***


一ヵ月後
私は再び並盛中学校に訪れていた。

ガラリと開けたのは二年A組の教室の扉。

一ヵ月前には考えられなかった程、すんなりと開けられた。

不思議な事にあの時のように息苦しくない。

クラスメイトの驚いた視線は私に集中するけれど、もう何も感じなかった。



「羽依……!?」

「真白さん…」

「真白、お前……」

「羽依!」

「羽依!あんた、今まで一体…っ」

『………』



山本君、沢田君、獄寺君、京子に花ちゃん。

山本君はすぐに駆け寄ってくれて歓迎してくれた。
沢田君は気まずそうにしていて、その横には気遣うように獄寺君が立っている。

京子は私に抱きついて涙を浮かべ、花ちゃんは私の頭を撫でた。



「並盛病院に行ったけど、何でいきなり他の病院に変えたんだよ…!!」

『あ……』

「新しい病院の場所を聞いたけどプライベートが何たらで教えてくれねぇし…。心配したんだぜ、羽依…!!」

『山本君、私…、ごめんなさい…』

「元気そうでよかった…、本当に…」

「ピンピンしてんじゃねぇか。十代目もずっと待ってたんだぜ。」

『獄寺君…』

「羽依、どうしていなくなっちゃったの…!!傷、大丈夫なの?!」

「そうよ、心配したんだからね!馬鹿っ!」

『京子…、花ちゃん…。もう大丈夫だよ、ありがとう。』



クスッと微笑むと京子は再び抱き締めてきた。

話を聞くと、瀬戸さん、及川さん、黒谷さんは数日前に転校していったらしい。

詳しい事なんて聞く必要ない。

今の私にはもう関係ない事だから。



「あの……、真白、さん…」

『沢田君、どうしたの?』

「オレ……」

『なに?』

「………っ」



今まで溜め込んでいた事を吐き出すように沢田君は話し出した。

だけど、彼の取り繕うような言葉は全て耳に入らない。

肩を震わせて話す沢田君が疎ましく思えた。



『大丈夫だよ、私。』

「真白さん…っ、だって、オレ、酷い事を…!!」

『もういいよ。気にしないで。』

「でも……っ」

『怒ってもないし、恨んでもないよ。』

「……っ」

『ほら、傷も全部、治ったしね…?』

「……ッ真白さん!」



沢田君は安心したように泣き出した。

彼はもう、納得しただろう。

所詮は自分が許されて楽になりたいから、私に謝罪しただけ。



『……』



少し前の私なら、きっと素直に嬉しいと思えた。

けれど、今は捻くれた受け取り方しか出来ない。



大切な骸達の言葉しか、私の心に響かないの。



『………』



あの日、黒谷さんは私を綺麗だと言った。



『…ー…私は綺麗なんかじゃ、ない』

「ん…?羽依、何か言ったか?」

『……』

「羽依?」

『……ううん、何でもないよ。あっ、授業、始まるね?』

「おう!後でたくさん話そうぜ!」

『うん……!』



にっこり微笑んで、私は自分の席に座る。

私の席は一ヶ月前と変わらない山本君の隣。

まずはどうやってボンゴレの次期ボスを探し出そうかと考えていた所、山本君に声をかけられた。



「なぁなぁ、羽依」

『どうしたの?』

「……」

『山本君?』  

「……いや、気のせい、だよな?」

『何が?』

「少し雰囲気が変わった、つーか…」

『そうかな?』

「あぁ、何かあったのか?」

『ううん、別に何も…』

「そうか?何か、違うと思ったんだけどな…」

『………あ』

「どうしたんだ?」

『久しぶりに皆に会えて、嬉しいから…、かな?』

「……!ははっ、そっか!だよな…っ!!」

『うん!それに、また山本君に会えてすごく嬉しい。』

「…ー…っ!」

『………』



思ってた通り。
山本君は以前と変わらず私に接する。

沢田君、獄寺君、京子、花ちゃん、他の皆もこれからは普通に接してくるはず。

真実を知ってクラスメイト達も私に手を出すような事はしない。

雲雀先輩が厄介かも知れないけど大分、探りやすい環境になった。



「十代目!ハンカチを濡らしてきました!どうぞお使い下さい!」

「えっ、い、いいよ!大丈夫だよ…っ」

「ですが、目が腫れてますよ。さぁ、十代目、遠慮せず!」

『………!』



ふと聞こえた沢田君と獄寺君の会話。

前までは特に気にしなかったけれど、今は違う。

獄寺君が沢田君に対する呼び方がどうしても気になってしまう。



『ねぇ、山本君…』

「……?ツナをジッと見て、どうしたんだ?」

『前から気になってたんだ。何で沢田君は獄寺君に十代目って呼ばれてるの?』

「あぁ、それか!オレ達、マフィアごっこしてんだよ。」

『マフィアごっこ?』

「あぁ!ごっこでも結構、本格的なんだよな!羽依も今度、一緒に遊ぼうぜ!」

『………』

「えーっと、なんつー名前だったかな。ゴンゴレ…ボン、ゴレ?とにかくさ!皆で騒いで楽しいぜ!」

『…ー…うん、面白そう!』



特殊な私のスピードに追いついた彼の潜在能力。

獄寺君みたいな人が沢田君に忠誠を誓う理由。

リボーン君はヒットマン。
そんな彼のダメダメな生徒はきっと、沢田君。

全部、つじつまが合う。



マフィア殲滅に必要なのは、きっと沢田綱吉…、あなたなんだね。



『……』



そうでしょ?

未来のボンゴレ「十代目」



『………見つけた』



あぁ、私の中の憎しみの種は育ってしまう。

信じる事は難しいのに、裏切る事は、いとも簡単。



『……』



ねぇ、今度は私の番だよ。

気付かないように、そっと壊してあげる。

苦しめてあげる。



『………』



私は胸元の十字の傷に触れ、教室の窓から空を見た。

蒼いけれど何も感じない。

少し前まで、あれだけ綺麗で輝いていたのに、今では何もかもが色褪せて見えて、私の頬には涙が伝う。







『……』



ねぇ、教えて。

知ってるなら、誰か教えて。

人間って、私って、何でこんなに汚いの?

妬んで裏切って、傷つけ合っても欲はつかない。

綺麗なものなんて脆くて、所詮は一時の幻。



あぁ、憧れた世界はこんなにも醜くかった。












何色かはもう決まってるの。



「羽依、これから楽しくやって行こうな!」

『うん!楽しくなるよね!』

「あぁ!」

『……、…絶対にね』



bad end



加筆修正
2012/03/13


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