この場に残った私は骸の体を起こして姿勢を正す。
そして私は倒れないように支え隣に座った。



『……(ち、近い…)』

「………」



このまま座らせるよりもベンチに寝かせてた方がいいのかな、そう思っていた所でクロームが戻ってきた。



「由夜……、骸様、起きた…?」

『…まだ起きない。』

「……そう。ハンカチ…濡らしてきた。」

『ありがと。』

「…それで、どうするの」

『ん?』

「その体勢だと……ハンカチ当てられない。だから…」

『だから……何?』

「…由夜、もう少し端に座って」

『何で』

「いいから…」

『……』



クロームが骸を支えている間、私は言われた通りに十分にスペースを開ける。
何をするのかと思ったらクロームは骸を横に寝かせた。

よりによって私の足を枕にして。



『……っ!!クローム…!』

「これで大丈夫…」

『だ、大丈夫じゃないでしょ…』

「……大丈夫、気を失ってる間だけ」

『………』



ベンチに放置は出来ないけれど膝枕は耐えられない。
慣れない事をしてドキドキする。骸の髪が太ももを掠ってくすぐったい。

内心、慌てる私に気付かないクロームは骸の額にハンカチを当て様子を見ている。
静かに瞳を閉じてる骸を見てほっとしたようで立ち上がった。



「骸様の鞄……取ってくる」

『え…?』

「待ってて」

『ま、待っててって…このまま…!?』

「……?うん、大丈夫…さすがの骸様も意識ないから、変なこと出来ない…」

『それはそうだけど…っ』

「…行ってきます」

『……っクローム』



この状態で一人にしないで…!!

心の叫びを言葉にする前に走って校内へと姿を消したクローム。
こういう時のクロームはとても足が速い気がするのは気のせいだろうか。

ポツーンと残された私と骸。
いくら気を失っているとはいえ、この状態は……!!

骸を見るとまだ意識を取り戻してないようだ。



『……目を覚ますまでだからね』

「……、……」

『……はぁ。早く戻って来てよね、クローム』

「………」

『……』



あぁ、もう。
最近、独り言がかなり多くなった気がする。



『あんた達のせいよ、まったく』

「……」



意識のない骸に言っても返答は来ない。
目を瞑っている骸、じっと見つめていると風で髪がさらりと揺れた。

顔にかかる髪、くすぐったそうだから除けてあげるとふと、ある事を思い出した。

一番、最初に見た時、六道骸に見惚れた事を。



『……今、思えば絶対にありえないけどね』



今の骸なんて変態で話がよく通じないし、未だに掴みどころのない奴。
だけど、何だかんだ仲間のために行動する骸、根は優しいんだと思う。
仲間に向ける笑顔は、いつも穏やかなものだから、それは偽りではない。



『……』



前はただよく分からない奴だって思ってた。
だけど今は、今の骸は……



『…ー…っ』



……って、何で私、骸を見つめてるのよ!

それに今の骸は、って何!?
私、何を考えようとしてた訳!?



