あー、今日は本当に遅くなっちゃった。
お腹もぺこぺこ!今日のご飯は何かなー!

ご飯の前にイーピンちゃんとお風呂に入ろうかな?
で、お風呂あがりには買っておいたアイスを食べよう!

そんな事を考えながら歩いていると、行く先に誰かがいるのが見えた。
誰かを待っているようにポツンと立っている。



「……」

『………?』



もしかして雲雀先輩が言っていた変質者?
帰る直前にそんな事を聞いてしまったから何となく身構えてしまう。
ちょっと不安に思いつつ、その人を横目でチラッと見る。

長身で制服を着ている学生。
学生が変質者の訳ないか、ほっとして通り過ぎた。

けれど、二歩三歩、離れた時、後ろから声をかけられる。



『…はい?私、ですか?』

「えぇ、貴女です。すみませんが少し……お時間は取らせませんので」

『……?』



声をかけて来たのはもちろん、先ほど立っていた青年。
私に近づいて来て電柱の明かりに照らされれば顔がはっきりと見えた。

赤と青の瞳。
整った顔立ちにはうっすらと気味の悪い笑みを浮かべている。
何となくだけど嫌な予感がして背筋にぞくっと悪寒が走る。



『な、何か用ですか?駅なら反対方向ですよ』

「いえ、道を尋ねたい訳ではありません」

『……?』

「沢田奈都、貴女で間違いありませんね?」

『そうですけど、……って、えぇっ!?』

「クフフ……!!」

『わ…っ、…ー…ッ』



近づいて話しかけて来たと思ったら槍のようなものを振りかざした青年。
とっさに避けるけれど髪の毛に掠って数本はらりと地面へと落ちる。

いきなり、何なの、この人!?



「中々、反射神経がよろしいようで」

『あ、あなたは……っ』

「何、少々、君の身体に興味がありましてね…」

『……は?』

「君の身体が欲しいんですよ、クフフ…」

『な……っ』



目を細めて怪しく微笑む青年。
手に入れたいとか身体に興味があるって、どういう事…っ!?

もしかしなくても、この人が雲雀先輩の言ってた変質者っ!?
パッと見や口調は丁寧で紳士なのに変態!?

ど、どうしよう!?
相手は武器も持っているし倒せる訳ない…っ!!



「さぁ、君の身体を僕にください…」

『……っ』

「クフフ、逃がしませんよ、それに逃げるのはお勧め出来ませんねぇ」

『えっ!?』

「痛い思いはしたくないでしょう、出来れば君は無傷で手に入れたい。」

『…ー…っ!?』



槍で何度も何度も私を狙う。
何とかギリギリ避けて家へと走り出す。
その槍で刺して私をどうする気なの、この人ーっ!!



「クフフ、僕の攻撃を何度も避けるなんて中々、楽しませてくれる」

『ひぃ…っ』

「気に入りましたよ、沢田奈都」

『気に入らなくていいからぁぁぁ!!来ないでーっ!!』

「クフフ…っ」



大人しく雲雀先輩に送ってもらえばよかった!
でも、雲雀先輩を遠回りさせるなんて恐れ多いし…!

ここで何かあったら後でなんて言われるか………いや、何かあってたまるかぁぁー!!

気合いだけは十分、後ろも見ずに一直線で走る。

だけど、気合いも虚しく追いつかれて再び槍で攻撃された。
後ろからの攻撃を何とか避けたもののセーラー服やスカートの裾が破れてしまった。



『……っ』

「おやおや、いい格好ではありませんか」

『な、何でこんな事……っ』

「君を手に入れたいからですよ、そう何度も言わせないでください」

『……っ』

「本当は沢田綱吉が欲しいのですが今は君で我慢する事にします、クフフ、姉の姿ならば沢田綱吉にも隙ができー…」

『ちょっと待って。今なんて?』

「はい……?」

『弟を……ツナを知っているんですか?』

「えぇ、彼はいずれは僕の物になるんですよ、心も身体もね。クフフ…」

『な……っ』



そ、それってどういう意味!?
この変態、ツナを狙ってるの!?ツナが本当の狙い!?

