暖かい陽射しが当たる中庭、静かで本を読むには最適。
心地良さにあくびすると隣に座ってイタリア語の勉強をしていたクロームは小さな声をあげた。



『どうかした?』

「骸様…」

『………?』



クロームが控え目に指を差した場所。
その先にある木の影を見ると特徴的な髪型で長身の男がいた。

誰がどう見ても六道骸だ。
あんな木の陰で何をしているのかと、よく見ると彼の前には顔を赤くしている女の子がいた。



『何あれ、……あぁ、告白?』

「違う……」

『違う?』

「告白は違わないと思う、けど…」

『けど?』

「本を読む由夜の横顔を木の陰からじぃっと見つめて妄想していたら、あの女の子に話し掛けられたんだと…思う」

『……その説明は省いていいものだと思う、クローム』

「そう…?でも、省いたら骸様があそこにいるの不自然…」

『それは……そう、よね』

「……」



クロームにじーっと見つめられ言葉が出てこなくなった。
私が深く息を吐くと沈黙を破るように後ろから「好きです!」と女の子の声が聞こえた。

驚いて声の方を見ると先ほどの女の子が骸に言った言葉らしい。
緊張からか声が大きくなってしまったのか耳まで真っ赤にしていた。

少し離れているから彼女は私達がいる事に気付いてないみたい。
と言うよりも緊張で周りが見えてないようだ。



「骸様、やっぱり告白されてる…」

『そうみたいね…』



何で"あの"骸に告白?
そう思ったけれどよくよく考えれば成績は常に上位をキープ。
黒曜中のトップでありもちろんの事、スポーツも出来て女子が騒ぐ程、顔は整っている。

私の前だと変態でしかないから、すっかり忘れていた。



『……』

「由夜……」

『ん、何…?』

「骸様…」

『…?』



クロームが袖をつんつんと引っ張り骸を指差す。
何かあったのかと再び骸達を見れば、彼らもこちらを見ていた。
瞳が合うと骸はひらひらと手を振り笑みを浮かべた。



『…何でこっち見てるのよ』

「分からない…」

『あの子、こっち見て泣き出しそう…ー…いや、もう泣いてる?』

「う、うん……」



告白だったという事は分かった。
だけど、こちらを見て一体、何を話していたんだろうか。

骸は女の子と会話をした後、別れて私達の方へやって来て隣へと座った。

妙に近かったからクローム側にずれると肩を抱き寄せようとしていた骸の手が見事なまでに空振りした。



「……」

「骸様、残念…」

「そこは普通はスルーする所ですよ、クローム」

「……?」



眉間に皺を寄せたかと思うと、ふぅと息を吐いてクフフと意味深な笑いを零した。

この笑みは……あれよね。
今までの経験から予感がする。

あんまり関わらない方がいい時の笑い方だ。



『……帰る。二人ともまた明日ね。』

「えぇ、また明日……と、何故、僕が来た途端、帰ろうとするんですか…!!」

「静かに読書できない…」

『そういう事。じゃあね。』

「待ってください、由夜。気になりませんか、先ほどの事を。」

『告白でしょ、聞こえたわよ。別に詳細なんて聞く必要ない。』

「……!!」

『何よ』

「やきもちを焼い…ー…とやめてください、冗談です、トンファーをしまってください…!!」

『……』

「落ち着いて話を聞いて頂けますか」

『何を?』

「丁重に断りましたよ、ですが付き合えないだけでは、どうしても納得して頂けなかったので」

「さっきの女の子…ですか?」

「えぇ、見かけによらず随分と強情な娘でしたよ」

『だから、どうしたのよ』

「……怒りませんか?」

『そういう風に聞くなら私が怒るって事じゃないの。』

「……クフフ」

『笑って誤魔化さないで。』

「えぇ、それでは白状しましょう。既に由夜という大事な恋人がいるので付き合えないと言……っ」

『…ー…ッ!!』

「ク……っ!!」

「骸様……」

『……あ』



骸が全てを言う前に思いっきりトンファーで攻撃。

ついカッとなって力任せに殴ってしまったから骸は気を失ったようだった。
完全に意識がないのか、ベンチに背中を預けてだらんとしている。



『あ……』



我に返った時は既に時遅し。

……いつもの事だけど、やりすぎてしまった事に一人、心の中で反省。
変な事を言ってくる骸にどうも加減が出来ないのは、もう悪い癖かもしれない。



『……。』

「由夜…」

『…ごめん、つい。』

「ううん。骸様が勝手な事を言うから…。だからさっきの子、由夜を見てたんだ…」

『……恋人、ね』

「………」

『……クローム、悪いんだけどハンカチを濡らしてきてくれる?』

「あ……、うん。分かった…行ってくる。」



ハンカチをクロームに渡すとたたたっと校内へと走っていった。

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