バニラシロップを一滴だけ 綱吉とリボーンは付き合い始めて一ヶ月が経とうとしていた。しかし、二人の距離は縮まっていないように周囲は感じていた。 「なぁ、リボーン。お前はアイツと付き合ってて楽しいのか?コラ」 「あ?」 同級生で同じクラスでもあるコロネロに尋ねられ、リボーンは眉間を寄せつつ答える。その顔には、何故そのようなことを聞かれる理由がわからない、とはっきり書かれている。 「いや…なんつーか…。確かに沢田は可愛い部類に入るが、お前には笹川の方がよくねぇか?」 「そうか?ツナは笹川よりも可愛いぞ」 「…。でもよ、沢田はあんまりお前と一緒にいたがらねぇよな?」 「ククッ…。わかっちゃいねぇな」 コロネロが普段の綱吉とリボーンの様子を思い出しながら言う。それに対し、リボーンは面白そうに笑っている。 「ツナはめちゃくちゃ可愛いんだぞ」 リボーンのノロケに、コロネロが呆れ顔をする。そのとき、綱吉が教室に入ってきた。自分の席に座り、何かをしている。よくよく見れば、菓子パンを取りだし食べようとしていた。 「んー。美味しっ」 幸せそうな顔をしながら、綱吉は菓子パンをパクついている。それを見ながら、リボーンは何かを思いついたらしく綱吉の席に近づいていく。 「?」 コロネロは止めず、意味が分からげそうな顔をしている。 「ツナ」 「ん?なに?」 綱吉の目の前に、リボーンは立ち話し掛ける。それに綱吉も答えるが、菓子パンを食べ続けている。 「旨そうだな、一口くれ」 「いいよ。はい」 リボーンの言葉に、綱吉は菓子パンを一口サイズに千切り取り差し出す。しかし、リボーンは食べようとしない。 「食べないの?」 「いや、食べたいんだが…」 なかなか食べようとしないリボーンを綱吉は不思議そうに見つめている。 「ツナがあーんって言いながら食わせてくれると美味しさ倍増になるんだぞ」 「えっ…と…?」 リボーンの言葉に綱吉は戸惑いを隠せない。そんな綱吉の心情を知ってか知らずか、リボーンは話し続ける。 「『リボーン、あーん』って言って、オレが食べる。そのあとに、『…俺もリボーンに食べられたいな』と言ってくれたらオレはすげぇ嬉しいぞ」 「……。ふ、ふざけるなぁ!リボーンのバカ!ド変態野郎!」 リボーンの言った言葉の意味がわからず、数秒、綱吉は固まる。が、次の瞬間、真っ赤な顔をしながら教室を飛び出して行った。リボーンの頬に平手打ちを残して。 「ククッ…。可愛すぎるぞ」 「…バカだろ、アイツ」 二人の様子を遠くから見ていたコロネロには、そう呟くことしか出来なかった。 「…痛い?」 「いや」 「ホントに?」 「あぁ」 リボーンと綱吉の日課は、互いの家に交互に遊びに行くことだった。今日はリボーンの部屋に来ている。 「…ごめんね」 「気にしなくていいぞ」 「…気にするよ。リボーンの頬に平手打ちして、罵ってから教室を飛び出したんだから…」 「いつものことだろ」 今日の出来事は二人にとって、日常茶飯事なことだった。リボーンがからかい、綱吉が怒る。平手打ちは今回が初めてだったが、リボーンが悪いのだから綱吉が気にする必要はなかった。 「いつものこと…か。俺がリボーンに怒るのはいつものことなんだ」 「…ツナ?」 どうも綱吉の様子がおかしい。いつもはここまで気にしないのに、今日はやけに気にしている。 「ホントはいつも思ってる。リボーンといっぱいイチャついてたいな…って。でも、恥ずかしくて怒ったり叩いたりしてしまう」 「……」 「悪いな…と思う。だって、絶対に俺の方がリボーンのことを大好きで愛してるんだもん。けど、それを否定するようなことばっかしちゃう。ごめんね」 「いいんじゃねぇ、それで」 「え?」 「オレがからかってツナが怒る。オレはずっとそんな関係でいたいぞ」 リボーンの言葉に、綱吉は嬉しそうに笑う。綱吉はリボーンに近づき、額をコツンと合わせる。 「俺もリボーンとずっと一緒にいたい。で、言葉通りになりたいな」 「?」 「…食べられてみたいな」 わかっていないリボーンに綱吉はポツリと呟き、額を離す。その顔は今まで以上に赤くなり、恥ずかしさの余り瞳が潤んでいた。 「お前、可愛すぎ」 そんな綱吉をリボーンは力強く抱き締める。二人の間は幸せな雰囲気に包まれていた。 |