赤く染まった理由とは?




最悪の初対面から一週間とちょっと。大学が春休みということもあり、綱吉は毎日のように自動車学校に来ていた。そのためもあり、綱吉とリボーンはすっかり打ち解けていた。

「馬鹿!違うっつってるだろ!次は右だ、右!なんで通り過ぎるんだよ」

「馬鹿ってなんですか!馬鹿って!だいたいさっきも右に行ったんだから次は真っ直ぐじゃないんですか?」

「バーカ。さっき右に行ったとき脱輪しただろーが。だからもう一回同じ道を行こうとしてるんだろーが」

「へー。先生にもそんなに優しいところがあったんですね。僕、知りませんでしたー」

綱吉が棒読み気味で言う。それに対し、リボーンはニヤリと笑いながら言い返す。

「オレはほぼ優しさで出来ている男だぞ。それすら知らないとは…。だからてめぇは馬鹿なんだぞ、バーカ」

やれやれといったふうにご丁寧に手までつけて言うリボーン。それに対し、負けじと綱吉も言い返す。

「あれ?優しい人は馬鹿とか言わないと思うんですよね…。俺の勘違いだったかな…?」

「あー、勘違いだ、勘違い。だから、馬鹿って言われるんだぞ」

ぽんぽんと慰めるように綱吉の肩を叩くリボーン。そのやり方がいちいち綱吉の癇に障り腹立たせる。その気持ちを表すように、リボーンの手を振り払う綱吉だった。

何故二人はこんなにも言い合いをしているのか。それは初対面での一件が関わっている。




一番最初に会った時に、たまたま一時間だけ乗れることになり、実車をしてもらえることになった。簡単に運転するときの手順を教えてもらい、いざ出発した。

外周を何周か回ったのだが、初めてということもあり、真っ直ぐには走れずフラついたりカーブでは回りすぎて車線をはみ出してしまったりと失敗続きだった。普通の先生なら初めてなんだからしょうがないと励まし、次へのやる気を出させるであろう。しかし、この男リボーンは違った。

失敗続きで落ち込んでいる綱吉に対して暴言を吐き、なかった自信を更になくさせどん底に突き落としてくれたのだ。

初日でボロかすに言われて、落ち込みながら二日目も頑張って綱吉は車校に行った。次こそは出来ると自分に言い聞かせてやってはみたが、やはり失敗をしてしまう。その都度、リボーンから暴言を吐かれて落ち込みながら帰る日々が続いた。

けど、よくよく考えたら教わっているのだから失敗は当たり前。失敗しなければ上達もしない。そう考え始めたら落ち込んでいる自分が馬鹿馬鹿しくなり、傍若無人に振舞うリボーンに対して言い返すことが出来るようになっていた。

こうしてリボーンと綱吉は先生と生徒の間柄にも関わらず、自分の言いたいことを言うようになっていた。言いたいことを言うようになってから、沢田から綱吉、そしてツナと呼び名が変わっていった。対して綱吉も、あの!などの他人行儀な呼び方から先生、もしくはリボーン先生と名前で呼ぶようになっていた。