「おや……」

『……っ』

「……由夜」

『む、骸……』



膝枕をしているから必然的に私を見上げる骸。
目を細めて見つめられると心臓が煩くなって言葉が出なくなった。

思わぬタイミングで起きた骸をいっそもう一度、トンファーで眠らせたいという考えが頭の中をぐるぐると回る。



『……っ!』

「……クフフ」

『……ちょっと、骸』

「…何でしょう?」

『今、どこ見て気色悪く笑ったのよ』

「……いえ?別に何も。……あぁ、何故、隠すのですか…!!」

『隠すに決まってるでしょう!!』

「制服から自然と見える場所なのですから、いいではないですか!文句を言うなら制服をデザインした者に言ってください」

『あんたね……!!』

「グッジョブ黒曜制服、由夜の腹チラ、膝枕、クフフフフ……!!」

『……さっさと起きて』

「まだ頭がクラクラします」

『……!!』

「…ので、もう少し、このままで」



寝返りして太ももに手を置く骸。
どうやら起きる気はないらしく甘えるように擦り寄ってきた。

調子に乗らないで。
我慢が出来ずに髪をツンと引っ張った。



「い…っ、ちょ、髪を引っ張らないでください…ッ!!」

『余計な部分、取れるかもね』

「取れませんよ…!!」

『さっさと起きてよ』

「嫌です。大体、雲雀恭弥には膝枕したのに僕はだめなんですか。」

『いつの話してるのよ。起きないつもりなら、もう一度……』

「そうはさせませんよ」

『……!!』



仰向けになって私の手を掴む骸。
指を絡めて口元へ持っていかれると手に骸の唇が触れた。



「もう少しだけ……だめですか?」

『な……っ』

「別に変な事はしませんよ…」

『…ー…っ勝手にすればいいじゃない』

「……えぇ」

「……バカップル?」

『……!』

「…ー…っ」



いつの間にか戻ってきたクロームがぼそりと呟くと骸はパッと起き上がった。
起き上がったものの、まだ手を繋いだまま離そうとはしない。

というよりも気付いてないみたい。



「骸様、起きた……」

「起きるに決まってるでしょう…!!盗み見なんていけませんねぇ、クローム」

「…見てた。」

「な、何をですか…!!」

「骸様もさっき由夜を盗み見してた…」

「………さぁ、三人で仲良く帰ることにしましょう」

『誤魔化さないでよ、骸。それと手…』

「手がどうしましたか」

『……、…離してってば』

「あぁ……」



繋いだ手に気付いたらしい骸は手を見て硬直。
少し顔を赤くしたけれど離す所か指を絡めて離さない。



『……っ!?』

「さっき、いいと言っていたでしょう?」

『そんな事、一言も言ってないわよ…っ』

「勝手にすればいい、イコール好きにしていいという事でしょう」

『それは私が殴ったせいで頭がクラクラするって言ったから横になりたいなら勝手にすればいいって事よ…!!』

「さぁ、帰りましょう」

『ちょっと、話を進めないで。手を離して。』

「嫌です。たまにはいいじゃないですか」

『たまに手を繋いで帰るみたいな言い方やめて』

「……ケンカップル?」

「…クローム、どこでそんな言葉を覚えて来たんですか」

『……本当。大体、カップルじゃないから。』

「…うん、そうだね」

「……そうだね、ってクローム……もう少し僕を立てるとかしませんか」

「だって、三人……」

『三人?』

「……うん」



骸も私も疑問符を思い浮かべるとふわりと笑うクローム。
私の空いている手をぎゅっと握り首をかしげた。



「……三人で帰ろう?」

『それはいいけど…ちょっと待って。このまま手を繋いでってこと?』

「うん」

『う、うんって小学生じゃあるまいし…』

「両手、塞がってるならトンファーも出せませんよね。クフフ」

『……っ』

「由夜の鞄は僕が持ちます、さぁ、帰りましょう」



右には骸、左にはクローム。
何でこんな風に帰らないといけないのか。
だけど、もうこのままでもいいかと諦めてる自分がいる。

骸の大きい手。
私の手がすっぽりと収まってるのを見ると鼓動が早くなった。



『……(人の手ってあったかい)』



何度か前の季節ではありえなかった。

そんなに前の事ではないのに忘れていた。
骸の事を苦手とか、好きじゃないと思ってた事を。


だけど、今は…


今の気持ちを言葉にするならば……



「……!今、僕の手を握り返してくれましたよね、由夜」

『…違うってば』

「違わなくないでしょう、今、僕の手をぎゅっと……」

「骸様……、由夜、私の手も握り返してくれました…」

「………」

『……さっさと帰るわよ、二人とも』

「…えぇ」

「……うん」

『………』



…ー…嫌いじゃない。



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2010/10/11

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