一人、店内をうろうろとして商品を見ては悩んでいた。
悩めば悩む程に時間が早く経ってしまう。



『どうしようかな…』



私が悩んでいる原因は恭兄の誕生日プレゼント。
今日、五月五日は兄である雲雀恭弥の誕生日だからプレゼントを探していた。

だけど、これと言ってピンと来るものがなく、恭兄が欲しいものがまったく思い浮かばない。

……我が兄ながら謎な部分が多過ぎるからね。



『……他のお店に行こう』



雑貨屋を出て、ため息。
歩いていると本屋を見つけて店内に入り、綺麗に並んでいる雑誌を立ち読み。
何かプレゼントになりそうなものが載ってないかな。

男性向けの服、腕時計に香水、アクセサリー。
雑誌に載っているものを見て考えると、どれもこれも恭兄と結びつかない。

他に何かいいものはないか、他の雑誌を手に取ろうとしたら後ろから視線を感じた。



『……?』



気のせい、そう思ったけれど、どうやら勘違いじゃないみたい。
視線の方向を見ると藍色の髪が見える。
あの個性的な髪型は間違いない。

黒曜中の変態だ。



『骸…』

「………」



名前を呼んでも無反応。
見つからないようにしているんだろう。
もうばれてるっていうのに、無駄な抵抗しないでほしい。



『骸、出てきなさい』

「……」

『………』



あぁ、もう、仕方ないな。
どうせ付き纏われるならさっさと出会っていた方がいいもの。
憂鬱になりながらも私は骸の元へ行き顔を覗かせた。



『骸』

「……おや?由夜ではないですか、これは嬉しい偶然ですね」

『気付いてたでしょ』

「いえいえ、そんなまさか。少々購入したい本がありまして探していたんですよ」

『ここで?』

「え……えぇ、中々見つからず…」

『…ふぅん。グラビアね。』

「……グラビア?」

『うん。』

「……?な…っこ、ここは…!?」

『こういうの興味あるんだ』

「……っ」



いつものお返しと言わんばかりに骸をからかってみる。
骸は自分がいる場所がやたらと肌色が目立つグラビア写真集コーナーだという事に今、気付いたようだった。



『へぇ、骸もこういうの買うんだ』

「……ち、違いますよ」

『だって、買いに来たんでしょ』

「く……っ!!」

『探しもの見つかるといいわね、それじゃ』

「ま、待ってください!」

『何よ』

「誤解されたくないので白状します、由夜を偶然、見つけて、その後つけてました」

『……』

「僕はこんな低俗な物には興味ありません」

『………』

「いや、待ってください。ですが、由夜がこの水着を着てこのポーズや表情をしていたら、クフフフフ…」

『……』

「水着じゃなくてもコスプレでもいいですね、たまりません…!」



低俗なものは興味ないと真面目な顔で言い切った骸。
だけど、ふと目に止めた写真集を見て私を見てクフフと笑い始めた。

脳内で私をグラビアアイドルに当てはめ妄想をしてるみたいだ。

不愉快極まりない。



『……』

「水着でしたらやはり、これが似合いそうですね…」

『………』

「そして視線はもちろん上目使い。最高です…」

『……』

「コスプレでしたら、ナース……いや、ここはやはりセーラー服でしょうか」

『………はぁ』

「クフフ…、オプションで眼鏡に猫耳、尻尾もつけて…」



骸の脳内で私がとんでもない事になってるかもしれないけど店内で殴る訳にはいかない。
だからといってグラビアコーナーで変質者同然の骸とこのまま一緒にいるのは我慢できない。
周りのドン引きしている視線が痛い。



