リボーンの憂鬱 リボーンと名乗った少年は携帯を取り出し、どこかへと連絡をする。その表情にはあどけなさがなく、子供かと疑うほどの無表情だった。 「おぉ、どうした?」 電話越しに聞こえる声は、少年とは正反対にマヌケそうな声をしていた。そんなどこか抜けているような声をしている男に、少年は淡々と告げる。 「死体を処理してくれ」 「…はぁ?」 「…。死体を処理してくれと言ったんだ」 電話の男からしてみれば迷惑極まりない。突然電話してきたかと思えば、死体処理を頼まれる。思わず聞き返す相手に、リボーンは容赦がなかった。 「もう一度言う。死体処理を頼む。やらねぇと…」 少年はニヤリと笑い、脅す。 「9代目に頼んで、お前をクビにしてもらうぞ」 「ちょ、待てって!誰もやらないとは言ってないだろ!?クビになんかされちまったら、俺の愛するハニーと可愛い天使みたいな息子が途方に暮れちまうだろ!」 「うるせえ!さっさと手配しろ!」 家族について語りだした男に、少年は苛立ちを露わに言いつけ電話を切る。その表情はやっと雀の涙ほどの人間らしさが出ていた。 「まさか死体の中にお前の両親までいるとはなぁ…」 「黙ってろ」 今、二人は電話の男が運転している車に乗っている。一人は飄々とし、一人は不機嫌さを隠さずに座っている。 「悲しかったりしないのか?」 「全く」 リボーンは前を見据え、表情一つ変えない。普通なら泣いていてもおかしくはない年頃だが、頬には涙の後すらない。 「そっかよ」 運転している男、家光はそれ以上尋ねたりはしなかった。リボーンの生い立ちを知っているだけに、尋ねることが出来なかった。 「あ、そういや、お前、俺の家族になったんだわ」 「…は?」 いきなりなにを言い出すんだ、コイツという表情も隠さずにリボーンは家光を見る。そんな表情を見て笑い出したくなるのを堪えながら、家光は事の経緯を話す。 「9代目に電話したんだよ、お前の家族が亡くなったってな。そしたら、すげぇ悲しんでな…。で、一人者になったお前を家族として、傍に置いてやれって頼まれてだな」 「ふざけんな!オレは誰にも頼ったりしねえ。一人で生きていくぞ」 「バーカ、この国でそんなこと許されるはずねぇだろ?13以下の子供にはベビーシッターがつくんだぞ」 「…」 家光とリボーンの住んでいる国、アメリカには13歳以下の子供を一人で留守番させてはいけないという法律がある。そのため、子供を一人にするときにはベビーシッターをつけることが義務付けられている。そんな国で子供が一人で生きていくなんてことは、到底出来るはずがない。 「…本当は自分が養ってあげたかったんだとよ」 「…」 「けどな、忙しい身で傍にいてあげられないから、親戚にあたる俺に任せたんだとさ」 「ふーん」 「普通の幸せを味わってほしいんだとさ」 「…今更だろ、それ」 リボーンは俯いてボソッと呟く。心情を読み取った家光は、それを空笑いで返す。 「ハハッ、確かにな。でも、お前の年齢なら、そういう幸せを味わっていい年頃なんだからな」 それから二人は会話をせず、車は沢田家へと向かっていった。 「ふふっ、お帰りなさい」 出迎えた女性にリボーンは驚いた。ガタイのいい家光に、こんな可愛らしい奥さんがいたことが信じられないでいるのだ。そんな夫婦の二人はまだ新婚ホヤホヤなのか、少年の目の前でキスをしている。 別にいいとは思う。リボーンの生まれたイタリアでは、それが当たり前だった。だが、忘れられてはいい気はしない。 「あら?君がリボーン君?」 今、気づきました満載の顔で、明後日の方向を見つめていたリボーンに、女性は声をかける。その女性はリボーンの頭を撫でながら、自己紹介をする。 「ふふっ、家光さんの妻の奈々です。お帰りなさい」 された行動と掛けられた言葉にリボーンは、どう反応を返せばいいのかがわからなかった。人から頭を撫でられたこともなけりゃ、お帰りなさいと言われたこともない。あんな親が、頭を撫でてくれることはなかったし、帰ってきてもいないのが当たり前だった。 ムスッとしてなにも返さないリボーンに、奈々は優しく笑いながら離れていった。家光とリボーンがリビングへ入ると、なにかを抱えた奈々が立っていた。 「はじめまちて〜、おとうとのつなよしで〜す」 赤ちゃん言葉と取ればよいのか、普通の言葉だと取ればいいのか判断に困る口調で、奈々はリボーンに話しかけた。抱えているものが見やすいよう、しゃがんでくれた。 その抱きかかえられたものは、まだ一歳になっていないであろう、赤ん坊だった。 抱きかかえられている赤ん坊は、奈々の腕の中で楽しそうに笑っている。しかし、不機嫌そうに眉間を寄せているリボーンと目が合った瞬間、泣き出してしまった。 「ふえぇぇ〜ん!!」 「!?」 泣くとは思わなかった反面、赤ん坊が泣けば、体に似合わず大きな声で泣くとは知らなかったリボーンは、思わず後ずさる。奈々も泣くとは思わなかったのか、あやしながら困っていた。 「あら〜?どうちたんでちゅか〜?」 あやすために試行錯誤していたが、泣き止んだのは10分ほど経った後のことだった。だが、まだぐずついており、いつ泣き出すかわからない状態だった。 「うぜぇ」 泣き止んだ後、リボーンはうっとおしさを隠さずに呟く。そんなうざい赤ん坊、綱吉とこれから先の生活を共にしないといけないと思うと、憂鬱になるリボーンだった。 |