「馬鹿ツナが!脱輪ばっかしやがって。ちったあ上達しろ!」

「どっかの誰かさんの教え方が悪いんじゃないですかー?」

舌打ちをして不機嫌そうに言うリボーンと馬鹿にされたことに腹が立ちリボーンの不機嫌さを助長させる言い方をする綱吉。端から見ればどっちもどっちである。

「言ってくれるじゃねぇか。だったら、今から手取り足取り指導してやるから、それで上手くいけば自分の非を認めろよ?」

ニヤっと自信ありげに笑いながら言うリボーンに対し、今までは手取り足取り指導してなかったのかとツッコミたくなった綱吉だが素直に従うことにした。

「まずは、このまま真っ直ぐ行って緩やかなカーブを行く。そして次にある交差点を左折し、信号を直進する。で、次の突き当たりを右折してここに戻ってくる。わかったか?」

「…なんとなくですが、わかりました」

「よし!じゃあ、行くぞ。アクセル踏んで」

言われた通りにゆっくりとアクセルを踏んでいく綱吉。真っ直ぐ行きながら、カーブを曲がる直前に数回ブレーキを踏み速度を落とす。

「カーブの始まりからハンドルを回して、先の方を見ながら回していく。で、ツナはいつも回しすぎる。こんくらいでいいんだぞ」

前を見ながら指導するのはいつもどおりだが、ひとつだけ違う点がある。ハンドルを持つ綱吉の手に自分の手を重ねながら指導していくという点だ。いきなり触られびくりとする綱吉にはお構いなしに、さして気にせずリボーンは指導していく。

「次は左折だぞ。お前はここではハンドルを回さない。ちゃんと回さないと曲がっていかねぇぞ」

リボーンは綱吉の持っている場所よりも下を持ち、グルッと一回転させる。すると、大回りしていた左折も綺麗に曲がることが出来た。

「やった!」

前を見ながら嬉しそうに笑う綱吉。それを見たリボーンも満足げに鼻を鳴らす。そのまま真っ直ぐ行くと、次は突き当たりにぶつかった。

「で、ここではハンドルの切り返しが早い。だから、もう少し進んで…。今、ハンドルを回す」

いつも綱吉が回す地点より少し先を行ったところで、リボーンは先ほどと同じようにハンドルの下を持ち、一回転させた。すると、だいたいがショートカットになってしまう右折も綺麗に回ることが出来た。

「あ!できた!」

嬉しそうに笑いながら、先を見る綱吉。そして車はゆっくりと元の位置へと戻ってきた。綱吉は停車をさせ、チラッとリボーンの方を向く。そこには意地悪な笑みを浮かべたリボーンがいた。

「なにか言うことはねぇか?」

「えっと…」

バツの悪そうな顔をして、綱吉はリボーンから視線を外す。しかし、その間に流れる沈黙に耐え切れず謝罪をした。

「…すみませんでした」

「たく、最初からそう素直で指導を受けないからだぞ」

謝る綱吉に、悪態をつくリボーン。そう言われたら確かにそうだが、綱吉にだって言いたいことはある。

「…にして……じゃん!」

「なんだ?」

ぼそりと小声で言う綱吉の声が聞こえなかったリボーンは聞き返す。綱吉は強気な視線を向け、今度ははっきりと言った。

「馬鹿にして、全然ちゃんと教えてくれなかったじゃん!」

「は?」

綱吉から言われたことの意味がわからないリボーンはぽかんとする。その顔は凡人が見てもわからない程度のものだが。

「だってそうだろ?いきなり右曲がれだの左曲がれだの言われたってできるわけないじゃん。それなのにできなかったらできなかったで馬鹿にしてくるしさ!」

キッと睨んでくる瞳が潤んでいるように見えるのは、リボーンの気のせいか夕焼けによる反射のせいか。平常時の瞳の色をしていなかった。

「すっごい落ち込んだし、来たくないって思ったし…。行っても楽しくなかったし…」

しゅんと俯きながら言う綱吉を見て、なけなしのリボーンの良心が痛む。最初の印象が悪かったために意地悪をしていたのが馬鹿らしくなってきた。

「悪かったな」

優しげな視線を送りながら頭を撫でてくるリボーンを見て、急に綱吉は恥ずかしくなった。いくら馬鹿にされたとはいえ、泣きそうに言うこともなかったなと思い、視線を逸らす。

「あ!あの、俺、帰りますね!」

なんとなく流れる甘い雰囲気に耐え切れず、後ろに置いていた鞄を引っ掴み綱吉は車を降りる。そのまま走り去って、その場を後にした。その頬が赤く染まっていたのは、夕日のせいだと信じて綱吉は家へと帰っていった。















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