チラシ




リボーンとの仲も解決し、いつも通りの日常を過ごしていたある日。放課後に練習をしていたが、一人メンバーが足りなかった。

「パシリはなにをしてるんだ?コラ」

「さぁ?パシリの分際でサボりっていい度胸だよね。そんなに僕たちに苛めてほしいのかな?」

「苛めるだけじゃ物足りないだろ。痛めつけるじゃねぇとな」

綱吉以外の三人はそれぞれの楽器の手入れをしながら、スカルについて話し合っている。けど、純粋な綱吉は物騒な会話に入ることはしないで、早めにスカルが来ることをこっそり心の中で祈っていた。

「あ、そうだね。どうやってパシリを痛めつける?」

「グラウンドを走らせるとかはどうだ?コラ」

「馬鹿。んなのてめぇでやってろ。ここは明日の昼飯を奢らせるだろ」

「それじゃあいつもと変わんないじゃん。ファンタズマの餌代、一年分でいいんじゃない?」

「それはひでぇ!めちゃくちゃ掛かるんだろ?餌代」

「まぁね」

だんだんと痛めつけるから、嫌がらせになりつつある会話に綱吉はビクビクし始める。なぜならこの先輩たちなら、やらせる気がするからだ。切実にスカルが来ることを願っているその時だった。

「遅くなってすみませんっ!これ見てください!!」

噂をすればなんとやら。話題に出ていた本人がやっと来た。スカルの手にはなにかチラシらしきものが握られている。

「よぉ、パシリ。遅かったじゃねぇか」

「遅いよ。餌代、負担してね」

「遅せぇぞ、コラ!グラウンド走ってこいよ!」

「え?え?え?」

遅れたことをきちんと謝ったにも関わらず、先輩たちが怒っていることに対してスカルは混乱する。それに対して、無意識的に綱吉は憐みの目を向ける。それでますますスカルは混乱してしまう。

一秒後、音楽室からスカルの悲鳴が響き渡った。








「で、なんだ?それ」

「うぅ…」

結局、いろいろ言っていたことをスカルにしたのではなく、綱吉を除く全員からの攻撃で納得したらしい。主に綱吉とスカルを除くメンバーが、だが。殴られたスカルの右頬は腫れ、頭にはたんこぶが出来ている。
椅子に座ったリボーンが、スカルの持っているものを指さす。しかし、スカルは痛さのあまり話せないでいる。

「チラシ…みたいだね」

話せないでいるスカルをじれったく感じたマーモンが、握っているものを取り広げ、全員に見せる。そこには『全国アマチュアティーンズバンド トーナメント戦』と書かれていた。学生アマチュアバンドから、全国一位を選ぶというものだった。

「へー、トーナメント戦か、コラ」

「これって!」

腕を組みながら興味無さげに呟くコロネロとは対照的に、リボーンはマーモンからチラシを奪い凝視する。書かれている内容は、全て約一年前に観に行ったvongolaが出ていた大会となんら変わらなかった。

「おい、ツナ!」

綱吉に確認を取ろうとしたが、肝心の綱吉がどこにもいない。

「…あいつはどこ行ったんだ?」

「あれ?いないね。…帰ったんじゃない?スカルのバカが遅刻してくるから」

「…う」

マーモンの暴言にスカルは立場をなくす。一人、小さくなりながら、場の空気に耐えることにした。

「トイレじゃねぇか、コラ」

準備室まで探しに行き戻ってきたコロネロが言う。しかし、トイレに行ったにしては時間が掛かりすぎている。いったいどこに行ったのか。

突如、音を立てて扉が開く。全員が振り返ると、息を切らした綱吉がそこにいた。メンバーの視線を受けた綱吉は驚き怯えながらも、まっすぐスカルの傍へと歩いていく。

「あ、これ…」

綱吉は氷の入った袋と濡らしたタオルをスカルに渡す。

「あぁ、ありがとな」

一瞬、不思議そうな顔をしたスカルだったがすぐに分かり、受け取った。怪我した自分のために、綱吉はわざわざ保健室まで行き、氷を取ってきてくれてタオルを濡らしてきてくれたのだと。

お礼を言われた綱吉は、照れた笑みを浮かべる。それに比例して、スカルも照れた笑みを浮かべる。

「…!?」

「ちっ」

面白くないリボーンはスカルの背中を抓り、舌打ちをすることで綱吉にバレないようごまかす。普段から暴力に慣れているスカルは声は上げないものの驚く。

「あー、えーっとだな…。綱吉はこれ知ってるか?」

不機嫌オーラ全開のリボーンが暴走しないよう、コロネロは素早くリボーンからチラシを奪い綱吉に見せる。

「…あ、はい。知ってますよ」

「知ってるに決まってるでしょ、バーカ。綱吉はこれに出たことあるんだから」

言いながらマーモンはチラシをコロネロから奪い、書かれている項目を読んでいく。そのトーナメント戦は十月に行われると書かれている。

「で、結局出るの?これに」

「さぁ?出るのか、コラ」

チラシをヒラヒラさせながら、マーモンは聞く。コロネロが話すが、コロネロも出るかどうかはわかっておらず、リボーンに答えを求める。するとリボーンは、お前は馬鹿か?と言いたげな視線をコロネロに向けながら答える。

「出るに決まってるだろ。オレはこれに出たくて、このバンドを結成したんだからな」

「知らねぇぞ、コラ。お前が出たかったなんざ。出たいなら、ハナっから言えってんだ、アホ」

「あ?言ってくれるじゃねぇか」

視線にイラついたコロネロが、リボーンに喧嘩をふっかける。その挑発にリボーンが乗ろうとしたところで、マーモンの止めが入る。

「喧嘩してもいいけど、めんどくさくなるなら僕は出ないよ。これ」

チラシをトンと叩くマーモン。その言葉は本気らしい。ここでキーボードであるマーモンがいなくなれば、誰もキーボードが出来る人がいなくなるため困る。しぶしぶ二人は喧嘩することをやめた。

「ほーら。オレのお蔭ですよね?先輩方。言わなきゃいけないこと、たーくさんありますよね?」

「「「あ?」」」

言わなきゃいいのに、右頬の腫れが治まりつつあるスカルが余計なことを言い出す。スカルの一言にはキレやすい三人はまた攻撃しようとする。そこを止める綱吉。

「スカルと先輩方が喧嘩したら、俺、出ていきますからね」

「「「「う…」」」」

惚れた弱みから、誰も綱吉には逆らえない。結果、二度目の喧嘩をすることなく、トーナメント戦に出ることが決まった。






コロネロがチラシを見せたとき、一瞬だけ見せた綱吉の暗い表情。それに気づいたのは、リボーンのみだった。






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