気づき




綱吉は最近苛立っていた。その苛立ちを発散させるかの如く仕事に明け暮れていた。
ボスとしてはいいことなのだが、右腕の獄寺が心配するほど没頭しすぎていた。

本当はこんな感情を持ってはいけないと綱吉自身も分かっている。だが、気づいていしまった恋心を止める術を持ってなどいなかった。



ボンゴレのボスとして就任し、早五年が経とうとしている。仕事にもそこそこ慣れ、部下の扱いも様になってきた。

しかし、継承直前からその異変は起きた。









「じゃ、行ってくるからな」

「えぇ、気をつけてね、リボーン。愛してるわ」

「あぁ、オレもだぞ」

扉の前で繰り広げられるリボーンとビアンキのキスシーンを綱吉は見ていたくはなかった。だが、悲しいかな。人間、見たくないものを気になり見てしまうものだ。

中学の頃から二人のラブシーンは嫌というほど見てきているのに、この気持ちに気づいてからは見るたび悲しくなってくる。

「はぁ…どうしようもないよね」

ため息をつきながら書類を持って、綱吉は執務室へと向かった。







最初の異変はボスを継承する前のことだった。

「やっとボス就任だな、ツナ。オレは教え子の手が離れて嬉しいぞ」

「それはよかったねっ。俺もお前からのスパルタがなくなって清々するよ」

「言うようになったじゃねぇか」

「リボーンは前々からだけどね」

ぷっと二人で笑ってしまう。以前だったら確実に弾が飛んできた。でも、今はそんなことはない。

「味覚はまだまだガキだな」

「うるさいよ」

リボーンはワインで綱吉はオレンジジュースで軽く乾杯し、思い出話に花を咲かせる。






「オレもフリーのヒットマンに戻るか」

「え?ボンゴレに残らないの?」

「馬鹿なこと言うな。オレは元々フリーのヒットマンだぞ。戻らなくてどうする?」

「ふーん、そういうもんか」

そろそろ寝ようとなった時にポツリとリボーンが言い出した。綱吉はあまり居なくなるという実感がわかず軽く聞き流していた。








「行ってしまうんですね、リボーンさん」

「寂しくなるのな、小僧」

「うおっっっお、極限寂しいぞ!」

「赤ん坊と遣り合えないうちに行っちゃうとはね」

「クフフ…。アルコバレーノが居なくなるなんて驚きでしたよ」

「ちっ、リボーンを殺せないとは…。いつかは殺s…ぐぴゃ!」

唇を噛み締め涙を耐える獄寺とどこか哀しそうに笑う山本。相変わらず叫んでいる笹川に舌打ちをするランボ。実に残念そうな雲雀に何を思っているかよく分からない骸。
しかし、ランボは問題発言をしてしまいレオンを100tハンマーに変えたリボーンから叩き飛ばされ気絶してしまった。

「ありがと、リボーン。ほんとに感謝してる」

「あぁ。オレは行くがちゃんとボンゴレの仕事をしろよ」

綱吉からの挨拶にニヤリと笑みを浮かべて答える元家庭教師。
リボーンはチャオ、チャオと言いながら少ない手荷物を持ち、出て行った。









皆、リボーンが居なくなるまで見送っていたが、見送りが終わるとそれぞれの仕事へと向かった。
だが、綱吉は皆と同じように仕事に戻ることが出来なかった。何故、引き止める人がいないのかが理解できなかった。
本当は涙が出そうになるのを堪えながらリボーンと別れた。もし、自分がボスじゃなければ泣いてでも引き止めることが出来たのにと思うと哀しくて堪らない。

「あ、そうだ」

「10代目!?何処に行かれるんですか!!」

思いついたとき、綱吉は走り出していた。右腕の言葉にも気づかずに。







「ま、待ってぇー!」

綱吉は自分でも情けないと思うような大声を出して、リボーンを引き止めていた。こんなに全力で走ったのは何年ぶりだろうか。

「…どうした?以前のダメツナみたいな声出して」

追いかけてくるとは思っていなかったのだろう。リボーンは少しだけ目を丸くしながら綱吉が来るのを待った。
綱吉は前と同じようにダメツナと言ってくれるリボーンに泣いて抱き着きたい衝動に駆られた。

「リボーンにお願いがあるんだ。俺たちがボンゴレの仕事に慣れるまで、サポートしてくれない?」

息を整え、真っ直ぐ見つめながら綱吉は言った。その言葉に柳眉を器用に上げたリボーンは若干眉間を寄せる。
そのくらい自分たちで慣れろとでも言いたげな表情をしている。







「依頼だよ。フリーのヒットマンさん」

「…あぁ、了解したぞ。ボンゴレ10代目」

なかなか返事をくれないリボーンに綱吉はボスとしての依頼をした。マフィア界の頂点に君臨するボンゴレボスとしての依頼ならば、フリーのヒットマンが断る術は持っていない。

リボーンは何も変わっていない。変わったのは綱吉自身だった。



リボーンへの恋心を自覚してしまった綱吉にはこれしかなかった。想いを伝えることさえ許されない哀しい恋心の始まりだった。









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