笑顔を絶やすことのないよう これは、リボーンと綱吉が一緒に祝う、初めての誕生日の出来事である。 「ふふっ♪リー君は喜んでくれるかしら?」 リボーンの誕生日の前日、綱吉の母である奈々は張り切って買い物をしていた。鼻歌を交えながら、楽しそうに買い物をする。それを見ているベビーカーに乗った綱吉も、きゃきゃと嬉しそうに笑っていた。 「つー君も楽しみよねー!リー君の誕生日」 「う?あい!」 誕生日という単語がわからなかったのか、一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、すぐににこっと笑って返事をする綱吉。単語がわからずとも、楽しい出来事をすることはわかったようだ。 「つー君も楽しみにしてるみたいだし、頑張らなくっちゃ!」 可愛く気合を入れた奈々は、粉コーナーへと向かっていった。 一方、買い物に行った奈々からお留守番を頼まれたリボーンは、ソファーに寝転びながら料理本を読んでいた。 「これならできそうだな」 なにを作るかは粗方決めていたが、ようやく自分にも作れそうなものを見つけた。ソファーから起き上がったリボーンは、手際よく準備をして、お菓子作りに取り掛かった。 奈々の料理の邪魔をしたくないリボーンは、急いでチョコレートを湯銭に掛けるのだった。 次の日。リボーンが起きる前に!とせっせと飾りつけと料理の準備を終えた奈々は、満足そうに全体を見回す。綺麗に飾りつけも出来たし、料理も美味しく出来上がった。 「リー君!起きてー!」 一階から奈々は、リボーンを呼ぶ。しっかりしているリボーンは、普通の子供のようにぐだぐだと二度寝などはせず、すんなり降りてきた。 「どうしたんだ?これ」 リボーンが不思議がるのも無理はない。リビングが今からなにかのパーティーを始めますといわんばかりに装飾され、テーブルの上にはたくさんの料理が並んでいる。 「今からリー君のお誕生日パーティーを始めようと思って」 「…」 このような持て成しを受けたことのないリボーンの心情は複雑だった。嬉しいのか、悲しいのかすらわからない。ましてや、今、自分がどんな顔をしているかさえ、あやふやだった。 「泣きそうな顔しないで、リー君。こういう時は笑わないと!」 ね?と綱吉を抱きかかえた奈々に言われるが、意味がわからなかった。生まれて此の方、リボーンは一度も泣いたことがない。両親と呼ばれる人間が死んだときだって泣かなかったのだ。そんな自分が泣きそうな顔をしているなんて、ありえない話だった。 「…オレ、泣きそうにしているのか?」 耳を澄まさないと聞き取れないほどの小さな声で、ぽそっとリボーンは言う。普通の人ならスルーしてしまうが、リボーンの母親になった奈々は優しく答える。 「ちょっとだけね」 優しい声音で言った奈々は、一旦綱吉をソファーにおろしてリボーンをそっと抱きしめた。思わず体を強張らせるリボーンに構わず、諭すように言う。 「リー君もつー君も私の大事な子供たち。義理なんて関係ないわ。二人とも可愛くって、大切な子供たちよ。お祝い事を一緒にするのは当然でしょ?」 体と同じように、瞳まで強張らせていたリボーンと穏やかな表情を浮かべ、目を合わせながら話す。疑問形で聞いたが、答えは求めず、リボーンの頭を一撫でしてゆっくりと離れた。 「さて、家光さんはまだ帰ってきてないけど、始めちゃいましょ!」 夜勤らしい家光は不参加のまま、リボーンの誕生日パーティーが始まった。 「たっだいま〜」 朝帰りとは思えないハイテンションで、家光は帰ってきた。先ほどの泣きそうな顔ではなく人様にわからない程度だが嬉しそうな顔をしたリボーンと、ニコニコと笑顔の奈々と綱吉が出迎えた。 「お帰りなさい、家光さん。お仕事、お疲れさま」 「なな〜、つなよし〜」 相変わらず親子にはデレデレな家光は、奈々と綱吉に抱き着く。二人とも嬉しそうに笑っている。その様子をリボーンは遠巻きに見ていた。 「りぼーん〜」 奈々と綱吉を堪能した家光はリボーンへも抱き着いた。いつもならここで、リボーンの拳が腹に飛んでくるが今回は違った。