初対面、第一印象は? 「ここかぁ…」 なにやら一枚のチラシを手にやってきた青年。その手には「資格のない君へ!まずは免許を取ろう!!」と書かれた一枚のチラシが握られていた。 「ツっ君ー!」 奈々が下から呼ぶ声がする。ベットに寝転がり漫画を読んでいた綱吉は、読むのをやめリビングへと降りていく。 「何?母さん」 「見て!これ!」 目の前にバッと広げられた一枚のチラシ。そこには「資格のない君へ!まずは免許を取ろう!!」と書かれていた。大きく書かれた文字の下には、イラスト付きで普通免許への案内が書かれている。 「車の免許のチラシ…だね。それがどうしたのさ?」 チラシを見せても察しない綱吉に対して、奈々はもうっ!と言いながらチラシを見せた訳を話す。 「ツっ君は大学に通ってるけど、まだ何も資格を持ってなかったわよね?だから、一つくらい資格を持ってたほうがいいと思って。お金は家光さんと相談するから、行ってきなさい」 「はぁ?やだよ。車の免許なんて無くったっていいよ!」 せっかくの春休みだ。休みを満喫したい綱吉は遠慮する。しかし、いつもはほわんとしている奈々が真剣な表情をして言う。 「ダメよ!もし、彼女ができたら電車で移動するの?それともバス?そんなんじゃ彼女さんが可哀想でしょ!ツっ君も男の子なんだから、車くらい運転できるようになってちょうだい」 言いながら、奈々は家光とデートした海辺を思い出している。その時、車を運転していた家光の横顔を眺めてドキドキしたことを話し出す。思い出を語りだしたら止まらなくなる奈々に対して、何も言えなくなった綱吉はしぶしぶ自動車学校に通うことになった。 でかでかと「アルコバレーノ自動車学校」と書かれた建物の中に入っていく。中は広く、綱吉と同じように春休みを利用して学びに来たであろう学生がちらほらいた。 その中を緊張した面持ちで通っていく。 受付にいる帽子を被り、頬になんらかの模様を描いている優しげな雰囲気のある女性に声をかけてみた。名札にはルーチェと書かれている。 「あの…、すみません」 「はい?あ、今日から入校される沢田綱吉さんかしら?」 「え!あ、はい!そうです」 なぜわかったのだろうか?と不思議に思いながら、話を進める。自動車学校に行くことを決めて、色々と手続きをしたのは奈々である。そのため、ここの人たちは綱吉のことを知らないはずだ。電話をしたのも奈々だから、綱吉の声を知るはずがない。 「ふふっ、なんとなくですよ」 不思議そうにしている綱吉を察して、受付の女性は答え、ニコッと笑いかける。優しそうな雰囲気の中に何か違うものもあると感じた綱吉だった。 「では、ここに丸をしてあるところに記入をお願いします。あ、原付はお持ちでしょうか?」 「いえ、持ってないです」 紙とペンを渡され、保健証と住民票を渡す。色々と何かに書かれ、質問された。 「今、学生さんですか?」 「はい、大学生です」 「学生証はお持ちでしょうか?」 「持ってます」 綱吉は財布から学生証を取り出し、女性に渡す。 「ありがとうございます。こちら、コピーを取らせてもらってもよろしいですか?」 「大丈夫ですよ」 受付の女性はコピーを取ると、学生証を返してくれた。 「ありがとうございます。では、あちらの席で記入をお願いします」 その女性に案内された席で記入事項を書いていく。書き終わり、綱吉はまた受付に行き指示を伺った。 「ありがとうございます。では…風、案内してもらってもいい?」 女性は肩にサルを乗せた男性を呼び止める。男性は中国人と思われる民族衣装を着ていた。その男性を見て、不安がる綱吉を察してか女性は優しく声を掛ける。 「大丈夫ですよ。視力検査と証明写真を撮ってもらうだけですから」 優しい笑みを浮かべて話しかける女性に励まされ、綱吉は男性の後をついて行くことにした。 「ふふっ、リボーンの好きそうな子がやってきたわ」 楽しげな笑みを浮かべて、仕事に戻るルーチェの姿があった。 「沢田綱吉さんですね。私は風と申します。そんなに緊張なさらないでください」 柔和な笑みを浮かべて案内をする風に、先ほどから緊張しっぱなしだった綱吉もつられて笑みを浮かべる。 「ありがとうございます。こういう場所は初めてなんで、不安で…」 「ふふっ、大丈夫ですよ。これから通うことになるんですから、時期に慣れますよ。あ、着きました。中へどうぞ」 風に案内され、綱吉は中へと入る。そこは狭く、視力検査に使われる機材と三脚に乗っているカメラしかなかった。 「では、まずは右目から検査しますね」 綱吉は線の上に立ち、よく学校とかで視力検査の時に使われる黒いスプーンのようなもので左目を隠す。 「いいですか?では、これは?」 「右です」 「これは?」 「上です」 風が示した光っている部分を答えていく綱吉。合っているか不安に思いながらも視力検査が終了した。 「はい、大丈夫ですよ。目がいいんですね!綱吉さんは」 最初から名前を呼ばれて、やや疑問に思う綱吉だが大して触れずにお礼を言う。