『お疲れ様、クローム』

「クフフ、一着とは、さすが僕のクロームです。よく頑張りましたね。」

「由夜、骸様…」

『あ…、クローム、こっち来て』

「え?」

『網、潜ったからね。髪がボサボサ』

「あ…」



クロームのさらさらした髪を撫でて整えていると隣にいる骸は悔しそうに見つめていた。
そんな顔してまた何を考えているんだか。



「あ、ありがと、由夜…」

『別に、これくらい』

「……」

「骸、様?」

『…どうしたのよ』

「僕が障害物競走に出ていたら、今のやり取りが…!」

『は?』

「"骸、髪が乱れてるわよ。届かないからしゃがんで"なんて言って由夜の手が僕に触れて……」

『……また始まった』

「もちろん逆もいいですよね。"由夜、こんなに乱れて…、僕が直して差し上げますよ"と言って髪に触れる…」

『………』

「だけれど絡まって中々、直せない…"早くしてよ"と急かされて"すみません、もう少し…"と謝ると視線が重なる…」

『……』

「いつもよりも近い距離に胸を高鳴らせる、なんて、ベタすぎですかねぇ。クフフ、クハハ…!!」



何、妄想してるんだか。

まさか、この変態は競技ごとに妄想するんじゃないでしょうね。

私が出るのは百メートル走だけなのに。



「骸様…」

『この間から妄想が激しくない…?』

「こういうイベント事では妄想せずにはいられませんよ。」

『……』

「もちろん普段からも口には出しませんが妄想してますがね、例えば、そうですね、授業中などはー…」

「骸様…」

「はい、どうしましたか」

「由夜…百メートル走に行きました」

「………」


***


骸の妄想話をスルーして、百メートル走出場者の集合場所へと向かった。

列に並んで、ふと横を見ると見慣れた後姿が見えてドキッとして見つからないようにと人込みに紛れる。

どうか、このまま見つかりませんように。

そう思いつつ走り出し、私の競技が終わった。

私は群れに紛れながら骸達と一緒にいた場所へと向かう。

だけど不運にも"あの人"に見つかり声をかけられてしまった。



「一着おめでとう、由夜」

『……っ恭兄』

「さすがは僕の由夜だね。…と、髪が随分、乱れてる」

『……』

「ジッとしてなよ」



恭兄は私の乱れた髪を丁寧に撫でて直す。
何も人が大勢いる場所でやらなくてもいいじゃない。

髪を整えられながら私はため息を吐いて話した。



『……来ないでって言ったのに』

「いいだろう、別に。」

『見に来る程のものじゃない』

「由夜が競技に出てるなら見たいよ。お弁当も持って来た。作ったのは哲だけどね。」

『…購買で買うからいい。帰って』

「反抗期かい、由夜」

『違うってば』



いつもは競技なんて出ないから別にどうも思わない。
だけど参加するなら話は別だ。
家族に見られるのは恥ずかしいと思う。

というか私、恭兄に体育祭があるとは言ったけど競技に出るなんて一言も言っていないんだけど。

恭兄も私が学校行事に参加しないのは分かりきっているはず。

一体、どこから情報が漏れたんだろう。



『とにかく帰って、もう見たからいいでしょ』

「いいじゃない、まだいたって。昼食を食べたら戻るよ」

『……』

「いいよね」

「良くないですよ、さっさと並盛に帰りなさい」

「ワォ、どこから沸いてきたんだい、六道骸」

「それはこちらのセリフですよ、雲雀恭弥。遅いと思って来てみたら。…由夜、先程は一着おめでとうございます」

『……どうも』

「…おや?」

『何よ』

「あれだけ颯爽に走っていましたのに髪が乱れてないですね」

「僕が直したからね」

「な…っ!!それは僕がやろうとしていたんですよ…!!」

「由夜の綺麗な髪を君に触れさせたくない」

「く……っ」

『……』



僕がやろうとしてたって、骸…。

あぁ、そういえば、さっきクロームとのやり取りを羨ましそうに見てたっけ。

骸と恭兄の口喧嘩が始まってしまえば止めることは出来ない。
どうしようかと思っているとトントンと肩を叩かれた。



「由夜…」

『クローム。』

「骸様が迎えに行ったけど遅いから来た…」

『あぁ、ごめんごめん。骸なら……ほら。』

「あ…、雲の人……由夜のお兄さん…」

『そう。さっきから口喧嘩しててね、止まらないのよ』

「……行こう?」

『え?』

「大丈夫、由夜がいなくなった事に気付いたら戻ってくる。多分。」

『…そう、ね』



この二人を放置して戦闘にならないか不安になり心配しつつも場を離れる。
元にいた場所に戻ると犬と千種君はぼーっとして競技を見つめていた。

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