出会いは最悪




「違う!」

バシッと少年が譜面を音楽室の床に叩きつける音が部屋全体に響き渡る。
違う、違う…と何度も繰り返す少年を宥めるように別の少年がため息をつく。

「しょうがねぇだろ、コラ。今の俺たちにはこれが限界だぜ」

「限界だと?ハンっ、てめぇはそうかもな」

「何だと、コラ」

相手を小馬鹿にしたように鼻で笑う少年に対し、口調に特徴のある少年が睨みぶつかりあう。
額同士をぶつけ、どちらも一歩も引かずにいるのを違う少年が抑えようと声を掛ける。

「2人ともいい加減にしてください!仲間割れしてどうするんですか!」

「「あぁ?」」

いつもは全く反りの合わない二人が珍しく合う。これに怯んでしまった少年は、何も言えなくなり小さくなってしまった。

「止めるだけ無駄だよ、スカル。この2人が喧嘩しない日なんてないんだからね」

口出しをしなかった少年が愛用のキーボードのチューニングをしながら言う。

「早くしなよ。馬鹿2人待つだけ無駄だし、僕は早く帰りたいんだからね」

「しかし…。…はい」

キーボードを軽く弾き鳴らしている黒いフードを被っている少年…マーモンに睨まれながら脅され、耳から唇に架けてチェーン状のピアスをする紫髪の少年…スカルもドラムの準備をする。

「大体なぁ、てめぇが言い出しっぺじゃねぇか!巻き込まれた俺たちの身にもなってみろ、コラ!」

「…ちっ!」

二人の喧嘩はまだ終わらず、悪い方へと進んでいく。
迷彩柄のバンダナをつけた金髪碧眼の少年…コロネロに尤もな事を言われ、ばつが悪そうな顔をして舌打ちをするオールバックにもみあげが特徴的な双黒の少年…リボーン。
二人の仲が悪いことは誰もが知っていたが、これほど険悪なムードになるのは珍しいことだった。


「…この馬鹿とは話にならねぇ。サボる」

どう足掻いても自分には不利な状況のため、酷く不機嫌そうな顔をしながらリボーンは扉を閉めて部屋を出て行った。



「あーあ。出て行っちゃいましたよ、コロネロ先輩」

「君が禁句を言うからだよ」

「…」

スカルとマーモンどちらからも攻められ、何も言えないコロネロがいた。











「はぁ…」

知っている人がいるなら全員が逃げ出すほど似つかわしいため息をつき、リボーンは屋上の給水タンクのスペースに座り煙草を吹かしていた。

コロネロの言い分もよく分かる。分かってはいるのだが、リボーンはどうしても納得が出来ずにいた。
多分、あの歌声に魅了され続けているからかもしれないと理由は分かっているのだが、今はその声を聞くことすらままならない。
リボーンは自分が何を目指していたのか、分からなくなっていた。






そのバンドを知ったのは約一年ほど前のこと。家族関係や友人関係にいらつきを覚え、学校を休みがちだったリボーンは不良少年だった。
よく行き付けにしていた立ち飲みバーでこんな話を聞いたからだ。

『超人気のあるバンドがライブを開くんだって!』

というありがちな話を聞いたからだった。

別に行きたいとも思わなかったリボーンだったが、仮面を着けて演奏し歌を歌うと聞いて行きたくなった。
どれほどの実力か見てみたくなったのだ。








後日、客の話を頼りに行ってみると、そいつ等はいた。
ティーンズバンドにも関わらず、圧倒的な存在感と歌唱力。その空間を独り占めにしてしまうほどの実力。どれをとっても他のバンドよりも優れていた。
ぶっちゃけ他のバンドが下手に聞こえてくるほど、そのバンドは上手かった。
一目見て、ボーカルの歌声に惚れてしまっていた。儚げに歌うのに、人を魅了してやまないその歌声に。

そのライブの合い間の会話を聞くと、ティーンズバンドのトップを決める大会に出る話をしていたのでその会場にも行ってみた。

予想通りそのバンドが群を抜いての優勝。

リボーンはそいつ等を抜きたいと思った。対等に立ち、競い合ってみたいと思った。







しかし、それを実現することも出来なくなってしまった。

見事優勝を果たしたバンド、Vongola(ボンゴレ)は将来を有望視されプロへの転向も決まっていたのに突然解散し姿を消してしまった。

何が理由で解散してしまったのかを知っている人は誰もいなかった。









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