初恋…? 高校3年生の半ば頃。この頃になれば、進路の決まっている人は各々の時間を過ごし、逆に決まっていない人はセンター試験へ向けて猛勉強をしている最中。 そんな中、すでに進路の決まっている綱吉とリボーンは学校が終わってるにも関わらず屋上に残り、紙パックのジュースを片手に校庭を眺めている。 「暇ですねぇー。リボーン君」 「生憎オレはお前ほど暇じゃねぇんだから、さっさと帰りたいんだが?」 「えー。じゃあ帰ればいいよ。ばいばーい」 校庭を眺めるのをやめずに、綱吉はリボーンに対してひらひらと手を振る。それを受けたリボーンは帰り支度をするわけもなく、同じように校庭を眺めている。 「あれ?帰らないの?」 帰りたがっていたはずのリボーンが帰る気配のないことを察した綱吉は、不思議そうにリボーンを眺めながら問いかける。どうしようとオレの勝手だと言わんばかりに居座るリボーンに対して、綱吉は問いに答えないのを気に留めず、また校庭を眺め始めた。 「あ、カップル」 綱吉の視線の先には楽しげに下校をしている男女二人組がいた。ここからでは話し声は聞こえないがお互いに楽しそうな雰囲気は伝わってくる。それを綱吉は羨ましそうに眺めながらぽつりと呟いた。 「いいなぁ。俺も恋人がほしいー」 「初恋もまだのやつが何を言ってるんだか」 ハンッと鼻で笑いながら言ったリボーンを睨み付けながら負けじと綱吉も言い返す。 「うるさいよ!付き合っても長続きしない奴が何言ってるの?」 言い返されたリボーンは眉目秀麗という言葉がふさわしいほど顔立ちの整った綺麗な顔をしている。それに加えて、成績優秀、元生徒会長と肩書きも素晴らしく男女共に人気のある人物だ。そのため特に女子生徒からの人気っぷりはファンクラブが出来るほどある。 「バーカ。オレはモテるから、どっかの誰かさんと違って女には不自由してねぇぞ」 クツクツと笑いながら答えるリボーンに対して、綱吉はもう何も言い返すことが出来なかった。リボーンのモテるのは事実であり、対照的に綱吉は全くと言っていいほどモテない。負けを認めるしかなかった。 実の所、この二人は家も隣通しの幼馴染で、小学校から高校までずっと一緒の学校を通っている。リボーンが本当は性格に難ありの人物であるのは綱吉しか知らない。綱吉以外の人の前では猫を被り、それはそれは優しくてカッコいいという少女漫画に出て来るような爽やか系の男子生徒である。 「ほんとその意地の悪い性格直した方がいいよ。それで長続きしないんでしょ?」 もったいないと言わんばかりにリボーンに対し綱吉はアドバイスするが、性格の悪い幼馴染が忠告を聞き入れるわけもなく、辺りがだんだん暗くなってきたため二人は帰り支度を始めた。そして、そのまま二人は学校を後にした。 それから数日経ったある日。季節外れの転校生がやってきた。高校3年生での転校生はかなり珍しく、噂話には疎いリボーンと綱吉の耳にまで入ってきた。 「珍しいよね、こんな時期に」 この間と同じメーカーの紙パックを飲みながら、綱吉はリボーンに話しかける。リボーンは全く興味のないといった様子で1限目の準備をしている。応じてこないリボーンを気にせず、綱吉は話を続ける。 「しかも、女子の話だとめちゃくちゃカッコいいらしいよ。お前、負けるかもね」 リボーンの人気が転校生に移ることを想像し、楽しげに笑いながら綱吉は話す。それに対してもどうでもいいといった様子でリボーンも答える。 「別にいいぞ。そのくらいでオレのモテるのは落ちたりしねぇし」 そんなこともわからねぇのかバカツナと言い、1限目の準備の終えたリボーンは始まるまで机に伏せていた。その様子を見ながら、気にしてるのかなとやはり先程と同じように楽しげに笑いながら、綱吉も1限目の準備を始めていった。 1限目を終えた二人は、2限目は選択科目のために教室を移動する。移動している最中、一つの教室から廊下まで続く女子生徒の人集りを発見した。女子生徒たちは黄色い悲鳴を上げながら、その中心人物に声を送っている。 「雲雀さーん、こっち向いてー!」 あっちこっちで悲鳴の上がる中、中心人物はうんざりといった様子で教室内から出ていこうとしていた。その人物が動くたびに、人集りも同じように動いていく。持っていたトンファーで女子生徒を避けながら、綱吉たちの方へと歩いてきた。 「何見てるの?咬み殺すよ?」 どうやって次の授業のある教室まで行こうか考えていた綱吉とリボーンの視線を受けた雲雀は二人を睨み付けながら、ひとこと言い放ち立ち去って行った。そのあとを追おうとした女子生徒たちを見ながら、綱吉はぽそっと言った。 「かっこいい…」 頬を紅く染め、持っていた教科書をぎゅっと抱きしめながら呟いた綱吉を見て、リボーンは驚いたように目を見張り、そして綱吉に聞こえない程度に舌打ちをして俯いた。 prev|top|next |