『……』



私はどうしようか悩む事もなく妄想ノンストップの骸を残して店を出た。



***



『さて、と。何にしようかな…』



恭兄が好きなものと言えば、並盛・学校・戦闘くらい。
考えれば考える程、プレゼントになるようなものはない。



『武器……、トンファーがあれば十分…』

「由夜、何を物騒な事を呟いているんですか…!!」

『骸、あんた、いつの間に…』

「グラビアコーナーに放置することないでしょう、店員に白い目で見られましたよ…!!コホンと後ろで咳払いされてやっと我に返れました…!!」

『でしょうね。』

「何を真剣に考えてたんです?」

『あ……』

「どうしました?」

『骸って何か欲しいものある?』

「え………」

『期待した目をしてる所、悪いけど、恭兄へのプレゼントだから』

「いけませんよ、由夜!自分をプレゼントするなんて…!!」

『しないわよ』

「雲雀恭弥は"君で十分だよ"と言うに決まってます」

『……』



言う訳ないじゃない。

なんて言い切れないわね、恭兄なら言いかねない。
否定しない私を見て骸は肩を掴んで真剣に話し出す。



「いいですか、絶対に雲雀恭弥に欲しいものある?なんて聞いてはだめですよ」

『聞かないわよ、だからこうやって探してるの』

「でしたら、僕の時にしてくれたようにパーティーはいかがですか」

『パーティー、ね……』

「……だめ、ですよねぇ、やはり。僕はとても嬉しかったのですが」

『……』

「今、思い出しても嬉しいです、本当に。……あの日のことは忘れられない、…と!」

『……?』

「あ…、いえ、すみません。何でもないです。」

『どうしたのよ』

「ちょっと、その…思い出しまして…」

『そんなに嬉しかったんだ、パーティー』

「いえ、あの……、えぇ、まぁ…」

『……?』

「…ー…っ」



気まずそうに視線を逸らした骸。

じっと見つめると控えめに私を見る。
その視線は口元を見ているみたいで何かと思いきや、脳裏に思い浮かんだのは骸の誕生日パーティーの後の事。
帰り道のキスを思い出してしまって私は頬が熱くなった。

骸も私が思い出したことを気がついたようで、変な沈黙が流れた。



「す、すみません、その…、掘り返すような話題を…」

『もう謝らなくて、いいから。』

「ですが」

『い、いいって言っている、でしょ。』

「由夜……」

『な、何よ』

「いえ、とても柔らかい唇だったな、と…」

『……ッ』

「す、すみません、今のはついぽろっと口に出してしまい…!!」



トンファーを構えて握りしめる。

目の前の骸を殴りたい勢いだったけれど、これ以上、この話題を引きずりたくなくて私はトンファーをしまい歩き出す。
ほっとした骸は小走りで私に追いつき隣を歩く。



「…それで、何にするんです?」

『夕食、豪華にしようかと思って』

「クフフ、それがいいですよ」

『恭兄の好きなものにして、後は……』

「"デザートは私"だなんて、いけませんよ」

『しないわよ』



それならいいのですが、とクフフと笑った骸。
いつものやり取りに呆れつつも私は頬が綻んだ。

今の冗談は空気を変えるため、わざと言ったんだろう。
半分は本気なのかもしれないけど。



「ところで、由夜。」

『なに?』

「雲雀恭弥は一体、何が好きなのですか」

『……?』

「少し気になりましてね。彼の衣食住がまったくと言っていいほど見えないもので。」

『別に普通だけど……、好きな食べ物は、和食とハンバーグ』

「ハンバーグ、ですか…?」

『そう。』

「……ちなみに誕生日は」

『今日よ、五月五日』

「ク……ッ」

『何、にやにやしてるのよ』

「…っいえ、まさか子どもの日生まれとは思わなかったもので、しかもハンバーグが好物とは…」

『そんなにおかしい?』

「えぇ。では、今日の夕飯にはハンバーグに目玉焼き、それに旗をつけてあげてください」

『…それじゃ、お子様ランチじゃない』

「面白いじゃないですか。是非、お願いしますよ」

『…まぁ、考えておく』



こうして私は夕飯の買出しへと向かったけれど、骸は変わらず私の隣を歩く。
どうやら荷物持ちしてくれるらしい。

一人でいいのにと思っても、こんな時間に落ち着く自分がいた。
こういう休日も悪くはないかもね。



「きっと周りには"若いご夫婦"に見られてますよ」

『見られてないわよ』



end



2009/07/05

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