「いかがですか?」

『……、甘い』

「何ともありませんか?」

『は…?まさか毒でも入ー…っ』

「……!」

『あ、れ……?』



クッキーを食べた由夜。
話かければ僕の方を見て驚いたような表情。
僕は由夜に向かって微笑むと彼女の頬はみるみるうちに赤くなり俯いてしまった。

あぁ、何て可愛いんでしょう…!
どうやら、さっそくクッキーの効果が現れたようですね、クフフ…!



『……』

「…オレ、後でどうなっても知らないれすよ」

「……オレも」

「由夜、怒る所じゃないと思います…」

「クローム、その時はその時です」

「だけど…」

「一時くらい甘い雰囲気を味わいたいじゃないですか…!!」

「……」

「という事で由夜、気分はいかがですか?」

『……』



僕は微笑んで恐る恐る由夜の頭を撫でた。
すると多少、ビクッとしたものの静かに撫でられている。
まるで、いつまでも懐かない猫がやっと懐いたような気分だ。

いつもの由夜にこんな事をしたものならば、きっと少しだけ顔を赤く染めて手を払いのけられる。(それはそれで可愛いのですが)



『骸……っ』

「おやおや、どうしましたか、由夜」

『骸……、私…』

「はい」

『好き……』

「……はい?」

『骸のこと、好き…』



由夜の言葉が脳に届くまで数秒。
顔を赤くさせて上目使いで由夜は僕を見ている。



「骸様、よかったですね…」

「惚れ薬、怖ぇびょん」

「由夜、可愛い…、あれ、骸様、どうしたんですか?」

「え…、あ、あの……」

「由夜より顔、赤いですよ」

「し、仕方ないじゃないですか!由夜がす、好きと僕に…!!」

『骸……』

「は、はい?今度はどうしました…?」

『骸は、私のこと…どう思ってる…?』

「…ー…っ」



僕の制服の裾を控えめに握って潤んだ瞳で見つめる由夜。
きゅっと唇を噛み締めて思い切ったように僕へ抱き着く。

これは反則でしょう…!!
あぁ、心臓が今までになく煩いです…!!



「あ…、その、由夜…」

『私は、骸のこと、こんなに好きなのに…』

「由夜、落ち着いてください…!!とりあえず離れて…」

『やだ。』

「…ー…っ!?」

「骸さん、なんれ抱き締め返さないんれすか?」

「は?」

「骸さんの事だから、チャンスとばかりに色々やりそうだなって思ってたんれすけど。…なぁ?」

「うん…」

「……オレも、そう思ってた。」

「……っ」



犬に問い掛けられたクロームと千種は揃って頷く。
千種達は惚れ薬を使ってる間、僕が由夜に色々といけない事をやろうだなんて思ってたんですか、まったく。

……まぁ、正直に言えば、ちょっとくらいは…と思ってましたよ、えぇ、思ってましたよ!悪いですか!

それは、認めます、認めますが…!!



『骸………、好き。』

「く……っ」

『……』



今の無防備無抵抗な由夜に少しでも僕から触れようものなら、R18展開まっしぐらになってしまいますよ…!!

一度、ついキスをしてしまいましたが、いくら僕でも今回ばかりは感情に任せて行動なんてしません。

惚れ薬で作られた感情などいらない。
やはり由夜は由夜のまま、僕を見ていて欲しい。

若干、惜しい気持ちはあるけれど欲望を抑えて僕は由夜を引き離した。



『あ……っ』

「由夜、授業も始まりますし、ここは教室です。席に座って静かにしましょう」

「ひゃーっ骸さん、場所を気にするなんてめっずらしー」

「煩いですよ、犬」

『……っ骸』

「そんな悲しそうな顔をしないでください、効果も長くは続かないですから」

『効果…?』

「えぇ、効果が切れれば元通り、悪い夢を見たとでも思ってください」

「こいつにしてみりゃ、悪夢れすよね、本当」

「犬、後で覚えておきなさい」

「ぎゃん!」

『骸……それじゃ、私、静かにしてる…』

「クフフ、いい子ですね…」

『だから…』

「はい…?」

『一度だけ…』

「……?」

『一度だけ、キス……して』

「………」



僕の前で瞳を閉じる由夜。
夢にまで見た光景に僕はピシリと音を立てて固まる。

たった今、感情に任せて行動しないと決めたばかりなのに、もう決心は折れてしまいそうだ。



「………っ」

『………』

「骸様…」

「骸さん…」

「……、骸様」

「く…!!そんな目で見ないでくださいよ…!!我慢してるんですから…!!」

「まさか、しませんよね…?」

「し、しませんよ…!!」

『して、くれないの…?』

「由夜、落ち着いてください。お願いですから…!」

『……っ』

「唇には…、今はまだ…出来ません」

『何で…?』

「……っ」

『キス……、…いや?』

「…ー…っ君が」

『…ー…?』

「…由夜が大切だからですよ」

『大、切…?……骸?』

「えぇ、ですから…」

『……』

「由夜……」

『…ー…っ』



額にかかる髪を撫でて瞼へとキスを落とした。
唇を離すと、驚いたように目を丸くさせて僕を見ていた。



「今度は唇にちゃんとしたいものです」

『……』

「やはり由夜はツンツンしてるのが調度いいですね…」

『……骸』

「どうしました、キスなら今ので我慢してくださいよ?クフフ…」



もう一度、柔らかな髪を撫でようとしたら、ぺしっと叩かれる。
気がつけば由夜の手にはトンファーが握られていた。



「ま、まさか……」

「由夜…」

「元に戻った……」

「みたいれすねー、ひゃーっ」

『骸、今、何を……っ』

「ち、違いますよ、由夜がキスして欲しいと言ったもので…!!」

『それは、あんたの妄想でしょ…!!何が今度は唇に、よ…!』

「待…っ」

『咬み殺してあげる…!!』

「……ッ!!」



お決まりの如く、由夜の容赦ない攻撃を喰らった。
目眩がする意識の中で、いつもの由夜に安心した僕がいた。



「く…っやはり君はツンデレでないと…!!」

『ツンデレじゃないって言ってるでしょ…!!』



end



2009/06/15

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