居心地




元気の無さげな気分を露わに、登校している一人の少年がいる。とぼとぼというのが相応しい、元気のない様子で歩いている。

「…今日も怒鳴られるのかなぁ」

鞄をぎゅっと握り締め、綱吉は呟く。一昨日の練習は何故か学校に行ったにも関わらず、無かった。起きたときに、メンバー全員が揃っていたが、なにもせずに帰った。

しかし、今日は違う。いつもどおり、放課後に皆集まり、練習をする。間違えれば、確実に怒鳴られる。

「嫌だな」

綱吉はぽつりと呟く。せっかくあんなふうに笑えることを知ってしまった人から、怒鳴られるのは嫌だった。綱吉が間違えなければ、怒鳴られる心配もないのだが、生憎それが出来たら誰も苦労しない。

「はぁぁ…」

深いため息をつきながら、綱吉は歩く。正門は目の前に差し掛かっていた。






「こんにちは。って誰もいない…か」

放課後。綱吉が一番だったらしく、音楽室には誰もいない。毎回挨拶をするが、毎回誰もいない。当たり前だとは思う。綱吉はホームルームが終わると走って、この音楽室までやってくる。

リボーンから怒鳴られるようになってからは、お馴染みのことだった。

綱吉だってわかっている。自分がどこを間違い、どうして怒鳴られてしまうのか。わかっているからこそ、出来るようになりたくて、一人で練習するようになった。

「よし!ここからだよな」

目の前に楽譜を置き、気持ちを整える。綱吉は楽器が出来ないため、アカペラで練習を重ねている。息を吸い、ゆっくりと歌いだす。

「〜♪」

最初の方は上手く歌えてる。次の小節が綱吉が間違えてしまう所だ。落ち着いて、ゆったりとした気分で歌う。

「あ…間違えた」

どんなに練習をしても、同じ場所で間違えてしまう。その場所が苦手なのか、癖になっているのかはわからないが、間違える。

「あぁー!もう一回!」

苛ついたように頭を掻き毟り、再度歌い直す。今度こそ、上手くいくように慎重に歌う。眼を瞑り、音楽の世界へと入っていく。

「〜♪…あ!」

綱吉は途中で歌うのをやめ、声をあげる。間違えている所の注意をしっかりと思い出しながら、きちんと音程を合わせて歌うことが出来た。

「歌えたぁ!!」

嬉しくって思わず飛び跳ねながら、綱吉は喜ぶ。楽譜を抱きながら、嬉しさの余りくるくると回りながら喜んでいた。すると、ガチャという音が響き、入ってきた人物とバチッと目が合う。

「え…」

恥ずかしさから、綱吉はさっと目を逸らす。入ってきた相手も、何事もなかったかの様に準備をし始める。綱吉の苦手とする相手のため、緊張してしまうが、挨拶をする。

「あ、あの…こんにちは。リボーン先輩」

「あぁ、ちゃおっス」

二人の間になんとも言いがたい、気まずい空気が流れた。






その後、体育委員で遅れてきたコロネロとスカル、魔術委員で遅れてきたマーモンと、五人が揃い練習をする。少し遅れての練習だが、いつもと変わらない。

「あ…」

音楽室に綱吉の声が小さく響く。また、間違えてしまった。さっきは上手く歌えたため、ショックも大きい。綱吉は、ぐっと堪え、リボーンに怒鳴られるのを待つ。

しかし、怒鳴られることはなく、伴奏は続けられた。誰も綱吉が間違えたことに気づいていないふうに、演奏は続けられる。綱吉は何がなんだかわからなかったが、それでも歌い続けた。

「よし。二曲目いくぞ」

演奏が終わり、今度こそ怒られると覚悟していた綱吉だが、リボーンはなにも言わず二曲目へと入っていった。誰もなにも咎めたりしない。綱吉にとって酷く居心地の悪い演奏となる。

そんなふうに、綱吉が間違えても、誰もなにも言わない練習が一週間ほど続いたある日。綱吉は音楽室へと近寄らなくなっていた。















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