*** どのくらい意識を失っていたんだろう? そっと瞳を開けたら、目の前には骸がいた。 同じタイミングで骸もゆっくりと瞳を開けて視線が合った。 『……』 骸、珍しく驚いた顔をしてる。 「……羽依?」 『………』 私たちが眠っていたのは石の床。 外の光は入らず、人工的な光が部屋を控え目に照らしていた。 冷たい床だけど骸が抱き締めてくれていたのか、身体は冷えていない。 「羽依……」 骸は私の存在を確かめるように強く抱き締める。 まだ夢か現実かはっきりしていないのか、私の名前を繰り返し呼んでいた。 「これは夢、でしょうか…」 『……?』 「羽依が傍に、いる…」 『………』 「…ー…温かい」 「骸さんっ!?」 「骸様……っ」 「……!」 犬と千種も眠っていたみたいだったけれど、骸の声に気がついて飛び起きた。 詳しく話を聞くと復讐者の牢獄に入れられて、今日で三日目。 私と骸は互いに寄り添って三日間、ずっと眠り続けたらしい。 『……』 「………」 私がいることが夢じゃないと理解した骸は黙ったまま見つめてる。 まるで怒られているような空気に思わず汗がダラダラして、彼の前で正座をした。 『………』 「……」 『む、骸……』 「僕が…」 『え……っ』 「僕が、君をもっと本気で痛めつけていれば、ここにいませんでしたよね…」 『……?』 「羽依の意識を完全に失わせていれば…」 「骸さん……」 「……」 『む、くろ…』 「……出来なかったんですよ。いざ、君を目の前にしたら躊躇してしまい中途半端な攻撃しか…」 『………』 「余計な痛みを味合わせてしまいましたね…」 『これくらい、大丈夫、だよ…』 「……いい機会だと思ったんです」 『……?いい、機会…?』 私の頬を撫でて、前より短くなった髪を手で掬った骸は哀しそうな瞳をしている。 犬と千種は傍に腰をかけて、骸は私と向かい合う形でゆっくりと語り出した。 「君はフゥ太のランキングを見ましたか?」 『けんかの強さ、ランキング…?』 「そうです」 『それなら見た、よ。そのランキングを元にボンゴレ十代目、ツナくんを探してたんだよ、ね?』 「えぇ……ですが、気づいたんですよ。上位に羽依と関わる者が二人もいることに」 『………』 「フゥ太も君の知り合いでしょう?」 『うん……』 「ランキングを見て、君とボンゴレ十代目が高確率で繋がりがあると感じました」 『……』 「ならばこの先、マフィアを関わる可能性は高い。…いいえ、既に片足を踏み入れてしまっているのと同じと言ってもいいでしょう。」 犬も千種も、私も骸の言葉に静かに耳を傾ける。 骸は私に視線を向けて、その先を話した。 「犬はこう言いました。羽依がマフィアと関わっているのなら、僕らの元に連れ戻そうと」 「だって、それが一番れすよ…!!一緒にいた方がいいに決まってるびょんっ!!」 「犬………」 「…千種は止めました」 『……?』 「言わずとも僕の考えが分かったから、…そうでしょう?」 「どっちみち、こちらの世界に関わるなら…ボンゴレ側の方が安全だと、思う…」 『……っ!』 「今回の敗北は考えていませんでしたよ」 「………」 「君も黒曜に来るだろう…、そう思っていました」 『……』 「僕が勝てばよかったんです。ボンゴレ十代目を手に入れたら羽依は並盛で静かに暮らしていける。」 『………』 「例えマフィアに関わっても僕が沢田綱吉となりボンゴレで守っていける。」 骸は悔しそうに俯く。 数秒の沈黙が流れて顔を上げた骸は辛そうに眉間に皺を寄せていた。 「ですが、ただ負けたとすれば…」 『……?』 「僕らと繋がりがあったとボンゴレ側に漏れてしまう」 『……』 「どう考えても僕らの存在は羽依にとってマイナスにしかなりません。」 『だから、私を復讐の対象だったって言って、たの…?』 「……えぇ」 『………』 「沢田綱吉は君の過去を知ってもなお、仲間だと言い切った。」 『ツナ、くん…』 「……不愉快ですがあの者なら間違いなく君を守ってくれる」 『骸……』 「だから、羽依は僕らを憎み恨んで…嫌ってくれればよかったんです…」 「……」 「沢田綱吉達や君自身を傷つければ、少なからず憎しみが生まれると思ったんですが…」 『………』 痛いですよね。 骸は傷だらけの私を見て、そう言うと溜め息を零した。 「いくら傷を負っても、どんな言葉を突きつけても、君からは殺気も憎しみも感じられませんでした」 『当たり、前だよ…。骸たちを嫌いになる、なんて絶対にない…』 「羽依…」 「だから、バカだって言ってんだびょん!!」 「犬、そればっかり言ってる…」 「柿ピーはそう思わねーのかっ!?何でわざわざ出て来るんだよ…!!」 