なにも反応せず、空いた隙間を使って器用にチキンをもぐもぐと食べている大人しいリボーンしかいなかった。 「え?なに?どうかした?誕生日だからって大人しくなんなよ、りぼっっ!!」 無反応なリボーンを気味悪がり、余計なひと言を言う家光。そのために、いつもの倍の力のこもった拳を腹に入れられた。痛みに蹲る家光を余所に、そっぽ向いたリボーンは席に座って次の料理へと手を伸ばしていた。 「なにかあったのか?」 「ふふっ、内緒」 リボーンの様子を不思議に思う家光が尋ねたが、嬉しそうに唇に人差し指を触れさせてなにも言わない奈々がいた。 そろそろデザートがほしくなる頃、奈々は誕生日ケーキと一緒にあるものを出してきた。それに気づいたリボーンは、ぴくっと眉を動かすが見なかったことにする。 「まずはケーキよ♪」 テーブルに置かれたケーキにはしっかりと、『リー君 お誕生日おめでとう!』と書かれていた。ローソクとマッチを探しに行った奈々の隙を見て、初めて見るケーキに興味津々の綱吉が近づいていく。まずい!と思った家光が近づいたが…。 「あー」 べちょと聞こえそうなほど、綱吉の手がケーキへと埋まっていた。綱吉以外の皆が固まる。家光と奈々は、石化したように固まったが、リボーンは違った。 「あは、ははっ!」 なんとあの無感動、無表情のオンパレードなリボーンが腹を抱えて笑っているのだ。沢田家に来て、初となる笑い声を聞いた家光と奈々はどう対処していいのかわからない。そんな二人を余所に、目に涙を浮かべながらリボーンは綱吉へと近づいた。 「これは遊ぶもんじゃねぇぞ」 きょとんとした綱吉を自分のあぐらの上に座らせ、人差し指で掬ったクリームを口元へ持っていく。食べ物だと判断したらしい綱吉は、リボーンの指ごとパクっと食べてしまった。 「旨いだろ?ケーキっていうんだぞ」 「あい!」 美味しいと意思表示をした綱吉は、自分の手についたケーキも食べ始めた。しかし、てについたのをそのまま口に持っていったため、口の周りはクリームとスポンジだらけになってしまった。 「きったねぇ食べ方だなぁ」 言葉は悪いが、楽しそうに口元についたクリームを取ってやり、口へと運んでやる。その楽しそうな光景は、本当の兄弟さながらだった。そんな二人を今の今まで固まっていた家光と奈々が、涙目になりながら見つめていた。奈々に至っては、零れ落ちエプロンで拭っている。涙を零さないと頑張りつつ、家光はしっかり奈々を抱きしめていた。 二人が半分ほどケーキを食べ終わった頃に、見とれていた奈々が覚醒した。 「あ、もう一つあるのよ!」 二人そろって仲良く不思議そうに奈々の方を見るリボーンと綱吉。綱吉は不思議そうなままだったが、リボーンの顔色が若干変わった。 「じゃじゃじゃーん!トリュフでーす♪」 製作者でもないのに、堂々と披露する奈々。奈々の手元にはリボーンの作ったトリュフがあった。 「ふふっ、リー君のお手製よ!」 「へぇ…凄いな!」 初めてお菓子を作ったとは思えない出来栄えに、家光は感心する。リボーンはばつが悪そうに斜め後ろを向いていた。ちなみにこれは、後で綱吉にこっそりあげようと思っていたものである。 「まずはつー君に」 奈々は一つトリュフを摘み、綱吉の口元へと持っていった。あーんされた綱吉は素直にそれを口に含む。もぐもぐと食べ、ごくっと飲み込んだ。 「リー君が作ったんだよ!おいしい?」 「おーい!」 「あら?初めての言葉だわ!」 よく奈々が綱吉に物を食べさせるときに尋ねるが、綱吉は美味しいとは言えなかった。しかし、リボーンのトリュフで美味しいということができるようになった。 「あーあ。リー君に先越されちゃった」 投げやりに言う奈々だが、その顔は嬉しそうだ。家光は後ろで号泣している。リボーンは、そっぽ向いている。 「つー君、お兄ちゃんにありがとうは?ありがとう」 「う?あーと!おにー!」 くるっと振り返り、満足そうな笑顔を浮かべてお礼を言う綱吉。それにそっぽ向いていたリボーンの顔がみるみる紅くなるの一秒前。 頬どころか耳まで紅くなったリボーンは、この笑顔を絶やすことのないよう、小さく心に誓うのだった。 |