漫画の読みすぎで目が悪くなっていなくてよかった。 「ありがとうございます」 「いえいえ。大きくて綺麗な瞳をしていらっしゃるからですかね」 ふふっと楽しげに笑いながら、カメラの準備をしていく風。容姿について褒められたことがなかった綱吉は少し照れつつもカメラの前に設置されている椅子に座る。 「こちらを向いてください。はい、撮れました」 フラッシュがたかれるかと構えていたが、それはなくカシャっというシャッター音だけが聞こえてきた。 「お疲れ様です。ここですることは終わりましたので、次は適性検査を受けていただきますね」 そのまま風に案内され、別の教室へと移った。そこには迷彩柄の服を着た金髪の男性が立っていた。 「コロネロ、今日から入校される沢田綱吉さんです。適性検査、よろしくお願いしますね」 案内が終了した風はコロネロに言伝て、立ち去る。コロネロという男性が振り返った途端、またもや綱吉の身体には緊張が走る。 「お前が沢田綱吉だな、コラ!今から適性検査を受けるが、きっちりやれよ!」 どこぞの鬼教官のような口調の男性に対し、先ほど風のお蔭でリラックスできていた綱吉だが、来た時よりも萎縮する羽目になってしまった。 「は、はいっ!」 どういうことをやらされるのかとビクビク怯えている綱吉に対して、コロネロは席に着かせて教壇に立ち説明を始めた。 「これからお前に運転能力があるかをテストするぞ。簡単な問題だが、落ちる奴は落ちる。心して受けろ、コラ!」 「…はい」 問題が解けるか不安な綱吉は気持ちが反映して声が小さくなる。 「返事が小さい!心して受けろ!いいか!」 「はい!!」 返事が気に食わなかったコロネロに怒られながら、先ほどより大きな声で返事をする。よし!と満足げに頷きながら、問題の注意事項を説明していった。 「時間厳守でいくぞ、始め!」 入試問題のような始め方で問題を解いていく綱吉。1、2分と短い時間だったが、その時間内に問題の違いや同じ図形を書いていくなど数をこなしていく問題が主だった。やめと言われて、素早くやめる。 「やめ!」 やめと言われて、すぐに鉛筆を置く綱吉。次のページを捲ると質問が書かれていた。 「次の質問には時間制限はない。だからじっくり考えて自分に当てはまるものを選んでいけ。始め!」 一つ一つじっくり考えながら答えていき、全ての質問に答え終わったあと鉛筆を置いた。 「もういいか?」 「はい、大丈夫です」 綱吉の答えに、コロネロは問題と解答を回収する。コロネロの事務的な動きを見ながら、解いていく時に芽生えた不安を綱吉は聞いてみた。 「あの!問題はどのくらい解けたら運動能力があると認められますか?」 「全部だぞ、コラ」 「え?」 全問どころか半分すら解けていなかった綱吉。その表情は落ち込み、しゅんとしてしまった。それを見たコロネロが楽しげに笑いながら答える。 「冗談だコラ!全問解けなくても、そこそこ解いていれば合格はするぞ。だから安心しろ」 そこそこの基準がわからない綱吉はますます不安そうな顔をする。その表情を見たコロネロは面白がっている。 「そんな心配そうな顔すんな。大丈夫だ、落ちる奴は滅多にいないからな」 励ますように肩を数回叩かれ、痛みに耐えつつも笑みを浮かべる綱吉。それを見たコロネロも笑いながら一緒にロビーへと戻っていった。 ロビーで検査の結果を待っている綱吉に、受付から声がかかった。 「沢田綱吉さーん」 「あ、はい」 受付に行くと、入校の手続きをしてくれた女性の他に全身黒ずくめの男性が立っていた。その人も受付の女性と同じように帽子を被っている。帽子の形は違っているが。なんだか仮装で被る帽子みたいだった。 「誰が仮装だ、誰が」 「え!?」 一言もそんなことは口に出してはいないのに、なぜか男性は綱吉の思っていたことを当ててきた。それに驚く綱吉と若干不機嫌になっている男性。その男性のせいで互いが睨み合っている雰囲気になってしまった。 「もう!リボーン。説明するから黙っててちょうだい」 幼い弟を嗜めるような口調で女性が話す。それに対して更に不機嫌になった男性はそっぽ向くように綱吉から視線を外す。 「綱吉さん、適性検査は合格しました」 「ホントですか?」 女性が笑みを浮かべながら綱吉に合格したことを伝える。コロネロから励まされたとはいえ、落ちているかも…と心配だった綱吉にも笑みがこぼれる。 「ふふっ、おめでとうございます。紹介するわね、あなたの担当の先生となってくれたリボーン先生です」 女性から紹介され、綱吉から視線を外していた男性は綱吉の方を向く。その顔はまだ不機嫌そうだった。 「ありがとうごさいます!えっと…沢田綱吉です。宜しくお願いします」 女性にお礼を言い、男性に対して挨拶をする綱吉。挨拶された男性は綱吉を品定めするように見て、一言いった。 「ふん、へなちょこそうなガキ」 「え……」 初めて会ってそのようなことを言われるとは思わなかった綱吉と、不機嫌リボーンの初対面だった。 |