
どこで撮ったのか、いつ撮られたのか、本を読んでる時や体操着姿。
あくびや居眠りしている場面の写真まである。

明らかに全て隠し撮り。



『……どういう事?骸、あんた、こんな事まで…』

「違いますよ!」

『………』

「ほ、本当です、これは僕の仕業ではありません!わざわざ隠し撮りせずとも生を見れるでしょう!?」

『……』

「これはアルコバレーノ、先程の赤ん坊がですね、見逃して欲しいと僕らに渡したものです」

『だから、さっき大人しく引き下がった訳?』

「し、仕方ないでしょう…!撮りたくとも撮る寸前で起きてしまうんですから!」

『撮ろうとしてたんじゃないの』

「……っ」

「由夜、変態の前で寝顔なんて見せてはだめだよ」

『それよりも、こんな隠し撮り写真は撮る方も貰う方も悪いと思わない?』



冷ややかに口角を上げると恭兄と骸は黙ってしまった。
無言で手を差し出すと二人は大人しく胸ポケットから数枚の写真を出した。



『これで全部ね。…で、恭兄は何か言う事ないの?』

「妹の写真を持ち歩いたっていいじゃない。」

「妹の写真を持ち歩くなんて普通じゃないです」

「ストーカーの君に言われたくないよ」

「ストーカーではありません、クラスメイトです。」

「ただのクラスメイト、ね。」

「クラスメイトを強調しないでくれませんか?いずれ恋人……いえ、夫となる予定ですので。」

「恋人にもなってないのに飛躍しすぎだから。由夜は僕のだよ。」

「兄なら兄らしく妹の幸せを願うべきです。」

「それ前も同じセリフ言わなかったっけ?というか君、分かってるの?」

「何がです?」

「仮に、もしも君が由夜と結婚するならば、義兄になるんだよ、この僕が。」

「……っ!!雲雀恭弥が義兄なんて冗談じゃありませんよ…!!」

「僕も君が義弟なんて死んでもごめんだよ。」

「……あぁ、いい事を思いつきました。駆け落ちしてイタリアで二人で暮らしませんか、由夜」

「駆け落ちなんて許さないよ。君みたいな男、認めない」

「由夜がOKですれば問題ありません。」

「由夜がOKする訳ないだろ…、っと、由夜、何でトンファーを構えているんだい」

『二人とも覚悟、出来てるわよね?』

「……っ!!」

「結局、このパターンですか!」

『こうでもしないと、いつまでも帰れないでしょ』



終わらない妄想と口喧嘩に終止符を打つ。
思いっきり殴った後は苛々が収まって気分がいい。



「……ッ!」

「ク……ッ!」

『先に帰ってるから。じゃあね、恭兄。』

「ぼ、僕には挨拶なしですか……っ」

『………』

「……由夜、気をつけて帰ってください、ね」

『骸……』

「はい…?」

『……また、明日。』

「…ー…!!」

『それじゃ……』



久々に行った並盛中はハプニングだらけだった。

今度、あの赤ん坊に会ったら写真のネガを奪わなきゃ。
明日からまた毎日、骸達と顔を会わせなきゃいけない。

そんな事を考えながら帰宅した。



『……また、明日か』



また明日、って言ったら骸、驚いた顔をしてた。
自分でも骸に声をかけるなんて驚いている。

だけど、並盛中に行って思った。
並盛より、黒曜の日々が落ち着くって。



end



2007/06/27

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