本心 ふわふわと雲の上に寝ているようだ。とても心地よくて、ずっとここに居たい気分。しかし、突然何者かが邪魔をしてくる。ぎゅっとなにかに縛られ、身動きが取れない。 「う、うーっ!」 綱吉が目を開けると、目の前になにかがいた。黒い洋服が目に入ってくる。そのまま顔を上げると、よく見知った人物が居た。 「おれ…」 まだ寝惚けている頭で考える。確かコロネロって奴に撃たれて、リボーンに運ばれ、手当てを拒否した。けれど、綱吉の肩には包帯が巻かれ、手にも巻かれている。 「っ!」 気づいたときには綱吉はリボーンを蹴っていた。早く起きて、とっとと出て行ってほしい。 「って。ん?起きたのか?」 「出て行け!何故、俺が人間と寝なきゃいけないんだ」 「は?」 「出て行けと言ってるだろ!俺はお前と一緒に居たくない!」 「はいはい」 キッと綱吉が拒絶と嫌悪を滲ませて睨むと、リボーンは起き上がり降参しましたとでも言いたげに出て行った。 「…ほんと、きらい」 優しくされるのも、一緒に居るのも。全部身代わりだからとわかっているのに、勘違いをしてしまう。 もしかしたら…、と。未だに期待している。 しかし、身代わりでもいいと思う自分が嫌いだ。優しくされて、嬉しい自分が嫌い。喜び、感謝している自分が嫌い。 綱吉は耐えるように唇を噛み、静かに涙を零していった。 「…身代わり、か」 小さな呟きが部屋に響く。今頃、あの小さくて可愛いヴァンパイアは泣いているのだろう。人知れず、じっと息を殺して。 そうさせているのは自分だが、今はどうすることも出来ない。 本当は抱きしめて、うんと甘やかして、本当の気持ちを言ってやりたい。しかし、そんなことをすれば、人のために泣ける心優しいヴァンパイアを更に傷つけるだけだ。 「はぁ」 リボーンは机に近づき、立てかけてある写真立てを取り、眺める。綱吉がこの家を出て行く原因となった写真。 そこには自分が家族として愛した弟が写っていた。家族に家族だと認められなかったリボーンを唯一家族だと認め、慕ってくれていた。 だが、そんな可愛い弟も吸血鬼に殺され、この世を去った。それから狂ったように吸血鬼殺しをしていたリボーンと出会ったのが、弟そっくりの吸血鬼だった。 見つけたときは驚愕した。馬鹿馬鹿しいと思ったが、身代わりとして家に連れてきた。それから一緒に暮らして、楽しい日々を過ごした。最愛の弟を忘れてしまうほど。楽しい時間だった。 居なくなってから気づいた。弟を殺した憎きヴァンパイアなのに、そんなの関係なしに愛している。ずっと一緒に居て、たくさん愛を囁いてやりたい。 「さて、と」 まずは信頼を取り戻すのが先決だと、リボーンは料理本を開き、どれがいいか吟味し始めた。 |