心地よい日常 あれから綱吉は片時もリボーンの傍を離れることがなかった。寝る時はもちろんのこと、お風呂も一緒に入る始末。綱吉はいつもご機嫌だったが、リボーンはもともとは独りが好きな性格。ごくごくたまに一人になりたくなることがあった。 「懐かれたよな…」 今、綱吉はお昼寝の時間。リボーンも年齢的には子どもで、趣味も昼寝だが今は眠くなかった。そのため、ようやく出来た一人の時間を満喫していた。 最初の頃は自分の事を見れば泣くわ、近付いてくることもしないわ、正直言って家光には悪かったが引き取ってはもらいたくなかった。自分一人で生きていける術は身に付いていたし、殺し屋をしているのが自分には合っている気がした。 しかし、懐かれてからは何となく居心地がいい気がするし、人に好かれる気分も悪い気がしなかった。けど、逆にそれが怖くもある。きちんと大人になれば、この家を出て行かないといけないし、綱吉とも離れなければならない。 それが今の自分に出来るのか、少しだけ不安になるリボーンだった。 「情けねぇよな、ヒットマンが」 人を殺すのが仕事で、義理だったが自分の親が死んでも泣かなかった自分が、赤ん坊と離れるのが何となく嫌に感じている。こういう気持ちをなんと呼ぶのか自分は知らない。 「Cz75にも触れてねぇな」 実はこの家に来る時に、家光から没収されたのだ。普通の子どもと同じようになれ、と。 そのためリボーンは自分の愛銃が何処に隠されているのか知らない。手入れをしてあげないといけないのは分っているのだが、この家を物色するような真似はしたくない。 そのくらいこの家の人々に愛情を抱き始めているリボーンだった。 「鈍ってたら、家光をぶち抜く」 家光に対する態度だけは、この家に住み始めた頃から全く変わっていないリボーンだった。 「おにーちゃ?」 完全なブラコンになりつつある綱吉が、目を覚ましたみたいだ。きょろきょろと辺りを見回して、リボーンの姿を探している。リボーンは物陰に隠れながら様子を見ている。綱吉は寝かしつけるまでいてくれたお兄ちゃんがいないことに泣きそうになるが、ぐっと堪えて立ち上がりリボーンを探し始めた。 いつもいるリビングに行ってみるがいない。明らかにしょんぼりしながら次へと向かう。トイレ、お風呂場と探してみるが、やっぱりいない。泣きそうになりながら、ようやくリボーンがいるところにやって来た。 意地悪なリボーンは一瞬分からないよう別の部屋に行こうと思ったが、これ以上隠れていると綱吉が泣き出すおそれがあったため、それはやめた。綱吉が泣く姿は見たくはない。隠れている場所で待つことにした。若干綱吉に分かりやすいよう移動して。 「おにーちゃ…?」 合ってるかな、という気持ちが伝わってくるような感じで綱吉が呼んでくる。リボーンはニヤっと笑いながら、振り向く。 「ん?どうした?」 お兄ちゃんで合っていたことに気付いた綱吉は、満面の笑顔でリボーンに抱き着く。リボーンの足に幼児独特の暖かい体温が伝わってくる。それに機嫌を良くしたリボーンは、綱吉を抱き上げる。 「おにーちゃ!」 大好きなお兄ちゃんに抱いてもらえて、綱吉はますますご機嫌になる。 「もう、眠くないのか?」 「うん!あしょんで!」 子どもの成長は早いもので、綱吉も話せる言葉が増えてきた。眠気はなくなったから、遊んでもらいたいらしい。 「いいぞ。何して遊ぶ?」 「んーと、あうこごっこ!」 綱吉の言うあうこごっことは、アルコ戦隊という八人のヒーローが悪を倒すという戦隊ヒーローものだった。そのリーダーの名前がたまたまリボーンと同じ名前だったため、綱吉はすっかりハマってしまったわけである。 「分かった。ツナは誰をするんだ?」 「こおねお!」 最初、この遊びを始めた時、リボーンは自分と同じ名前のやつの真似はしたくなかったのだが、拒否をすると綱吉が不機嫌になってしまったのだ。綱吉の中で譲れない何かがあったらしい。そのため戦隊ヒーローごっこをする時、リボーンはリボーンを。 綱吉は他のキャラである、コロネロ、スカル、マーモン、風、ヴェルデのどれかをするようになった。もう二人、ラルとルーチェというキャラがいるのだが、この二人は女キャラのため、綱吉はしたがらなかった。 今日はリボーンの次に好きなキャラであるコロネロをすることにしたらしい。したくはないが、弟のために恥を捨て成りきってやる。 「分かった。…おい、コロネロ。今度の任務はお前出れそうか?」 「だえにうかていてうんだ、こあ!おえにできねーにんうはないお、こあ!(誰に向かって言ってるんだ、コラ!オレに出来ねー任務はないぞ、コラ!)」 「だな。話があるから、会議室に行くぞ」 「ああ!」 リボーンはスタスタと、綱吉はてくてくとリビングの方へと歩いていく。 アルコ戦隊ごっこをしている間に、買い物に行っていた奈々が帰って来た。主にリボーンが奈々から料理を教わりながら手伝い、綱吉も自分の出来る範囲内で手伝いをした。 三人でご飯を食べてる途中で、仕事を終えた家光が帰ってくる。そして、四人で食卓を囲む。楽しくて、幸せな時間だった。 あの事件が起きるまでは。 |