アルコバレーノ




先ほどの脅しから、スカルは綱吉捜索隊に駆り出された。他のメンバーも探しているとは思うが、限りなくゼロに近い。そのため、結局はスカル一人で綱吉を探しに行くはめとなっているのだ。

「絶対、帰ってるだろ…」

とりあえず綱吉の教室に向かうことにしたスカルは、廊下の窓から校庭を眺めながら歩く。外で練習をしている部活動生の大半は後片付けを始めているし、練習しているのは野球部くらいだった。

「なんでこう、めんどくさい役柄についたんだろ…」

ため息を一つつきながら、スカルはあと三つ先にある教室へと足を運んでいった。



リボーンから下された命令は一つ。今日、必ず沢田綱吉を音楽室に連れてくること。本人が拒否するなら、無理やり連れてくるか、自分に連絡を入れる…というものだった。



「やっぱりいない。…あれ?」

教室に入ったスカルは辺りを見回す。誰一人いなく、辺りはがらんとしていた。しかし、一つだけ学生鞄の置かれた机が一つあった。

「はは…、まさかな」

出来るなら自分の予想を裏切ってほしいと願いながら、スカルはその持ち主の名前を見る。残念なことに、スカルの予想は当たり、鞄の持ち主は綱吉だった。

「オレ、見つけるまで帰れねぇじゃん」

ガクッと項垂れながら、スカルは教室を後にした。

引っ込み思案な綱吉が行きそうな場所を予測して、スカルはトイレへと向かっていた。メンバーに泣かされるとき、よく逃げ込んでいた場所でもある。スカルにとって一番安全な場所であるから、綱吉にとっても安全なんだろうと思いながら歩を進めた。

「沢田ー、いる?」

ドアを開け、声を掛けてみるが人がいそうな気配はしない。念のためと、わざわざ中に入ってまで確認したが、誰もいなかった。

「どこにいるんだ…。あいつ」

綱吉が行きそうな場所を考えながら、第二の逃げ場でもある屋上へと向かっていった。






「あ…れ?」

辺りは茜色をした夕焼け空。綱吉はそんな空のとき、目を覚ました。

「寝てた…」

サボったが、授業が終わったら帰るつもりでいた。こんな遅くなるほど、寝るつもりはなかった。最悪…と思いながら、貯水タンクから降りようとした、そのときだった。

「沢田ー、いたりする…?」

扉のほうから、スカルの声が聞こえてきた。綱吉は降りようとしていた足を止め、息を殺しながらじっと潜む。スカルは一通り見回し、綱吉がいないと思ったのか出ていこうとする。それに安心した綱吉は、ゆっくり緊張を解いていく。

「あ、忘れてた」

なにか思い出したスカルは戻ってきた。それから上を向き、貯水タンクへと繋がる梯子を上ってきた。慌てて隠れる綱吉だが、狭いスペースに隠れる場所などなく、すぐに見つかってしまった。

「…いた。けど、なにしてんの、お前」

しゃがみこんでいる綱吉の視線の先には、いつもと口調の違うスカルが立っていた。





「遅くまで屋上にいるなんて、暇人だね、お前」

「…」

綱吉とは離れた距離に座るスカルは、綱吉に声を掛ける。しかし、バンドをサボっていた手前、なにも言うことが出来ないでいた。怒られたら怖いという思いもある。

「オレは忙しかったよ。どっかの誰かさんが、なーんにも言わずサボるんでね。その捜索に駆り出されてた」

「…ごめんなさい」

「謝ってほしいわけじゃない。慣れてるし。で、なんで来なくなったわけ?」

謝る綱吉に、スカルは言う。自分で言ってて悲しくなるが、慣れているから怒る理由はない。ときどきは嫌になるが…。

「…」

「言うつもりはないっと」

「そ、そういうこと…じゃ…」

「別にいい。言わなくて。誰にだって言いたくないことってあるし。無理に聞きたいとも思わない」

言われた通りに、スカルは携帯でリボーンとメールをしながら、綱吉とは視線を交えず会話をする。綱吉にとってはそれがありがたかった。無理に聞きたくないと言ってくれたスカルに安心感を抱いた綱吉は、少しずつ話を始めた。

「…怖かったんだ」

「リボーン先輩が?」

「合ってるけど、少し違う。…前、話したでしょ?vongolaのTsunaだって話」

「あぁ、したね」

ピコピコとボタンを押しながら、リボーンに屋上にいると連絡をする。すぐ、返事が来て、向かうとの連絡が来た。体育座りをして俯きながら、話をする綱吉には目を向けず、スカルは空を眺めてながら話を聞いている。

