「はは…っ、お、おはようございます、雲雀さん…」

「……今朝は随分と早いようだね」

「え?えぇ…まぁ……」

『そうなんですよ!ツナってばいつもは起こしても起きないのに、今日は自分で起きたんですよ!』

「へぇ、いつもね…」

『そうなんです!いつもこうだといいんですけどね!ねっ、ツナ!』

「……っ」



今の奈都姉と雲雀さんの会話、成り立っているようで成り立ってないよ!

雲雀さんの「へぇ、いつもね…」は「毎朝、ぐずぐずしているんだ」って意味で奈都姉に言ったんじゃない。
絶対に「いつも奈都に起こしてもらってるんだ?」って、オレに言った言葉だ。

その証拠に視線がすごく痛い…!!
遠慮なしにブスブス突き刺さってくる…!!



『ツナ、聞いてる?』

「……っ」

『おーい…、ツナー?』



奈都姉はオレを見てるから雲雀さんの視線に気付かない。
オレと手を繋いだまま雲雀さんと普通に話を続けている。

あぁ、この視線に気付かないなんて…!!

いや、気付かないというよりかは、もう慣れてるから気にならないのかな…っ!?



『あ…、そろそろ、応接室に行きます?』

「…そうだね」

『じゃあ、昨日の書類整理の続きしちゃいましょうか』

「あぁ。それじゃ行こうか」

『はーい!』

「……じゃあね、沢田綱吉」

「あっ!は、はい…」

『また、教室でね!』

「う、うん!奈都姉……」



そっと離された手。
ポツーンと一人、残されたオレは二人の後ろ姿を見つめる。
うわぁ、雲雀さんの横顔、めちゃくちゃ優しくない!?

それに、群れてたのに咬み殺されなかった奇跡!!
未だかつて、こんな事なかったよ!!



「…って、感動してる場合じゃない!」



雲雀さん、奈都姉の事を気に入ってるっていうか、好きだろー!?

奈都姉と雲雀さん。
話がぶっ飛びすぎるけど義兄さんとかになったら嫌だ、絶対に嫌だ…!!
そう思っても二人の間に割って入る事は出来ない。

だって、雲雀さんだよ!?いくらなんでも相手が悪すぎる…!!
だけど、このまま二人でいられるのも耐えられない。
何か話題はないものか、早くしないと二人の姿が見えなくなっちゃうよ!



「ま、待ってください、雲雀さん!」

「……?」

『ツナ、どうしたの?』

「え、えっとー…」

「何か用かい」



オレの声に立ち止まってくれた雲雀さん。
奈都姉に向ける顔とは大違いな仏頂面で振り向いた。

何か用かと聞かれて言葉が詰まる。
思わず引き止めちゃったけど何かないか、何か!

奈都姉をかけてオレと勝負して下さい!
…なんて言ったらガチバトルになってオレ、咬み殺される…!!

オレも風紀委員に入れて下さい!
……なーんて言ったら、この先の学校生活、とんでもない事になりそうだし…!!

