そろそろ八時。
ツナと獄寺君はまだ来ない。
まさか遅刻だってりして?

服装検査があるから早く起きて学校に来てよって念入りに言っておいたのに!



『大丈夫かな、ツナ、獄寺君も…』

「……」

『そろそろ来てもいいと思うのに』

「……ねぇ」

『あっ、はい!どうしました?』

「どうしましたか、じゃないよ。ぶつぶつと煩い。」

『す、すみません…っ』



ギロッと睨まれれば、この場が凍りついた。
生徒達は雲雀先輩に目をつけられないように体を小さくしている。

な、何だか、すごく機嫌が悪いような…!!
もしかして生徒の群れを見て、苛々してきたのかな!?



『雲雀先輩!』

「……何」

『いくら群れてても登校中なんですから問題ない生徒をトンファーで殴るなんてだめですよ!』

「……何、言ってるの、君」

『え…っ?群れを見て苛々してたんじゃ?』

「別に。」

『違うんですか?』

「……」

『雲雀先輩?』

「……、…君が」

『私が?』

「……、何でもない」

『なっ!?気になるじゃないですか!最後まで言ってください!』

「……、奈都がわざわざ、山本武のネクタイを結ばなくていいんじゃないの」

『え?』

「………」



むすっとして私を見ている雲雀先輩は、まるで子供が機嫌を損ねてしまったみたい。
普段は怖いのに今の表情は幼くて子供っぽくて可愛い。

さっきから機嫌が悪かった理由が分かって、くすくすと笑うと雲雀先輩は口をへの字に曲げた。



「何で笑うかな」

『だ、だって可愛かったから』

「可愛い?」

『ふふっ、はい!何だか弟みたいで!』

「……弟」

『あ……、ほっ、褒め言葉!褒め言葉ですよ!?』

「弟って言われて喜ぶ男がいるとでも?気に入らないな」

『ひっ、雲雀先輩?』



仮にも先輩に弟はまずかった!
でも、本当に可愛かったから素直に出てしまった言葉。
鋭くなった瞳に見つめられて私は冷や汗がダラダラ。

ど、どうしよう!



『えーっと、弟と言えば雲雀先輩ってご兄弟は…?』

「さぁね」

『いるか、いないかくらい教えてくれても…っ』

「知らない」

『……』



いつから孤高の人やってるの、雲雀先輩ーッ!!
いや、もしかしてお兄さんお姉さんいたとして、雲雀先輩みたいな感じだったら弟なんて「知らない」の一言で片付けてしまいそう。

何を話しても機嫌の直らない雲雀先輩。
私はさらに冷や汗を垂らしていると、こちらに走って来るツナと獄寺君の姿が見えた。



「ひぃぃ、遅刻ーッ!!」

「十代目!早く行きましょう!あっ、奈都さーん!!おはようございますー!!」

『ツナ!獄寺君!』

「……」



時計を見ると遅刻ギリギリの時刻。
何とか校門まで辿り着いてツナはしゃがみ込んで息を整えていた。



『ツナ!あれ程、よく言っておいたのに!」

「う……」

「いつも私が起こすと思ったら大間違いなんだから!』

「だ、だって…っ」

『言い訳しない!あぁ、もう!ネクタイ、ちゃんと結ぶ!』

「だ、大丈夫だよ、これくらい!」

『だーめ!ほら、立って!』

「は、はいぃぃ!!」



ツナを立たせて私はネクタイを結び直した。
ビシッとしたネクタイを見ると気分が良くなる。
鞄の中身もチェックしてツナは完璧だ!



『雲雀先輩!ツナはこれで問題ないですよね?』

「……」

「ひ、雲雀さん…」

「…んだよ、雲雀。十代目に文句あんのか、あ゛ぁ?」

「問題は君だよ、獄寺隼人」

「はぁ?」

『た、確かに。ネクタイしてないしアクセサリー類……あ、鞄の中を見せて、獄寺君』

「いいっスけど…」

『煙草に……、ん?世界の謎の不思議って?』

「雑誌っス!貸しますよ!よかったら奈都さんも読んでください!」

『あ、ありがと、だけどね…』

「なんスか?」

「全部、没収ね」

「なっ!ふざけんな、雲雀!」

「学校に持ち込み禁止のものだよ。生徒手帳にも書いてある。制服もちゃんと着て。」

「だったら、てめぇなんて学ランじゃねぇかよ」

「知らないのかい。並中の制服は以前は学ランだったんだ。問題ない。」

「んな事、知る訳ねぇだろうが!大体、今はちげぇだろうが!屁理屈、言うんじゃねぇ!」

「草壁。」

「はい、委員長。獄寺隼人、全て没収だ」

「……ッ」

『獄寺君!ここは抑えて抑えて!ほら、ツナも言って!』

「あ…、う、うん!獄寺君、今は仕方ないよ!」

「う……、お、お二人がそう仰るなら…!!」

「……」



後でこっそり持って来てあげるね、そう耳打ちすると獄寺君は納得してくれた。
二人の後姿を見送ると、もう生徒の姿は見当たらない。
どうやらツナ達が最後だったみたい。



『これで終わりですね!雲雀先輩!』

「……」

『こ、今度はどうしたんですか…?』

「沢田綱吉とはどういう関係なんだい」

『…はい?』

「……随分と親しいようだけど」

『あのー…』

「何?」

『ツナは私の姉弟って言いませんでしたっけ…?』

「は……?」

『私とツナ、双子なんです!私が姉です!』

「聞いてないんだけど…」

『苗字が同じじゃないですか!気付きませんでした?』

「別に特別、変わった姓じゃないでしょ」

『そっ、それはそう、ですけど!』

「ふぅん、姉弟ね……」

『ツナは私の特別なんです!いつもほとんど一緒なんですよ』

「…ふぅん。群れてるんだ。風紀委員なのに。」

『あ……』

「罰として明日は朝から書類整理だから。」

『そ、そんなーっ!!』

「行くよ…」



ふっと笑って校舎へと入る雲雀先輩の後を追いかける。
こうして一応、無事に初めての風紀委員らしい仕事は終わった。


***


次の日の朝、書類整理をするため、ちゃんと応接室へとやって来た私。
今日も朝早く来たからツナが起きられるか心配だけど雲雀先輩の命令には逆らえない。



「ワォ、早いね」

『あ、おはようございますー…って、えぇ!?』

「何」

『何って、雲雀先輩、その格好…』



雲雀先輩の格好。
昨日は学ランだったのに今日はみんなと同様にベストを着ていた。
腕の腕章以外は他の生徒と変わりない。



『ど、どうしたんですか?学ランの予備がなかったんですか!?』

「今日はこういう気分だったからね。別に獄寺隼人の言葉が癪に障った訳じゃないから。」

『あ……』

「どうしたんだい」

『ネクタイしてないじゃないですか!雲雀先輩もネクタイを結ぶの苦手なんですか!?』

「……、…まぁね」

『ネクタイ、貸してください!失礼します…』

「……っ」

『こうやって、…こうして!……出来た!』

「……ありがと。明日も頼むよ」

『私でよければ!』

「……」



昨日とは違い機嫌が良い雲雀先輩に安心した。
授業が始まるまでの少しの時間、雲雀先輩はのんびりしていて私は隣に座って書類整理をした。

もうそろそろヒバードが起きてくるね、なんて話をしながら。



end



2009/10/11

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