屋上




ぐちゃぐちゃのドロドロ。自分が何をしたいのか、どうしてこんなふうになってしまったのか。考えても考えても、答えはみつからない。綱吉はそのことに、酷くもやもやしていた。

放課後の音楽室から、バンド演奏が聴こえなくなって三日。日にちが経てば経つほど、綱吉は自分の中のもやもやが増えていく気がしていた。

初めて放課後の練習をサボってしまった時は、どうしよう!と不安でいっぱいだった。先輩たちやスカルに怒られるかもしれない、迷惑をかけているのかもしれない。そんな考えがぐるぐると頭の中を巡っていた。

しかし、三日も経てば、そんな不安は無くなった。自分の居場所は無かったんだな、と思えるようになった。別に最初から居場所なんて無かった。ただ、そのことを思い知らされただけ。ただ、それだけなのに、綱吉の心はいつまでも晴れることはなかった。






「みんな青春してるなぁー」

綱吉は屋上から、運動場を眺めていた。今は昼休みで、部活動の生徒たちがグラウンドを走り回っている。主に、野球部とサッカー部が校庭を半分に分け、練習に励んでいる。他にも、テニス部、陸上部なども、それぞれの練習場で練習をしている。

「ふふっ、俺も成長しないな…」

綱吉の癖。何か考え事をするときや嫌なことがあったら、屋上へ逃げ込む。誰にも邪魔をされない開放感が好きなのである。柵を掴みながら、思いっきりため息をつく。もやもやが少し晴れる気がするだけで、現実はちっとも変わらない。

「…みんなに、会いたいな…」

vongolaのTsunaだった時の仲間に。純粋にバンドだけを楽しんでいた、あのころの仲間に会いたい。メンバーだったみんなは、綱吉に優しく接してくれていた。リボーンみたく苛立ちを露に、怒ることもなかった。

「獄寺くん、山本、ヒバリさん、骸…。みんなに会いたいよ…」

いつもいつも考えてしまう。あのとき、もう少し自分が我慢していれば、今頃はもっと楽しくバンド活動が出来ていたのではないのか。と。あの事件の後、みんなは謝ろうとしてくれていた。けど、それを聞かずに逃げ出したのは綱吉自身だった。



−沢田さん!頑張ってvongolaをでっかくしましょうね!

いつもvongolaを有名にするんだと言っていた君。

−ツナ、落ち込むなって!俺はツナの歌声好きだぜ!

落ち込みやすい自分をいつも助けてくれた君。

−ま、小動物にしては上出来じゃない?

最初は怖かったけど、掛けてくれる言葉は優しかった先輩。

−クフフ、貴方の歌はいつも僕を魅了してやまないですね。

独特な笑い方が特徴で、自分の声が一番好きだった君。



綱吉が歌に自信がなくなったとき、いつも四人が助けてくれていた。あのころは歌うことが楽しくって仕方なかった。

しかし、今は楽しくない。

自分が楽しんで歌を歌っていると、胸を張って綱吉は言えなくなっていた。歌うことが好きだったのに、歌うことが嫌になっている自分がいる。そのことを自覚して、更に嫌になり、放課後の練習に行かなくなっていた。





「みんなどうしているんだろ…?」

あの事件の後、誰とも会わずに、綱吉は転向してきた。あの四人なら、またバンド活動を始めると思っていたが、そんな話は聞いたことがない。メインボーカルの綱吉が抜けても、あの四人なら問題はなかったはずだ。

四人とも歌が上手かった。誰かが歌いつつ、演奏をすることも可能だ。それなのに、活動しているという、噂話さえ聞かない。

「ま、活動してても、俺はいらないだろうけど」

クスッと笑っても、元気にはなれない。午後の授業を受ける気になれない綱吉は、屋上で寝てサボることにした。















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