「……どうしたのですか、由夜」 『…そんなに見られてると食べにくいんだけど』 「おや、それは失礼しました、クフフ……」 『……』 にこりと笑う骸。 そんなに見てるなんて自分が食べたいんじゃないの? そう思い私はクッキーを骸の口へと押し込んだ。 『やっぱりいらない。』 「……ッ!…っ!?」 骸に食べさせる、という行為に戸惑いはあるけど私は元々そんなにクッキー食べたいって訳じゃない。 食べたい人が美味しく食べた方がいいでしょ。 突然の事で口をもごもごとさせている骸。 ゴホゴホとむせていたけど、ちゃんと飲み込んだみたい。 「…ー…っ!?」 『そんな惜しそうに見つめるなら骸が全部、クッキーを食べればいいでしょ?』 「………」 『…って、千種君たち、どうしたのよ』 「骸様…」 「クッキー、食べちゃった…?」 「あーあ……」 『何、言ってるのよ…』 「由夜」 『何?』 「………」 「オレ、知ーらね。」 「ごめん、由夜…」 「由夜、頑張って…ね?」 『は?』 「由夜…」 今までになく甘い声で名前を呼ばれる。 振り向くとトロンとした瞳で私を見つめてる。 朝から一体なんなの? また何か馬鹿なことを考えているのか、ため息を零しつつ骸をスルーして席へと座った。 「由夜」 『だから、何?』 「……」 『………』 「……」 『……、…?』 犬と千種君、クロームはそれぞれ自分の席へと座る。 ぼーっとしている骸、少しフラフラしながら隣の席へ座ると私を見ているらしく気配がする。 その視線はいつもよりもくすぐったい。 合わせたくもないのに、どうも気になって骸を見ると穏やかに見つめていた。 『な、何よ……』 「何がです?」 『いつもと違った意味で変なんだけど。ねぇ、クローム』 「う、うん……」 『クローム?』 片側に座るクロームに問い掛けると苦笑いして視線を逸らす。 何か変、そう思って立ち上がりクロームの前に立つ。 『ねぇ、クローム、何か知ってるでしょ…』 「え…、あ……」 『話してくれる?』 「わ、私、その…」 「由夜…」 『何よ、今、私はクロームと…、って!何で抱きしめてくるのよ…!!』 「クロームとばかり話さないでください」 『…ー…っ!!』 後ろから抱きしめてきて甘えるように耳元で囁かれる。 そして切なそうに首筋へと顔を埋めた。 ゾクリと背中に寒気が走る。 『や、やめ…っ』 「嫌です。僕だけを見てください、由夜…」 『…ー…っ何、言ってるのよ!!』 「骸様、積極的…」 『ク、クローム…!!この馬鹿を剥がして…!!』 「由夜、珍しく慌ててる…」 『こんな事をされたら誰だって慌てるに決まってるでしょ…!!』 「由夜…クロームと話さないでと言ってるでしょう…」 『な……っ』 腕の中から逃げようとすると骸は抱きしめる力を強める。 それでも何とか振り解き向かい合わせになると手を掴まれて指先にキスを落とされた。 『……っ』 「由夜…」 『は、離してってば…!!』 「好きです、由夜…」 『……っ!?』 「君が好き、です」 『な、なに、言って…っ』 じっと見つめる骸の瞳は今まで見た事がないくらい真剣そのもの。 変態発言もないし怪しく笑っていない骸に私は顔が熱くなりドキドキするばかりだった。 「由夜…」 『む、骸……っ』 「好き、なんです」 骸は片手で腰を、そしてもう片方の手で私の顎を固定して顔をゆっくりと近付ける。 唇が重なりそうになった時、ぎゅっと目を閉じると骸はパッと身体を離した。 今度はいきなりどうしたのか、骸を見ると頬を染めて驚いたように私を見ていた。 「な……っ」 『は……?』 「あ、骸様…」 「僕は今、な、何を…っ!?」 『……?』 「確か由夜に食べてもらうはずの惚れ薬入りクッキーを口にしてしまい…」 『惚れ薬…?』 「そうしたらぼーっとしてしまい気がつけば由夜が目の前に……」 『骸』 「はい?」 『惚れ薬入りクッキーって?』 「あ……」 「骸様…」 しまった!という顔の骸。 つまり何?惚れ薬なんて信じられないけど、薬の効果であんな事を…? 「ちょっ、まっ、待ってください、由夜!」 『待たない。』 「お詫びに、ほら、このクッキーをお一つー…」 『惚れ薬入りって聞いて食べる訳ないでしょ…!!』 「で、ですよね…」 『咬み殺してあげる…!!』 「く…ー…っ!!」 トンファーで骸を攻撃。 フラフラとしている骸の傍に、千種君達が来たけれど呆れた顔をして心配はしていなかった。 私は早鐘の心臓を落ち着かせる事に必死だった。 『…まったく。ドキドキした私が馬鹿みたいじゃない。』 「えっ、骸様にドキドキしたの?由夜」 『……っ!!な、なんでもない、わよ』 「でも、顔、赤い…」 『な……っ』 end 2009/06/15 |