正反対の想い 「ツっ君、また行っちゃうの?」 「ツナぁ〜!行かないでくれぇ〜!」 寂しそうに言う母親、男泣きをして引きとめようとする父親。二人に対して、申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、出て行くことにした。 「うん。戻るよ。ごめんね…」 「…ふぅ。貴方がなにに悩んでいるかは、大体わかったわ。想い続けるなり、諦めるなり、自分でしなさい」 謝る綱吉に、母親はため息をついて諭した。綱吉は内心ひやひやだったが、勘付いた母親と泣きじゃくる父親を残して出て行った。 「…あの子も私に似たのかしら?」 「なにがだ?」 綱吉が出て行った後も泣いている家光に答えることはせず、中に入りましょと家へ入ることを奈々は促した。 綱吉は、急ぎ足で屋敷へと向かいながら、ふと考えた。別に家にいることが嫌だったのではない。吸血鬼と人間が仲良く暮らしている…その光景を見るのが嫌だった。 父さんのことも、母さんのことも嫌いではない。むしろ好きである。それでも、見ていたくはなかった。 「気づかれた…よな」 ぽつりと呟く。母さんの言葉。明らかに気づいていた。自分が何に悩んでいるのか。しかし、自分で考えることを諭してくれた。 綱吉は母に感謝しながら、足を速めた。 「ちっ…何処にもいねぇぞ、コラ」 男は舌打ちをして、特徴のある口調でぼやきながら辺りを見回していた。金髪碧眼で迷彩柄の服を着ている男、コロネロは吸血鬼を探していた。 「アイツも腑抜けやがるし」 コロネロのいうアイツとはリボーンのことである。普段は我先にと獲物を求めて、吸血鬼を殺しまくる奴だった。しかし、近頃は違っていた。 篭りがちになり、滅多に吸血鬼殺しもしなくなっていた。なにかを調べては考え事に耽っていた。 今日はコロネロが叩き出し、吸血鬼ハンターとしてヴァンパイア殺しに参加している。 「……見つけたっ!」 コロネロが探していた獲物が見つかり、近づいてライフルを放った。辺りに、銃声が鳴り響いた。 「いたのか!?」 リボーンは急いで銃声の鳴り響いた原点へと走った。 「っ…!」 まただ。また、撃たれた。肩に撃たれた銃弾は掠ったが、それでも痛い。全身が痺れてきた。 自分を撃ったハンターは来ていないのを確認しながら、綱吉はゆっくりとだが逃げる。 「あっ…っ!」 肩から激痛が走り、綱吉はその場に倒れ込む。早く逃げなきゃ!と気は焦るが、身体は動いてくれない。 「見つけたぞ、コラ!」 綱吉が声のする方を向くと、そこにはライフルを持った男が立っていた。ライフルを構え、綱吉に標的を定めていた。 「いたのか?」 「!」 ライフルを持った男が引き金を引こうとしたとき、別の声が聞こえてきた。聞き覚えのある、求めてやまない声が。 「あぁ、コイツだ、コラ」 男が近づいてくる気配がする。嫌だ。見たくない。見られたくない。見られたら、終わりな気がする。しかし、綱吉の気持ちとは裏腹に近づいてきた男と眼が合った。 「なっ」 「っ…!」 だから、見たくなかった。見て欲しくなかった。 「知り合いか?コラ」 「いや、知らねぇぞ。こんなやつ」 金髪の男に聞かれ、リボーンは淡々と答えた。 その言葉に綱吉は身体よりも心が痛んだ。心臓を杭で突き刺されたような痛み。全身がバラバラになっていく様な痛みがする。 リボーンの言葉に悟った。一緒に暮らして楽しい気持ちを味わったのも、離れて暮らして寂しい気持ちを味わったのも、全部自分だけだったのを。 全部、全部、自分独りだけだった、と。 「コイツはオレが責任もって殺してやるぞ」 「オイっ!」 コロネロから了解を得ずに、リボーンは綱吉を抱きかかえ歩いていく。その間、綱吉は抵抗しなかった。否、抵抗する気が起きなかった。 このまま殺されてもいい、とさえ思った。 「…、殺す奴が姫抱きするか?コラ。……まさか…な」 引き止めることが出来なかったコロネロは少し考え呟く。そのまさかが当たっていることを知るのは、まだ先のことである。 |