「その時はずっとメンバーがいて、俺の人気も辛うじてあるんだろうな…って思ってた。みんなが好きなのは、俺の歌じゃなくて、先輩や同級生の演奏なんだろうなって」

「ふーん」

「バンドをやめて、歌っているとき楽しんで歌ってた。そのとき、リボーン先輩と出会って、歌を褒められた…」

「…」

俯いていた顔をあげ、嬉しそうに空を眺めながら綱吉は話し出した。

「初めてだったんだ!人から自分の歌を褒められたのって!すっごく嬉しかったんだ!!」

ニコニコと満面の笑みを浮かべながら、本当に嬉しそうに綱吉は話す。それを見ていたスカルは一瞬どきりとするが、すぐに顔を逸らして照れた顔を隠す。その様子を気にも留めない綱吉はますます嬉しそうに話し出した。

「メンバーでも、演奏でもない。ただ、俺の歌声を褒めてくれた人がいるって、すごく幸せなことなんだって知った!でも……」

言葉を発しなくなった綱吉をスカルは不思議そうな眼差しで見つめる。俯いてしまった綱吉は、それに気づかず、ぽつりと話す。

「いっつも失敗するし、先輩にも怒られてばっかだし、迷惑だってかけるし…。あんなに褒めてくれた人をガッガリさせちゃったんじゃないか…って不安で。きっと俺の声を好きでいてくれなくなる。それが怖くて、だんだん行けなくなってた」

悔しそうに唇を噛み、涙目になりながら綱吉は話した。それっきりなにも言わなくなった綱吉にはなにも言わず、スカルは梯子の下のほうへと声を掛けた。

「だ、そうですよ。先輩」

「え…」

驚いた綱吉は、スカルとは離れた位置から下を見る。そこには携帯を弄るマーモンと頭の後ろで手を組んでいるコロネロと、腕組みをしたリボーンが立っていた。






「え、あ…。その…」

なにかを言いたいのに、言葉を発せていない綱吉にリボーンは声を掛ける。

「腹が立つ」

「え…?」

リボーンから掛けられた言葉は綱吉が想像していたのとは違っていた。怒られるか、怒鳴られるかのどちらかと思っていたが、今のリボーンはどこか拗ねているように見えた。

「オレは簡単にガッカリなんか一度もしてないぞ。歌がうまい、好きな歌声だと思ったから、ファンになった。それなのに、ガッカリさせただの迷惑かけただので、嫌いになってたまるか」

「…!」

嬉しい。嬉しかった。嫌われていないということが。悔しさが、嬉しさへと変わり、綱吉が涙を堪えきれず、ぼろぼろと泣き出す。今までの思いを流すかのごとく、しゃっくりを交えながら泣いていた。

「な、泣くことは、ねぇだろ…。ま、次サボったら嫌いになるぞ」

「っ…は、い」

嗚咽を漏らしながらも、リボーンの言葉に返事をする綱吉。その時、一瞬、涙目の綱吉と目が合ったことでますます綱吉のことを好きになったリボーンがいた。

「決めた。アルコバレーノがいいぜ、コラ」

突然なにかを決めたコロネロが話し出す。そのため、皆の意識がコロネロへと向かう。綱吉も嗚咽を漏らしながらも涙をハンカチで拭いて、コロネロへと意識を向けた。

「なに?急に。ついにバカから、頭おかしくなった?」

聞き方としては合ってるが、余計なひと言も加えながら、尤もなことをマーモンは尋ねた。いつもなら、ここで喧嘩が始まるのだが、今日は違っていた。

「オレたちのバンド名だぜ!」

「あぁ、まだ決まってなかったね。バンド名。けど、何故にアルコバレーノなわけ?虹じゃん。…7人もいないよ。僕たち」

君、アホじゃないのと表情に諸に出しながら、マーモンは言う。確かにメンバーは5人で、7人もいない。

「それぞれの持ち物と空を見てみろ、コラ」

コロネロ以外の全員が互いの持ち物を見る。しかし、変わったものを持っている者は誰もいないし、空を見上げてもなにも変わったものはない。

「オレのバンダナの迷彩色の緑、パシリのピアスの色の紫、マーモンの携帯の藍、リボーンのシャツの赤、沢田のハンカチの青、そして橙と黄色の夕焼け空。見事、七色揃ってるぜ、コラ!」

確かに全員の持ち物と空の色を加えれば、七色揃っていた。泣き止んだ綱吉が楽しそうに笑いながら、言葉を紡ぐ。

「素敵ですね!アルコバレーノ!俺は、その名前好きです!」

「…決まりだな」

最後に全員の同意を取ったリボーンの言葉で、アルコバレーノが誕生した。














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