というか女の子だけじゃなく男の子まで狙うとはどんだけ変態なのよ!

クフフと笑っている目の前の変態を見ていると怒りが沸いてきた。
ぎゅっと拳を握れば感情の高ぶりから震えてしまう。

そんな私の様子を見て彼は近づいて囁く。



「大人しくなりましたね、…あぁ、恐怖から声も出ませんか」

『………』

「クフフ、さぁ、沢田綱吉の前にまずは君を頂くことにしましょう」

『…ー…でっ』

「おや……?」

『うちのツナに近づかないで…!!この、変態…っ!!』

「な……っ」



変態の武器が肌に触れる前に一歩下がって回し蹴り。
暴力なんて嫌いだけど、本当に蹴るつもりだったのに変態には当たらなかった。



『……っ』

「おやおや、怖いですねぇ。そんなに弟が大切ですか」

『世界一大切に決まってるでしょ!あんたみたいな変質者にツナを渡さないから!』

「変質者…?」

『最近、並盛中周辺に出る変質者ってあんたの事でしょ!?』

「失礼な。僕は変質者などではありませんよ」

『ツナや私の身体が欲しいとか言ってたじゃない!変態!』

「変態とは随分な言われようではないですか」

『自業自得よ!女の子だけじゃ飽き足らず同性まで狙うなんて!!』



キッと睨んで捲くし立てると変態はぽかんとしている。
そして私の言っている事を数秒してやっと気がついたのか慌てて弁解し始めた。



「ち、違いますよ!僕にそんな趣味ありません!」

『今更、何を言ってるんですか!ツナの身体が欲しいとか言ってたでしょう…っ!!』

「た、確かに欲しいとは言いましたが、そういう意味ではありません、僕は…っ!!」

『そういう意味の他に一体、どういう意味があるって言うのよ…っ!!』

「つ、つまりですね、この槍で傷つければ僕との契約が成立してー…」

『契約!?何、意味が分からない事を言ってるの!?とにかくー…』

「奈都、伏せて」

『え…っ!?』

「な……ッ」



暗闇を切り裂いて現れたのは雲雀先輩。
変態目掛けてトンファーで殴りかかった。
雲雀先輩の攻撃をもろに当たった変態はふらついて私達を見ている。



「く…っ、雲雀恭弥…!!」

『雲雀先輩!?何でここに…っ』

「見回りだよ。騒がしいから来てみたら変質者って君の事だったんだね」

「君といい沢田奈都といい、何故、この僕を変質者扱いするんですか…!!」

「奈都の裂かれた制服が何よりの証拠だよ。」

『それに、あんたがツナが欲しいって言うからでしょ!』

「……へぇ、沢田綱吉をね。そういう趣味だったんだ」

「雲雀恭弥…!君は意味を理解した上でわざとそう言ってますよね!?僕にそんな趣味ないです…!!」

「人それぞれだから別にいいんじゃない。僕の目が届かない場所にいればどうでもいいよ」

『うちのツナは渡さないんだから!』

「ク……ッ!君達、少しは人の話を聞きなさい」

「咬み殺す」

「…ー…っ今日の所は引き下がることにしましょう」

『あ……』



顔を屈辱的に歪ませてジャンプしたかと思ったら屋根に飛び乗り走り去った。

あの変態って一体、何者なの!?
彼の消えていった方を呆然と見ていると肩に雲雀先輩の手が触れる。



『雲雀先輩?』

「これ、着なよ」

『学ラン…?』

「そんな格好で帰るつもりかい」

『え……?あーっ!?』



自分の格好を見てみると胸元やスカートの際どい部分が裂かれてあった。
下着が見えそうなんだけど…!!