ぐるぐると頭の中で話題を探す。
数秒、考え込んで、この間の事が浮かんだ。



「あ、あの!」

「…だから、何。君と違って忙しいんだけど」

「奈都姉のことなんですけど」

「言うならさっさと言って」

「……!」



意外と聞いてくれるもんなんだな、雲雀さん。
奈都姉のことだからだろうけど。

オレは急いで上履きに履き替えて奈都姉達の傍に寄った。



『私の事?何の話?』

「ほら!この間!」

『この間って?』

「制服、ボロボロで雲雀さんと帰ってきただろ!?あの時の事を詳しく聞きたくて」

『あー…、あの変態…』

「だから、その変態って一体、誰なんだよ!」

『名前とか知らないよ、とにかく変な人だった』

「……と、こんな風に奈都姉に聞いても変態としか教えてくれなくて一体、誰なのかなって」



雲雀さんなら誰か知ってるかな、と思ったんです。
そう言葉を続けて雲雀さんに視線を移すと、その時の様子を思い出しているのか、めちゃくちゃ不愉快そうな顔をしていた。



「あ、あのー…?」

「それを聞いてどうするんだい。あいつは僕が殺る」

「殺…っ!?いや、だから、誰なのかと気になっちゃって…」

「六道骸」

「へぇ、六道むく……、え?」

『あの変態、六道骸っていうんだ』

「覚えなくていいし呼ばなくていいよ、変態のままでいい」

「……って、骸!?骸って、あの骸ですか!?何で骸が奈都姉を狙うんですか!?」

「骸骸連呼しないでよ、朝から気分が悪くなる」

「ひぃぃ、ごめんなさい!でも、何で…!?」

「知らない」

『あ…』

「ど、どうしたの、奈都姉!」

『本当は私じゃなくてツナが欲しいって言ってたんだよ、あの変態!』

「は……?」

『いい?ツナ!近づいちゃだめだからね』

「いやいやいや、近づかないけど!大体、欲しいって何が…!?」

『だから、ツナの身体が』

「あいつ、まだ狙ってたのか……」

『……まだ狙ってたのかってどういう意味?』

「え?」

『まさか、ツナ、前もあの変態に襲われたの!?』

「う、うん……って言っても、まぁ、何とか助かったけど」

『…っ女の子だけじゃなくて男の子まで狙うなんて本当、信じられない!』

「へ……?」



いやいやいや、何だか奈都姉、盛大に勘違いしてない!?
狙うと襲うの意味が違う気がするんだけどーっ!!

オレの話なんて聞く耳を持たず、奈都姉はゴゴゴゴゴ…、と背後に怒りの炎を燃やしている。

……あれ?
この後ろの炎はイメージ的な演出だよな?死ぬ気の炎じゃないよな…っ!?

色々とツッコミしたい。
でも、とてもじゃないけど話しかけられる雰囲気じゃなかった。

闘志を燃やす、そんな奈都姉を見て雲雀さんは深いため息をついてオレに話しかけてきた。



「ねぇ、沢田綱吉」

「は、はい…」

「奈都、襲われた時に君の事が世界一、大切だって叫んでたよ」

「は…っ!?」

「いつか僕だって言わせてみせるから」



不敵に笑う雲雀さん。
その言葉にオレはピシっと固まってしまう。
"いつか僕だって言わせてみせるから"って、もしかしなくても、そういう意味だよな!?



「雲雀さん、それって…」

「そのままの意味さ。」

「……っ」

「その顔…、まさか君も"奈都が世界一大切だ"とか叫ぶつもりかい」

「そ、それは…」



というか、もう既に「奈都はオレのだー!」とか教室で叫んでシスコンだって広まってるけどね!!

口角を上げる雲雀さんをオレはただ見つめる事しか出来ない。
数秒間の沈黙が続く。

その沈黙を破ったのは雲雀さんだった。



「今から義兄さんって呼んでも構わないけど?」

「な…っ何、言ってるんですか!」

「仕方ないから君なら許してあげる」

「雲雀さんでも冗談を言うんですね、はは……」

『雲雀先輩、今のって…』

「ワォ、聞いていたのかい」

『そりゃ聞こえますよ!』

「散々、打倒変態って一人で燃えてたくせに」

『あはは…、思い出したらつい、ムカついちゃって!で、雲雀先輩!今の言葉!』

「ん…?」

「あぁっ、奈都姉!気にしなくていいから!」

『実は雲雀先輩も弟とか妹、欲しかったんですか!?』

「……、…はぁ。」

「奈都姉……」

『えっ、だってそうでしょ!?兄さんって呼んでもいいだなんて!……あぁ!』

「今度は何だい?」

『だめですよ!いくら弟が欲しくても、うちのツナは渡しませんからね!』

「……何で君にライバル宣言されなきゃいけないのさ」



呆れつつも奈都姉と話す雲雀さんの横顔は優しかった。

心配はあるけど、この様子なら恋人になるまで、まだまだまだまだ道のりは長そうだ。

一先ずは安心……かな?

「先輩と後輩」止まりで進展が少しもなさそうな二人を見てほっとして自然と頬が緩んだ。



「ちょっと、沢田綱吉。」

「は、はい!?」

「何で笑ってるんだい」

「えっ、いや、その…っ別に意味は何も……」

「咬み殺すよ」

「ひぃぃーっ!あ、でも、雲雀さん!」

「遺言なら聞いてあげる」

「奈都姉が見てますよ」

「…ー…!」



奈都姉の視線を感じたのかピタリと止まる雲雀さん。

オレを鋭い瞳で睨み数秒考えると、構えていたトンファーをゆっくりと下ろした。

おぉ、第二の奇跡きたー!!



「そ、それじゃオレはこれで…引き止めちゃってすみません…」

「…さっさと行きなよ」

『じゃあ、ツナ!後でねー!変態についていかないように!』

「並中に六道骸がいる訳ないだろー!!」



雲雀さんの気が変わらないうちにオレは自分の教室へと向かう。

でも、まさか、あの雲雀さんにライバル宣言されるとは思ってなかった。

というか実の弟のオレにライバル宣言をするとは雲雀さんも思ってなかっただろうな。



「……」



雲雀さんが嫉妬する程、奈都姉にとってオレは"大切"なんだ。

そう思ったら足取りが軽く、弾んだ。



end



2011/5/29
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