気遣いと優しさ




リボーンは家につくと、綱吉をソファーの上に下ろし、別の部屋へと向かった。肩から来る痺れで首しか動かない綱吉は、視線を様々な方向に向ける。

なにも変わっていなかった。家具の位置も、置かれている物の位置も。変わっていないといえば当たり前なのかもしれないが、過ぎた月日は数年でも、綱吉にとっては何十年にも思えた。

懐かしささえ覚える自分は、本当に馬鹿なのかもしれない。相手は自分を殺そうとしているのに、のほほんとそんなことを考えている。

「肩、見せてみろ」

「え?」

物思いに耽っていた綱吉に、声が掛かる。見上げると、救急箱を持ったリボーンがいた。警戒心を露わに、綱吉はリボーンに訊ねた。

「…なに、する気?」

「なにってアイツに撃たれただろーが。傷を見せろ。消毒しねぇとマズいぞ」

「―っ!いやっ!」

服を脱がせて肩の手当てをしようとするリボーンの手を綱吉は叩き払った。その衝撃で、綱吉の肩には激痛が走る。痛みで蹲る綱吉にリボーンが声を掛ける。

「言わんこっちゃねぇ…。あの銃弾には相当な痺れ薬と毒薬が塗られてたんだぞ。手当てしねぇと…死ぬぞ」

「触るな!!」

手当てをしようと近づくリボーンを今度は足で蹴り飛ばす。胸元を蹴られ驚いているリボーンに構わず、綱吉は怒鳴った。

「お前と俺は知らない同士だろ!俺も知らない奴なんかに触れて欲しくない!」

「だが…なぁ」

もう一度、触れようとしたリボーンを綱吉は睨みつける。一緒に過ごしたことすら忘れる奴なんかに触れて欲しくなかった。

「殺せばいいだろ、俺を。あぁ、それともなに?ボンゴレだからって怯えてるの?そうだよねぇ。人間にとって吸血鬼、それもトップとなれば怖いもんねぇ」

突如としてがらりと雰囲気を変え、綱吉は子馬鹿にしたように嗤いながら言う。いきなり変わった綱吉に、リボーンは動揺が隠せなかった。

「今しかチャンスないのに。ふふっ、殺せない臆病者…だもんね」

さすがのリボーンもここまで馬鹿にされては、我慢ならなかった。

「フン!そのまま野垂れ死んどけ」

苛立ちを露わにして、リボーンは部屋を出て行った。







「ふうっ…」

綱吉は張り詰めていた息を吐き出した。それだけで、痛みが更に増した気がする。

「…変わってないなぁ」

本当に変わっていなかった。ソファーへとゆっくりと下ろしてくれた気遣いも、怪我を手当てしようとしてくれた優しさも、なにも変わっていなかった。

「でも…」

綱吉にとっては、その気遣いも優しさも痛くて堪らなかった。されればされるだけ、自分がハマっていきそうで怖い。

これでいいんだ。さっきので拒絶して嫌われたのだから。

「っ…!!」

ズキっと今まで以上の痛みが全身を襲い、綱吉は眠るようにして気絶した。願わくば、このまま覚めないでいて。






綱吉が眠るように気絶して数十分後。リボーンは起こさないように、忍び込み、綱吉に近づく。

「…やっぱりな」

しゃがみ込み、服を肌蹴させると、痛々しい傷が出来ていた。すぐさま傷の手当てをして、大事に至らないようにする。薬を塗り、包帯を巻いてやる。
もう大丈夫だろうと顔を伺えば、脂汗を浮かばせていた。急いで額に手を置くとそこは熱くなっていた。

「拒絶反応か…!」

毒薬による拒絶反応を身体が引き起こし、熱を出していた。素早く薬を用意して、飲ませようとする。

「口を開けろっ!」

綱吉の口元に薬を持っていくが、口を開こうとしない。苦しそうに唸っているから、早く楽にさせてやりたいのに開かない。

「ちっ!」

リボーンは舌打ちをして、自分の口に薬と水を含む。そのまま綱吉の口に近付け、口移しで飲ませていく。喉仏が上下するのを確認して、ようやく息をつく。

「ふぅ…もう大丈夫だな。ん?」

何故がリボーンのシャツは赤色に染まっていた。その原因を探ると、簡単に行き着いた。

「…馬鹿だろ」

綱吉が握りしめた手から流れていた。リボーンのシャツを無意識的に握っているため、血が滲んでいた。
ただ握っただけではこうはならない。ましてやシャツを巻きこんで握りしめている。あり得ないことだった。

少し思案しただけでわかった。突然雰囲気が変わったあの時。綱吉は自分の手を傷つけて痛みを紛らわすことで、あの自分を保っていたのだ。人を子馬鹿にして、冷たい雰囲気を纏っていた。

そちらの手当てもしてやり、リボーンは綱吉を抱きしめた。

「バカツナが」

小さく呟き、少しでも綱吉の痛みが軽くなるよう願いながら。壊れないよう、優しくぎゅっと抱きしめ、一緒に眠りについた。















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