願いごとは違っても




「オレのために愛情たっぷりとな」

「ひゃ!?」

綱吉の耳元で、リボーンが色気たっぷりと含んだ極上の声音で囁いた。それに過剰に反応してしまった綱吉は、思わず恵方巻を力強く握ってしまう。

「「あ…」」

握ったせいで具材が飛び出し、不格好な恵方巻が出来上がってしまった。

「ククッ…そんなによかったか?」

「うるさい、バカリボーン!」

楽しげに笑う人と照れて悪態をつく人がいた。

「そんじゃ、頂くか」

恵方巻のほかにも何品か料理を作り、テーブルの上に並べた。どれも美味しそうに出来上がり、部屋中にいい匂いが広がっていた。

「まずは恵方巻だね!おっきいなぁ…」

「ぶっ!」

恵方巻を手に取り、眺める綱吉が呟く。その呟きを違う意味で捉えたリボーンは思わず吹いてしまう。

「え?」

「いや、なんでもねぇぞ」

リボーンも恵方巻をとり、眺める。

「具だくさんにしたからな。願いながら食べるんだよな?」

「そうだよ。今年は北北西を向いてね」

「なるほどな。準備はいいか?」

「え、あ、うん」

綱吉の願い事。疼いている喉の渇きを満たすことだった。先ほどキッチンでダイレクトにリボーンの首筋を見てしまったことで、さっきから疼いて仕方なかった。

普段から普通の食事をすることで抑えられていた。しかし、先ほど見てしまったせいで我慢が効かなくなっていた。最近飲んでいなかったこともあるが、好きな人の血は吸血鬼にとっては毎日飲みたいほど極上の甘露なのだ。

でも、毎日飲ませてもらっては相手の体に相当な負担が掛かる。綱吉はそれを知っているため、むやみやたらにリボーンの血を飲まないようにしていた。

「食べるぞ。せーの」

―血が飲めますように。
―可愛い綱吉をずっと見れますように。

お互い全く違うことを願いながら、もぐもぐと恵方巻に齧り付く。お互いが食べ終わったところで話し出す。

「なかなか旨かったな」

「…ん」

頭の中はリボーンの血のことでいっぱいな綱吉は半端な返事をする。それを不思議に思ったリボーンが綱吉の顔を覗き込む。

「どうかしたか?」

「うへ!?」

リボーンが近づいたことに気づかなかった綱吉は飛び上るほど驚いた。その行動をますますリボーンが不思議がる。

「なんだ?いったい」

「な、なんでもないよ!…あ、マヨネーズないね!」

じりじりと近づくリボーンをさりげなく避けながら、綱吉はテーブルを見る。マヨネーズがないことに気づき、席を立って冷蔵庫へと向かっていった。

「なんだ?あいつ」

避ける綱吉に対して、イライラを募らせながら戻ってくるのを待つリボーンだった。







「ヤバいな…」

マヨネーズを冷蔵庫から取り出しながら、呟く綱吉。優しいリボーンだから、言えば飲ませてくれることもわかっている。わかっているからこそ、言えないのだ。

そんなことをもんもんと考えていたため、キッチンとリビングの間にある段差に気づかず転びそうになる。

「わっ!」

無様に転ぶかと思ったが、衝撃が来なかった。かわりにマヨネーズが床に落ちた、ゴトッとした音がした。

「大丈夫か?」

何故か下からリボーンの声がした。転ぶ寸前に、リボーンが抱き上げてくれたことにより、綱吉はリボーンの肩に顎を乗せている状態だった。

「大丈夫、ありがと」

「怪我しなくてよかったな」

「…ごめんね」

助けてくれたリボーンには悪かったが、限界だった。すぐそばに自分の求めているものがある。それを我慢できるほど、綱吉は大人じゃなかった。

「っおい!?」

驚くリボーンを無視して、綱吉は貪るようにリボーンの血を吸っていた。我慢していた分、抑えが利かず、リボーンの体を考えずに吸っていく。結果、リボーンが片膝をついてしまうほど吸っていた。

「っ、ごめん!!」

「おまえ…吸いすぎ」

片膝をついたことで、理性を取り出した綱吉は慌てて吸うのをやめる。しかし、急激に血が無くなったことにより、リボーンは軽い貧血を起こしていた。

「ごめんっ、ごめんなさい…っ」

片膝をつかせてしまうほど血を飲んでしまった罪悪感から気が動転して、綱吉は泣き出してしまう。これに困ったのはリボーンだ。イライラしていた気分だったが、血を吸われたことにより、そんなことは吹っ飛んでしまった。

「せっかく…楽しい、節分にしよって…思ってたのに、台無しにして、ごめんなさい…」

ぎゅっと手を握りこぶしの形にして耐えているが、耐えきれなかった涙が後から後から流れていく。

「我慢しよって、思ってた。けど、リボーンの首筋見たら、できなくて。欲しくて欲しくて、たまんなくなった。考えないようにしても、りぼーんのことばっか、考えてた。ホントは、ずっと…一緒に、いられますようにって、願いたかったのに、それもできなかった」

指先をそっとリボーンの首筋へと持っていく。血は止まっているが、そこにはまだ痛々しい牙の跡が残っていた。

「痛かったよね?まだ、痛むよね?…ごめん。ホントに、ごめん」

とうとう耐えきれなくなった綱吉は、俯いて嗚咽を漏らしながら本格的に泣き出す。その涙は、リボーンの服へと落ちていき、染みを作っていた。

「あー、もう無理。限界」

「…え」

気だるげな声を出すリボーン。その声に反応した綱吉は、悲痛な表情をしている。奥歯を噛みしめ、じっとリボーンを見つめるが、その体は震えていた。







「可愛すぎなんだよ!」

「ふぎゃ!?」

いきなりぎゅっと綱吉を抱き締めるリボーン。驚いた綱吉は変な声を上げてしまう。驚く綱吉に構わず、リボーンは綱吉の頭を撫でるが綱吉はついていけていない。

「泣きながら謝るな。襲いたくなるぞ。…それに、吸血鬼なんだから血吸うのは当たり前だろ?ただ、飲む量は考えてほしいけどな」

「…怒ってない?嫌ってないの?」

頭を撫でられているのにも関わらず、まだ信じ切れていない綱吉は不安げに聞いてくる。その手は無意識的にリボーンの服を掴んでいた。

「怒ってもねぇし、嫌ってないぞ。願ったことが叶ってるから嬉しいくらいだ」

「?」

「可愛いツナをずっと見れるようにってな。オレがずっとって願ったんだから、ずっと一緒にいて可愛いお前を見せろよ」

「うん!」

やっと不安から解放された綱吉は、おもいっきりリボーンに抱き着いた。いつもと違う節分だけど、これからも色んな時を過ごしていく二人なのでした。






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