初めての恵方巻づくり




「本日は節分です!豆まきをして、北北西を向いて恵方巻を食べるといいでしょう!」

夕方。ニュースキャスターのお姉さんが、テレビで元気よく話していた。それを寝起きの綱吉はぼけーっとしながら聞いていた。

「あ!今日は節分じゃん!!」

ぼけーっと聞いていたが、節分の言葉に覚醒する。毎年、沢田家では節分をしていたが、リボーンの家に住んでからはそういう行事を忘れてしまいがちになっていた。そのため、今日もなにも準備をしていなかった。

「どーしよー」

「なにがだ?」

綱吉が一人で慌てていたとき、寝室にリボーンが入ってきた。

「どうしよ!リボーン!」

「だから、なにがだ?」

慌てるばかりで肝心の内容を話さない綱吉に、リボーンはもう一度聞く。普段のリボーンなら真っ先に銃で落ち着かせていたが、綱吉に関しては人が変わったように優しくなる。銃を鳴らすことはないし、もう一度聞くという寛大さも身につけた。

「今日節分だよ!?」

「…あぁ、そうだが」

慌てつつも話す綱吉に対して、リボーンはいつも通り。リボーンにとって節分など、ただの二月にある行事に過ぎない。節分をしたという記憶はない。家族とも仲良くなかったし、そんなものにも興味がなかった。

「豆まきしてないし、恵方巻だって食べてないよ!!」

「……」

お前は豆まきをする年齢か!?とツッコミを入れたくなったリボーンだが、やめた。先月に綱吉の家族と会ったが、こんな年齢でも普通に節分を楽しみそうな家族だったからだ。

家光が鬼で、奈々と綱吉が豆を投げている姿が容易に想像できた。

「…しねぇぞ。絶対にしないといけない行事ごとでもねぇし、必ず食べないとダメだなんて聞いたことないからな」

「え!なんで!やろうよ、豆まき!あ、豆まきはどっちかが痛い思いをするからダメかもだけど、恵方巻くらい食べようよ!」

「今から準備するのか?…めんどくせぇ」

「今からでも大丈夫だよ!めんどくさいなら、俺頑張ってリボーンに美味しい恵方巻作るよ!!」

「…好きにしろ」

「やったー!なら、買い物行ってくるね!」

結局は綱吉に甘いリボーンが折れたことにより、今年の節分が始まった。






「よーし!作るぞー」

買ってきた材料を並べて、気合十分な綱吉。それをソファーに座り、銃の手入れをしながらリボーンは見ていた。

「えっと…、まずはご飯にお酢を入れて…っと」

鼻歌を歌いながら、楽しそうに恵方巻を作り出す綱吉。リボーンはそれが気になりつつも、銃の手入れをすることで紛らわせていた。

「かんぴょうとしいたけを入れて…。あ」

「なんだ?」

ふと思い出したような声を上げる綱吉。耳ざといリボーンは聞き逃さず、声を掛ける。

「リボーンって嫌いなものある?」

「…」

嫌いなものある?と聞かれても、恵方巻になにが入るのかを知らないリボーンは答えようもない。そのため、近くに行って材料を確認しないとなんとも言えなかった。

「わかんねぇな。オレ、恵方巻食ったことねぇから」

「えぇ!?」

思ってもみなかった返答に驚く綱吉。沢田家では毎年食べているため、当然リボーンも食べたことがあると思っていた。食べたことがあるため、作るのがめんどくさいと思うのかと思っていたがそうではなかったみたいだ。

「ないの?一度も?」

「ないな」

「…ウソだろ」

言葉をなくす綱吉だが、それなら!とリボーンのところへ行き、手を掴む。いきなりのことで若干驚くリボーンだが、構わず綱吉は言った。

「ないなら、一緒に作ろうよ!恵方巻!」

ね!と言いながら立たせて、キッチンへと連れて行かれたリボーンに選択権など存在しなかった。







「どう?嫌いなのとかある?」

キッチンへと連れてこられて、ざっとあるものを見せられた。しかし、リボーンの苦手とするものはなかった。

「ないな」

「よかった!二人で美味しいの食べれるね!」

嬉しそうに笑いながら調理を再開する綱吉に、無理やりな形で手伝わされるのにも不快感を覚えることはなかった。

「よし!じゃ、巻いてこー!」

のり、酢飯、具材をきちんと巻き簾の上に置き、準備完了。あとは巻くだけなのだが、綱吉が一つ提案した。

「ねぇ、リボーン!お互いの恵方巻を相手が巻いてみない?」

「つまりオレが食うのをツナが、ツナが食うのをオレが巻くのか?」

「うん!俺、リボーンが巻いてくれたやつ食べたい!」

こんな可愛いことを言う綱吉の提案を断ることなど出来ず、お互いの恵方巻をお互いが巻いていくことにした。

「じゃあ、俺のをリボーンお願い!」

「了解」

リボーンはくるっと綺麗に巻いた。初めてなのに、プロ並みに綺麗に巻いたリボーンに、綱吉は感動する。

「すごーい!俺、こんな綺麗に巻いたことないよ!」

「簡単だろ」

不器用な人間が手こずる作業を簡単にやってしまうリボーンは、やっぱり天才だった。

「俺、ちゃんと巻けるかな…」

リボーンのを見たせいで、少々プレッシャーの掛かる綱吉。次は、綱吉がリボーンの恵方巻を巻いていこうとする。

「…あのー、リボーンさん」

「なんだ?」

「っ…。近すぎるんですけど!!」

恵方巻と格闘をしている綱吉の後ろにリボーンが立っていた。そして、その両手は綱吉を包み込むようにして置かれている。抱き締められてはいないが、角度によってはそう見える。そのくらいお互いの距離が近かった。

「いいだろ、別に。ツナがちゃんと出来るか見てるんだぞ」

「だからって!…っ」

後ろから聞こえる声に対して、反論をしようとくるっと後ろを向こうとした綱吉。しかし、向くことは出来ず、前を向いて耳まで真っ赤にさせることしか出来なかった。

「耳まで赤いぞ」

「うるさいっ」

わかっていることを指摘するリボーンに、悪態をつくことで気を紛らわせて、綱吉は恵方巻へと集中する。くるっと巻いて、形を整えようとしたその時だった。






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