家族




「ふう…」

一人で月を見ていた綱吉はため息をつく。バジルの前で泣いてしまった日から随分と日が経っていた。だが、綱吉の心にはあの人が住み着いている。

「ダメだなぁ…。いい加減忘れなきゃ!」

パシっと綱吉は両手で自分の頬を叩いて、気持ちを切り替えようとする。しかし、頬が痛むだけで気持ちは切り替わってくれない。

「あぁー。ダメだぁ…」

切り替えようとしても、やっぱり綱吉の心はあの人が占めていた。項垂れつつも、月を見ることで忘れようとした、そのときだった。

「綱吉殿!」

「ん?」

バンっと乱雑に扉を開けて、バジルが入ってきた。それはいつものことだから、綱吉も特に咎めたりはしない。だか、様子がおかしかった。泣いている。

「母方様が、母方様がっ!!」

「え!?」

バジルから事情を聞いた後、綱吉は血相を変えてボンゴレの屋敷を飛び出していた。






バジルが泣きながら話した事情はこうだった。

父親が出張中で誰も家を守る吸血鬼がいなかったとき、一人でいた人間の母親が吸血鬼に襲われたらしい。
吸血鬼と人間が一緒にいることが気に食わない吸血鬼に。

父親が出張から帰ってきたときには、部屋はめちゃくちゃで母親は血を流して倒れていた。急いで救急処置をしたが、危ういらしい。

「っ…!」

死なないで…と祈りながら、綱吉は自分の家へと急いで向かった。

「母さん!」

「あらぁ、ツっ君」

バンっと綱吉が乱暴に扉を開け、転がるように部屋へと入る。しかし、想像していた惨い部屋のありさまではなく、いつもどおりの部屋だった。

そして、何事もなかったかのように、これまたいつもどおりな綱吉の母親がそこにいた。

「へ…?」

状況が飲み込めず、ぽかんとしている綱吉になにかが抱きついてきた。それは、おいおいと泣きながら抱きついている。

「ツナぁ〜!父さんは心配で、心配でぇ〜!」

「ちょっ、離れてよ!」

吸血鬼のくせして、男泣きをしながら抱きついてくる父親を綱吉は引き剥がす。この訳のわからない状況を聞くため、綱吉は口を開いた。

「いったいどういうこと!?」

「実はね…」

いつもおっとりとしている母親が、申し訳なさそうに話し出した。





「はぁ!?じゃあ、息子に会えなくて寂しがっていた父さんのために、こんな芝居をしたわけ?」

「そうなの。いつも泣いている家光さんが見てられなくて…。ごめんね、ツっ君」

謝る母親には悪いが、綱吉は呆れていた。

聞いた話はこうだった。

バジルが綱吉を心配して、父親に相談に来た。そしたら、自分が元気にするから嘘をついてでも綱吉を自分の家に来させろと。

しかし、それは嘘で自分が会いたいがために、弟子を騙したわけだった。

まんまと騙されたバジルは、泣くまで演技をして綱吉を帰らせた。…憐れである。

「父さんは大切に育てている弟子を騙してでも綱吉に会いたかったんだぞ!」

「だからって弟子を騙す師匠が何処にいるか!…あ、ここにいたわ」

「つ、ツナぁ〜」

子供みたく言う父親に、綱吉は最初はツッコミ、次に呆れたように言った。それが嫌で、抱きつこうとした父親を綱吉はすっ…とかわす。

涙目で見つめてきたが、知るか。

「でも、心配もしてたのよ。ツっ君ったら、いつまで経っても帰ってこないから。なにかあったの?」

普段は天然な母親…奈々であるが、へんに鋭いところもあったりする。綱吉は内心ギクッとしてたが、それを隠し答えた。

「う、ううん。なにもなかったよ」

「…それならいいわ。もうボンゴレ邸に帰らなくていいのよね?」

「うん。まぁ…」

「なら、また一緒に暮らしましょ」

母親はなにか勘付いたかもしれないが、また一緒に暮らすこととなった。
















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