「犬に馬鹿って言われたらおしまいだね…」 「んだとーっ!?」 「……羽依、傷、見せて」 『あ…っ!?』 「……って!聞けよ!!」 「…めんどい。それよりも手当てしないと。」 「この足の怪我の処置は千種がしてくれたのですか?」 「はい、復讐者がある程度のものは用意してあります…」 『………』 牢屋の鉄格子の小窓には救急箱らしいものと着替えの服が用意されていた。 千種は重い足取りで救急箱と着替えを取りに行く。 「千種、治療が出来るのであれば早く羽依の傷を処置してください」 「本当はもっと早く治療したかったんですが…」 「すぐにでもして下さいよ、まったく。こんなに血が出ていた怪我なんですから。」 「骸様が羽依を抱き締めて離さなかったので治療が出来なかったんです」 「………」 「羽依、まずは着替えて…」 『あ、うん…』 「うん……って!何、普通に着替えようとしてるんだびょん!!羽依!脱ぐな!」 「ちょっと待ってください。ここで着替えるんですか…っ!?」 『えっ?だって……』 「柿ピーも何で普通に着替えを渡してるんだよ!これだからむっつりは油断ならねぇ…!!」 「ですよねぇ。僕もさすがにこの場で脱げだなんて、言いたくても言いませんよ。」 「……骸様、オレは着替えてと言ったんです。脱げだなんて言ってません」 「同じようなものでしょう。いつの間にそんなむっつりに育ってしまったんですか」 「……。オレはちゃんと後ろを向きましたけど、着替え始めようとした羽依を堂々と見てる二人の方に問題があるのでは…?」 「……!!」 「んぁ……!?」 『……?』 「う、うるへー!!い、今、後ろを向こうと思ってたんら!!」 「ほら、犬は早く後ろを向きなさい。」 「骸様も後ろ向いてください」 「……、……はい」 黒曜の出来事なんてなかったかのような、いつものやり取りにほっとする。 千種がいて、犬がいて、骸がいる。 そこに私もいる。 心の片隅で、こんな日はもう来ないかもと思ってしまっていたから嬉しくてたまらない。 『………』 「あの、羽依…」 「骸様、着替えを見ていいですか、なんて聞かないでください。了承を得たとしてもだめなものはだめです…」 「聞きませんよ、失礼な!」 「オレはてっきり僕の目の前で着替えてくださいとか言うと思ったびょん。」 「言いませんよ、失礼な!」 「ツッコミほぼ同じれすね、骸さん」 「お前達が下らないことを言うからですよ!」 『えっと、骸……?な、に…?』 「あ…、その……」 話が逸れてしまったから聞き返すと、骸は続きを話し出した。 私は着替えを一時中断して、そのまま骸の話を聞く。 『どう、したの?』 「羽依……」 『………』 「……すみませんでした」 「……!悪かった、びょん…」 「……ごめん」 震えている声が牢屋に静かに響く。 いつもは大きく見える彼らの背中は今は少しだけ小さく見えた。 『謝らない、で……』 「許してくれるんですか…?」 『私は元から、怒って、ない、よ…』 「……っ!」 『だって、私のため、だったんでしょう…?』 「羽依……」 『傍にいれて、嬉しい、の』 「……!!」 『ありがとう、本当、に…』 私は三人を後ろから抱き締めた。 骸たちより小さい身体じゃ足りなくて、翼を出して包み込む。 血に染まって汚いけれど、骸たちは静かに感じてくれていた。 『………』 関係のない人を巻き込んでしまったり、結果的に暴力をふるってしまう。 これからも罪や胸の奥にある悲しみや苦しみも消えない。 過去から今、未来まで、消えることはない。 『……』 でも、それでいいと思うの。 忘れちゃいけないことだけど、それが吹っ飛んじゃうくらい幸せを感じられるから。 『………』 あなたが全部、教えてくれた。 あなたたちと一緒だったから、大切なことに気づいたんだよ。 『犬、千種、骸……だいすき。』 今は空が見えない冷たい牢獄の中だけど、いつかみんなで一緒に空を見よう。 空の下で笑いあおう。 手を繋いで一緒に歩こう。 『それと……』 今までしてきたこと、許されることじゃないけれど、一緒にいるから夢に見るような日が絶対に来る。 『…ー…ありがとう』 「……!」 その時は、あなたたちにもう一度、言うの。 …ー…心から"ありがとう"って。 幸せはすぐ傍にある 私の幸せはあなたたち。 「羽依……って、なっ!?」 「おまっ、服!何で脱ぎかけなんだよ!!」 「……っ!?」 「く…っ千種、犬、見るんじゃありません!」 『わ……っ!?』 「骸さん、何、抱きついて羽依を隠してるんですかーっ!?」 「後ろを向けばいいだけの話なのに…」 「煩いですよ!」 end 加筆修正 2011/12/26 |