『可愛いでしょ、ヒバード!』 ≪ナツノホウガカワイイッ≫ 『あはは、くすぐったい』 「な……っ」 ≪ナツスキッ≫ バーズの鳥、改めヒバード。 何で愛を囁いてるんだよっ! しかも肩に乗っかって頬にちゅっと口ばしでキスしてる。 無邪気な少女と小鳥。 パッと見はそりゃあ、もう微笑ましい光景。 なんだけど。 「鳥の分際で奈都さんにベタベタしすぎだろ…!!」 「口ばし結構、痛いのな。つか今、あの鳥がしてる事の方がセクハラだろ」 「奈都姉にべったり…」 何なんだよ、この鳥。 本当に鳥なのか?疑わしく見つめているとヒバードもオレ達を見た。 「……!!」 え、何、その顔!! いいだろーみたいな!何かオレ達の事、馬鹿にしてないか!? 絶対に、ふふん!って笑ってるよ!!その表情! 「奈都姉!黒いよ、その鳥!」 『何、言ってんの、黄色だよ』 「…………」 『ねー!』 ≪ヒバードキイロッ!!クロクナーイッ≫ 「………」 そ、そうじゃないよ! 違う、違うんだよ…!オレは鳥の色云々を言ってるんじゃなくて! 黒いっていうのは性格というか…!! ≪……≫ 「う……」 あぁ、だめだ、どこからどう見てもあの鳥、オレを見てフッと笑っているように見えてしまう。 いや、見えるというか明らかにふふんと笑ってる。 そもそも、この鳥にはいい思い出がないからか、どうにも可愛いと思えない!! 「十代目!オレに任せてください!」 「えっ?」 「奈都さん!ちょっとヒバード、貸して下さいっス」 『えっ?別にいいけど……」 ≪……?≫ 「よし、来い」 奈都姉の指にちょんと乗ったヒバードを獄寺君へと移す。 あれ…?何かヒバード、獄寺君の指に素直に移ったな。 そう思った矢先、ヒバードは獄寺君の指をグサッと突っついた。 「いてーっ!!」 「フェイント攻撃ーっ!?」 『あ!ま、また…!!』 ≪ヒバード、ナツガイイッ≫ 「こ、この野郎…!!」 獄寺君の指に移ったと同時に口ばし攻撃。 そして、ツンとした顔で奈都姉の元へと戻っていった。 『獄寺君、ごめんね…!大丈夫!?』 「だ、大丈夫っス、これくらい……!!」 眉間に皺を寄せて苦笑いの獄寺君。 後ろに隠している手はダイナマイトをギリギリと握ってる。 どうやら今すぐにでもダイナマイトでふっ飛ばしたい気分なのに奈都姉の手前、出来ず我慢しているらしい。 『もう!だめでしょ、ヒバード!山本君と獄寺君に謝って?』 「その鳥が謝る訳ないっスよ」 ≪ゴメンネッ?≫ 「んなーっ!?素直に謝ったーっ!?」 『よしっ!偉いよ、ヒバード!』 ≪ヒバード、イイコッ!?≫ 『うん、いい子いい子!』 「……」 あぁ、山本と獄寺君がすごく煮え切らない顔してる…!! そりゃそうだよね、奈都姉の前ではあんなに素直で可愛い鳥なんだもんな…!! 「十代目、何なんですか、あの鳥は!鳥のくせに猫を被ってますよ…!!」 「ただの鳥なのに鳥って感じしねぇよな…」 「やっぱバーズに育てられたから、それなりにずる賢いんじゃないかな…」 動物って飼い主によく似るって言うしね! オレ達をからかうスキルは早くも奈都姉から学んだんじゃないかってくらいだよ!! 「バーズの後に飼われたのが雲雀だから今の攻撃性を身につけたんでしょうか…」 「だろうね、はは…。ねぇ、奈都姉、その鳥、もしかしてうちで飼うつもり?」 『ううん。夜は応接室の小屋で寝るらしいから学校にいる昼間だけだよ。仕事中に騒いで煩いから面倒を見てって言われたの』 「そ、そっか。