血の味




リボーンは料理本を片手に、せっせと料理を作っていた。一番初めに一緒に食べたクリームシチューに、ミートスパゲティ、綱吉の好きそうなハンバーグなど様々なものを作っていた。お菓子好きでもある綱吉のために、食後のデザートも忘れない。

テーブルに並べ、完成度を見てリボーンは満足そうに頷く。これならアイツも食べてくれるだろう。

「ツナ、飯出来たぞ」

リボーンは涙の跡が頬に残っている綱吉を揺すって起こす。最初はぼーっとしていた綱吉だが、覚醒するとリボーンを嘲笑い睨む。

「…俺のこと殺したくなったの?」

「いいや。飯が出来たから食べるぞ」

「はぁ?」

綱吉は、コイツ馬鹿なんじゃないのとでも言いたげな視線をリボーンに送る。敵である吸血鬼を生かそうとする馬鹿者なんて、普通どこにも居ない。

「いいから食べるぞ」

「気安く触るなっ!」

怪我をしていない方の腕を掴み立たせようとしたリボーンの手を綱吉は引っ叩いて払い除ける。乾いた音が部屋に響き渡り綱吉は、あっ…と声を漏らすが、リボーンから視線をそらす。

「…いらない。人間なんかが作ったやつなんて食えるか」

「なら、食わなくていい。目の前にいろ」

「…なんで?」

「逃がしたくねぇから」

そうリボーンに言われて、綱吉の胸はズキっと痛んだ。逃がさないで、生かされても、結局は殺されてしまう。殺すなら早く殺して欲しいのに、殺さないで欲しいとも思っている。

ずっと傍に居たいと思っている。…叶わぬ願いだけれども。

リボーンに手を引かれ、抵抗もせずに綱吉はリボーンと向かい合って座った。目の前にあるご馳走に目が行くが、いっさい食べようとはしなかった。






「っ!いい加減にしろよっ!」

バンっ!とテーブルを叩き、綱吉は怒鳴る。目の前に座っていたリボーンは、何食わぬ顔で味噌汁を啜っていた。綱吉には、その態度さえ腹が立ってくる。

「毎日毎日厭きもせず座らせて何がしたいんだ!」

食事の時に綱吉を目の前に座らせるようになって、一ヶ月ほどが過ぎた。綱吉を殺すわけでもなく、ただ目の前に座らせる。綱吉にはリボーンが何がしたいのか分からないでいた。

「一緒に食事がしたい。それだけだぞ」

「ふざけんなっ!」

もう一度、バンっ!と叩き怒鳴った。限界だった。毎日毎日ただ一緒に向かい合うだけ。それ以外ではいっさい話したりしない。一緒にいるだけで、苦痛なのに飄々としているリボーンが許せなかった。

「…帰る」

なにを言っても聞く耳持たぬなリボーンと会話していてもなにも変わらない。殺す気がないなら、勝手に出て行ってやる。クルッと背を向け、綱吉は歩き出した。怪我も治ったので、やられたらやり返せばいい。

「っオイ!」

しかし、焦ったようなリボーンの声は綱吉には届かなかった。背を向け数歩進んだところで、綱吉は崩れ落ちるように倒れてしまった。






「ん…?」

「気がついたか?」

ぼんやりとする頭で綱吉は目を覚ました。何故だか目の前にはリボーンがいた。状況を確認するとリボーンの膝の上に向かい合わせで座っていた。

「…なんでっ?」

綱吉は服をぎゅっと握り、なにかに耐えるかのようにして、呟いた。

「もう、いいでしょ。ハンターなんだから、吸血鬼殺してもいいんだよ。俺がボンゴレなんだから、殺したら吸血鬼いなくなるんだよ。っ…身代わりとして、助けないでよ」

最後のほうは震える声で泣きながらだったが、言いたいことは言った。殺されるのは嫌だが、綱吉にとって身代わりとして生かされるのは辛くてたまらなかった。だから、嘘をついてでも殺して欲しかった。

「やっと泣いてくれたな」

優しくリボーンに抱きしめられた綱吉は驚きで涙が止まる。綱吉には嬉しそうに言うリボーンの気持ちがわからない。

「毎日オレに酷いこと言ったと思って泣いてんのに、抱きしめることも出来なかったんだぞ。オレに嫌われようと嫌味ばっか言って、泣くのを我慢してるツナを見るのが嫌だった」

辛そうに言うリボーンには申し訳なかったが、それ以上言って欲しくない。身代わりなのに、身代わりじゃないんだと勘違いしそうになる。頭が痛くなって、呼吸も苦しくなってきた。

「殺すつもりもないのに、ボンゴレだと嘘をついて殺されることを願っているツナを見るのも嫌だった。…血、飲んでいいぞ」

「え…?」

急に話を変えたリボーンに、綱吉はぽかんとしてしまう。その表情にククっと笑うリボーンは、綱吉の顔を自分の首筋に持っていく。

「なにも食わないでいたから、貧血起こしてるぞ。とりあえずオレの血でも飲んで回復しろ」

「っ…嫌だ!」

バッと綱吉は自分の顔をそむけ、リボーンの首筋に目をやらないようにする。確かにお腹は空いてて、今すぐにでも血が欲しかったが、リボーンの血は欲しくない。

「いいから」

しかし、グっと首筋に顔を持っていかれ、後頭部に手を置かれてそのまま固定される。もう、綱吉にはリボーンの首筋から発せられる甘い香りに抗うことは出来なかった。ゆっくりと首筋に唇を触れて、牙を立てる。牙が皮膚を裂く音がして、血が口に染み渡っていく。

「!…うそだ」

一口飲んだだけで、綱吉は顔を上げる。目の前にはニヤッと不敵に笑うリボーンがいた。そのせいで、綱吉は混乱してしまう。リボーンの血の味は…。

「これがお前に対するオレの気持ちだぞ」

「っ…!」

綱吉のことを愛しく想っている味だった。

途端にボロボロと大粒の涙を流して泣き始めた綱吉を優しくリボーンは抱きしめる。そして、極上の声音で耳元で囁いてやる。

「愛してるぞ、ツナ。ボンゴレでも、身代わりでもない、お前を一番愛してる」

その言葉に涙腺が壊れたんじゃないかと思うほど泣き出した綱吉をリボーンはぎゅっと抱きしめた。もう、二度と離さないよう、強くいとおしく。





終わり



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