目線を逸らして学ランを貸してくれた雲雀先輩。
私は慌てて学ランに袖を通した。



『あ、ありがとうございます、雲雀先輩』

「いいよ、これくらい。怪我はないね」

『は、はい……』

「ん…?どうかした?」

『えっ!いや、あのー…』

「何?」

『私が着るとやっぱり大きいんだなぁと思って…』

「当たり前でしょ。僕は男なんだから。」

『私とツナはそんなに変わらないですから、なんか変な感じ…』

「……、帰るよ」

『あ……っ』



学ランの袖から手が出ない私。
そんな私の手を布越しに掴んで雲雀先輩は歩き出す。

もしかして送ってくれるのかな?
後姿を見てドキドキして少し息が苦しい。

手をピクンと動かしたら雲雀先輩は控えめに握り返してくれた。



『…ー…ありがとう、ございます。雲雀先輩。』

「……、別に。」

『………』

「……ねぇ、奈都」

『はい?』

「………」

『雲雀先輩?』

「……」

『どうしたんですか…?』

「……何でもない」

『……?』

「……(どうしたら君の一番、大切になれるか、なんて聞ける訳ないじゃない)」

『………変な雲雀先輩』

「弟が世界一大切な君も十分、変だと思うけど」

『大切なものは大切なんです!!って!き、聞いてたんですか!?』

「あれだけ大声で叫んだら聞こえるよ」

『う……っ』



雲雀先輩との帰り道。
ゆっくり話しながら歩いて、家まで送ってもらった。
ツナが出迎えてくれたけど顔を青くさせて色んな意味で驚いていた。



「んなーっ!?(何でそんなにボロボロなの!?そんでもって何故、雲雀さんと仲良くご帰宅ー!?)」

「沢田綱吉、煩いよ」

「ひぃぃ、す、すみません…!!というか、奈都姉!だ、大丈夫!?」

『平気、平気!』

「誰がそんな事…っ」

『ちょっと変態に襲われちゃってさ!』

「変態!?ちょっ、どこのどいつだよ!奈都姉を襲うなんて…!!」

『というかツナ!ツナこそ気をつけてよね!?』

「何でオレが!?気をつけるのは奈都姉だろ!?」

『ツナが欲しいって言ってたもん、あの変態!!』

「一体、何の話ーっ!?」

「煩い。何度、言わせるんだい。」

「す、すみません…!!あ、あの!奈都姉を送ってくれてありがとうございました!!」

「君に礼を言われる筋合いはないよ…、そろそろ僕も帰る。じゃあね、奈都」

『あ、はい!ありがとうございました、雲雀先輩!』

「……」



玄関先でお辞儀をすれば雲雀先輩はふっと笑って来た道を戻る。
その背中が見えなくなるまで私とツナは見つめる。

そして異様な空気が流れる。
これは絶対に私とツナが思っている事が同じような気がする。



『ねぇ、ツナ』

「ねぇ、奈都姉」

『…ツナから言って』

「せーので言おうよ…」

『うん…』



せーので言った言葉。

"雲雀(先輩)さん学校の方角に帰って行ったよね"

見事にハモって私とツナは顔を見合わせクスクス笑った。



『ねー』

「ははっ、やっぱり思った?」

『うん。帰るって言ってたけど、そういえば手ぶらだったよね。鞄とか必要ないのかな』

「学校に住んでるって訳じゃないよね?」

『それはないと、思う…けど、バイクで登校してるの見たし、いくらなんでも…』

「ははっ、だよなー!学校好きとは言え、いくらなんでも学校に住んでるなんて……」

『う、うん……』

「……」



もしかしたら学校に住んでるのかも?
そう、お互いに思ったけど、ありえそうでとても口には出せない私達だった。



『……(あ…)』



雲雀先輩と繋いでいた手はぽかぽかと暖まっている。
その温もりを逃がさないようにぎゅっと握って綺麗な星空を眺めていた。

雲雀恭弥先輩。
謎だらけな先輩だけど助けてくれて送ってくれた優しい人。



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2010/3/14
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