ならよかった…」 あんな鳥が家に居座ったら、たまったもんじゃないもんな!! 見張られてる気分で落ち着かないよ! 『ねぇ、それよりも、ツナは鳥が苦手なの?』 「えっ、何で!?」 『さっきから触ろうとしないし』 「だ、だって、突っつかれるの嫌じゃん!」 『大丈夫だよ』 「大丈夫じゃないってー!!うわぁ!近づけないでぇぇ!!」 おろおろするオレを見て奈都姉はヒバードをオレに向ける。 ヒバードは黒くクリクリした、円らな目でオレをじっと見る。 こんな小さな鳥に見つめられているだけなのに、まるで見定めているかのような視線はオレを緊張させるには十分すぎる程だった。 『ヒバード!私の双子の弟のツナだよ』 ≪オトウトッ!?≫ 『そう、弟!分かる?』 ≪ツナ、ナツノオトウトッ≫ 『ほら、ツナ!大丈夫だから、…ね?』 「十代目を突っついたらタダじゃおかねぇぞ」 「結構、痛いもんな。気をつけろよ、ツナ」 「え……」 な、何!?何で!? 何でオレがヒバードに触らなきゃいけない流れになってるんだよ!? 「ま、待って!無理無理!突かれるって!嫌だよ!」 『大丈夫だから!可愛いよ!』 「で、でも!!」 『ヒバード、ツナのところに行って?』 ヒバードは奈都姉の言う事を理解しているようで指から離れてオレに向かってきた。 あぁ、来る! 黄色い悪魔がオレの方にぱたぱた飛んでくる…!! 「ひぃぃ…!!」 ≪……≫ 突かれるなんて嫌だーっ!! ばっと腕でガードすると何秒経っても痛みがこない。 ヒバードはどこへ行ったのかと思ったらオレの肩にちょこんと乗っかっていた。 「さすがっス!!十代目!!」 「ツナは気に入られたのな!すごいじゃねぇか!」 『ね!大丈夫って言ったでしょ!』 「えっ?な、何で…!?」 ≪……≫ さっきは憎たらしい顔してオレを見てたのに、この変わりようは何なんだ!? まさか、オレが奈都姉の弟だから!? 本当、調子がいいな、この鳥! 「は…、はは…っ」 ≪……≫ 緊張していた分、身体の力が一気に抜けてしまう。 こうやって静かにしてると普通の鳥じゃん。 触っても素直に撫でられてるし。 こんなに静かなら、普通に可愛いかもしれない。 『可愛いでしょ!』 「う、うん……」 ≪ツナ、ナツノオトウトッアンゼンッ!!≫ 「へ……」 何て言ったんだ、今? 不思議に思い、肩に乗っているヒバードを見ると、さっきみたいにニヤリと笑っているように見えてしまった。 『何を言ってるの、ヒバード』 「安全って?」 ≪ゴクデラッヤマモトッナツネラウッ≫ 「は…?」 「なーっ!!」 「え…?」 す、鋭い!! 只者じゃないよ、この鳥!! というか、やっぱり獄寺君たち奈都姉を狙ってるの!? あれ…?でも、だったらオレは安全って一体、どういう意味なんだ? ≪ツナッナツノオトウトッシンパイナイッ≫ 「………」 鳥に安全パイだと見做されてる…!! オレは弟だから別にいいと!?そういう事!? 『何を言ってるの?というかツナ、真っ白になってるけど大丈夫!?』 「は、はは…、弟でもオレだって男なんだけ、ど…」 『……?』 「…ー…ッ」 奈都姉は絶対に渡さない。 獄寺君や山本はもちろん、雲雀さんにだって! こんな鳥なら、なおさらだ!! あぁ、でも、鳥がライバルになるなんて思ってもみなかったけど! 「……!!」 死ぬ気で奈都姉を守る! 改めて、そう誓った一日だった。 end 2007/07/13 |