「ただいま…」 「んぁー…って!おい、ブス女!骸さんはどこだよ!まさかまた放って来たのか!?」 「ごめん…」 『恭兄が来ちゃってね、鉢合わせして今、口喧嘩が始まったから置いてきた』 「んなーっ!!置いてきたってどういう事だびょん!」 「……めんどいから」 『そう。さすが千種君、分かってるわね』 「………」 片手で眼鏡を掛け直してコクンと頷いた千種君。 犬は納得してなさそうだったけれど自分が出る競技の時間になったためしぶしぶ集合場所へと歩いて行った。 千種君とクローム、そして私。 ゆったりとした時間は、とても落ち着く。 だけど、せっかくの静かな時間も、あの二人が来てしまえば煩いものへと変わった。 「ついて来ないで下さい」 「僕は由夜に用があるんだよ。」 『……はぁ。』 「待たせてしまいましたね、由夜。準備運動のつもりで少々、手合わせしていたら決着をつけるとしつこいもので」 『また戦ってたのね。ねぇ、恭兄、私はもう競技に参加しないわよ』 「分かってるよ」 『分かってるよって何で…』 「由夜の事で僕が知らないことがあるとでも?」 『……』 そんな自信満々に言われても…。 どうせ風紀委員を使って調べたんだろうけど。 恭兄がまだいると言うならば意見を変える事はないだろうから仕方なく一緒にいる事にした。 目の前ではパン食い競争が始まり犬の番が来た。 ゆっくり見ていたいものだけど…。 「ちょっと、六道骸。何、当たり前のように由夜の隣にいるんだい」 「隣が当たり前だからですよ。ちなみに教室でも席が隣ですよ、クフフ」 「……」 「どうです?羨ましいでしょう?兄である君は一生、味わえません。」 「ただのクラスメイトじゃないか。」 「………」 「僕は由夜と学校以外の時間はずっと一緒なんだよ。それこそ君が一生、味わえないだろう。」 「クフフ、甘いですよ」 「何がだい」 「恋人同士になり同棲…そして、いずれ結婚すれば一緒に暮らす事になるのですから」 「可能性がゼロの夢を見てるなんて可哀相だね…」 「な……っ」 『…ちょっと、二人とも。私を挟んで口喧嘩してないで。』 左隣には骸、右隣には恭兄。 その真ん中に私がいるものだから嫌でも話している内容が耳に入ってくる。 あまり関わりたくない話題をしてるから居心地が悪い。 「……ゲッ、アヒル」 「犬、おかえり…」 「おや、犬。どこに行っていたのですか」 「今、パン食いだったんれすけど、もしかして骸さん少しも見てなかったんれすか!?」 「すみません、雲雀恭弥が煩くて見れませんでした。ですが一着でしょう?」 「そりゃもちろん、そうれすけど。なんれアヒルが…」 「僕がいちゃ悪いのかい」 「……っ骸さん!アヒルなんて相手にしないでいいれすよ!つーか、そろそろ骸さんが出る借り物競走の時間だびょん!」 「おや、もうそんな時間でしたか。」 あんまり近づきたくないのか犬はそう言って一番、離れた千種君の隣へとどかっと腰を下ろす。 そして、パン食いで取ってきたパンを食べ始めた。 それと同時に骸は立ち上がって競技に出るために集合場所へと向かう。 骸がいなくなれば恭兄は静かになって、ため息を零し私を見ている。 今度は何を言うつもりなのか、視線を合わせると恭兄は口を開いた。 「随分と群れてるんだね、由夜」 『別に…。群れてる訳じゃない。』 「ふぅん…」 『恭兄だって沢田綱吉達やディーノとよく群れてるでしょ』 「咬み殺してるだけだよ」 『………』 「群れるなんてごめんだね。」 『……私とだって群れてる事になるんじゃないの。』 「由夜は特別。決まってるだろ。」 『……』 自分がルール、いつでも自由な恭兄がこう言うんだったら、もう何も言えない。 だけどお互いに人と群れる機会が増えた事は間違いない、恭兄は絶対に認めないだろうけどね。 その方が恭兄らしい、そう思って競技を見つめていると骸の番になっていた。 スタートの位置に着いた途端にきゃーっと女子の声援が大きくなったのは気のせいじゃない。 そうか、すっかり忘れてたけど骸って女子に人気あるんだった。 「煩いね、まったく」 『本当。』 「由夜…」 『ん……どうしたの、クローム』 「骸様…」 「こっちに向かって来てるびょん」 『え…?』 クローム達に言われて目の前を見れば確かに骸はこちらに走って来ていた。 わざわざこっちにまで何を借りに来たんだろうか。 骸だったら、その辺の女の子に声かければ必要なものはすぐに手に入りそうなのに。 「由夜…!」 『どうしたのよ、骸。』 「由夜、一緒に来てください」 『借り物はなんだったのよ』 「由夜ですよ」 『借り物が名指しの訳ないでしょう』 「いいから来てください」 「貸し出ししてないから」 「邪魔ですよ、雲雀恭弥。学校の行事ですよ、邪魔をしていいと思っているんですか風紀委員長ですのに」 「僕は並盛の風紀委員長であって黒曜の風紀委員じゃない。」 「だったら尚更ですよ、邪魔をしないでください。行きますよ、由夜」 『えっ、ちょ……っ』 手をぐいっと引っ張られれば、ついて行くしかない。 皆、指定の借り物が借りられずに慌てている中、骸と私はゴールへと一直線。 借り物を確認されて、どうやらOKが出たらしく骸の一位が確定した。 「クフフ、余裕の一位ですね」 『よかったじゃない。結局は借り物って何だったの?』 「先ほども言ったように由夜ですよ」 『だから、借り物が名指しだなんて聞いた事がないー…、…っ!?』 骸は私の言葉を遮るように借り物が書かれた紙をペラリと見せた。 その紙に書かれてあったのは「好きな人」。 『す、好きな、人……!?』 「えぇ、そうですよ。君以外に考えられない。」 『…ー…!!』 「やはりこういう展開はベタすぎでしたかねぇ」 『……ッ』 「…あぁ、もちろん返事などはまだ必要ないですよ」 『へ、返事…?』 「えぇ、僕を好きになってくれた時に返事を下さい」 『な……っ』 「……いつまでも待つつもりですから」 いつもは冗談交じり、というか妄想交じりで色々と言ってくるから、あまり気にしてなかった。 真面目にはっきりと"好きな人"と言われたのは、初めてじゃないだろうか。 骸が好きな相手は本当に私…? 私は骸の事をどう思っているんだろう。 『……っ』 少しだけ、ほんの少しだけ、ドキッとしたのは絶対に内緒。 赤くなった私の顔を見て笑う骸にムカついて、そっぽを向いて誤魔化した。 end 2009/11/28 |