不器用




あれから綱吉とリボーンは話すことすらしなくなった。クラスの皆も仲のいい二人が話さなくなったことを最初は気に掛けていたが、段々と二人が話さないのが当たり前というふうになっていった。

今日はそんな二人が迎える卒業式の日である。

「はぁ…。憂鬱すぎる…」

綱吉は制服に着替えながら、深いため息をつく。卒業式のことを考えると憂鬱さが増していく。だが、卒業式がこんな気分になる原因ではない。

「…隣ってのがなぁ」

アルコバレーノと沢田。名簿順で早いのはこの二人だけである。二人の間に他に早い名前の人はいない。すると、二人が隣同士になるのは必然のことだった。

三年のとき、同じクラスになったことで初めの方は気まずかった。綱吉の目の前の席にはリボーンが座っている。そうなると何かする際に、一緒に組まされたりとしたが、それも始めのうち。席が替われば、二人が接することはなくなった。

しかし、今回はそうもいかない。

卒業式は基本的に全員参加。綱吉はサボり癖のあるリボーンがサボってくれることを願ったが、リボーンには答辞を読むという責任重大な役目がある。学校側も、サボれば卒業を認めないと校長が直々に言ってくる始末。

そのためリボーンがサボることは出来なくなった。

なら、綱吉がサボるという手があるのだが、これも無理である。

綱吉が入学した時も大喜びしていた母親が卒業式にも来る。その卒業式に綱吉がいなければどうなるか。きっと母親は悲しみ、涙を流すだろう。

綱吉には、母親にそんな思いをさせる勇気などなかった。

「げっ!?」

今日こそは遅刻をしないと、早起きしたのが間違いだった。色々と回想しているうちに、いつもと同じ時間になっている。

早起きした意味もなく、綱吉は走って卒業式へと向かう羽目となった。






学校に来て驚いた。来なくてもいい、一年生の女子が人集りを作っていた。いや、よくよく見てみると三年の女子はもちろんのこと、二年の女子まで集まっていた。

何事だろうかと綱吉が、その人集りの原因を探るとすぐに見つかった。

リボーンとの別れを惜しんで、女子がリボーンを囲んでいた。本人は嫌そうに、眉間を寄せて睨んでいるが、女子は怯んでいない。むしろ、それが素敵!と言いながら、どんどん人集りは増していく。

結局その人集りは収まることなく、教師がどうにか対応してやっと収まることが出来た。それは卒業式始まり、五分前のことだった。

並盛高校の卒業式は大体一時間ほどある。その間、ずっとリボーンと綱吉は隣同士で座っていなければならない。離れることがあるとしたら、リボーンが答辞を読むときだけだ。

綱吉にはそれが苦痛だった。傍にいるのに、視線を合わせることすら出来ない。当たり前だと言われれば、当たり前なのだが、ほんのちょっとすら合うことはない。

「答辞、卒業生代表、挨拶」

呼ばれてリボーンは立ち上がる。前へと進み、置いてある答辞の紙を取り、挨拶をする。つらつらと読まれていく中で、綱吉だけは内容は頭に入ってこなかった。

お互いに進学する大学が違う。そのため、今日の卒業式で本当に最後の別れとなってしまう。もう、綱吉がリボーンを盗み見ることもなくなる。

そのため綱吉だけは、じっとリボーンのことを見つめていた。隅々まで、忘れないよう、答辞が読み終わるまで見続けていた。

こうして卒業式は終わった。リボーンと綱吉は一度もお互いの眼を見ることはなかった。






「つー君!お手紙よー」

一階から、母親である、奈々の声が聞こえてくる。綱吉は一階に降りていき、奈々から手紙を受け取り、また二階へと上がっていく。

「誰からだろ…?」

手紙の後ろを見ても、なにも書かれておらず、差出人不明だ。

あの卒業式から数十日が過ぎていた。今日は十四日である。綱吉は、大学への準備で忙しく、はっきり言ってこんな手紙は迷惑だ。誰からかもわからない手紙。気味が悪いと思ったが、一応開けてみた。

「え!?」

そこには思いもよらぬ、人物からの手紙だった。





『ツナへ

ちゃおっス。突然の手紙、すまねぇ。だが、これしか方法がなくってな。オレはお前にずっと言いたかったことがある。けど、なかなか言い出せなくってな。わりいな。

お前に友達やめると言われたときは、正直びびった。オレたち、いつも一緒が普通だったからな。どうしたらいいか、わかんなくなっちまった。

お前は迷惑だったかもしんねぇが、オレはお前といて楽しかったぞ。馬鹿やったり、すんのもな。

あ、そうだ。チョコ、上手かったぞ。お前にしてはよく出来てたな。褒めてやるぞ。多分、このときのオレの反応が悪かったんだろうな。

ツナ似の女にチョコ貰って、もしツナがこんなふうにオレにチョコくれたら…って。らしくねぇ、妄想してた。悪い。

小せぇときから、ずっとツナのことが好きだった。けど、自分で勝手に気持ち諦めて、他の女に手ぇ出してた。お前にオレの欲ぶつけそうだったからな。

気持ち悪いだろ?オレのこと。男なのに、男を好きになる。自分でも笑っちまった。けど、オレは今でもお前のことが好きだ。…いや、愛してるぞ。

オレはイタリアに進学する。そして、そのまま住むことにした。だから、もうお前の傍にはいない。安心しただろ。…けどな、やっぱりお前のこと忘れらんねぇ。

だから、賭けに出ることにした。オレの連絡先は090-XXXX-XXXXだ。もし…もし、お前もオレと同じ気持ちだったら連絡してほしい。ダメならすっぱり諦める。

と、いうより、諦めるしかない。オレの携帯には何にもお前の情報が入ってねぇからな。連絡したくても、連絡が出来ないようにしてある。

…長く書いちまったが、お別れだぞ、ツナ。じゃあな。もう、会うことはねぇが、元気でな。

リボーンより』

「ひくっ…ふっ…あっ…」

綱吉は息がまともに出来ないほど、泣いている。途中で、涙が手紙に零れ落ちたが、それでも最後まで読んだ。ぼろぼろと流れてくる涙は、拭っても拭っても零れてくる。

「っ…りぼーん…」

綱吉は携帯を手に掴み、開く。番号を押し、深く深呼吸をして、自分の気持ちを落ち着けさせる。願いを込めて、通話ボタンを押す。

「…誰だ?」

「あ…リボーン。あのさっ…!」

似たもの同士の恋は、まだまだ始まったばかり。








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