チョコに込めた気持ち




「う…。眠いよ」

綱吉は寝ぼけ眼を擦りながら階段を上り、教室を目指す。しかし、黒山のような人だかりのせいで前には進めない。全校の女子が皆、集結しているのかと思うほどの人だかりだ。

「すごい…」

綱吉には女子を押しのけてまで、教室に入るほどの度胸はない。結果、担任が大声を張り上げ女子の群れを分散するまで綱吉は教室に入ることが出来なかった。

いそいそと教室へと入り、綱吉は席に着く。隣を見ればリボーンが珍しく疲れきった様子で担任の話を聞いていた。思わずくすくすと笑っていると、ぎろっと睨んできた。

「散々だったね」

「当たり前だ」

不貞腐れたようにリボーンは机へと伏せてしまう。担任が注意しても起きる様子はない。綱吉が揺すっても起きはしない。今日一日はこうしているつもりらしい。

「寝過ごしてもしらないからね」

「んなことはしねぇ」

寝てしまったリボーンを横目に、綱吉はくすくすと笑っていた。






「とまらないねぇ」

「いい加減失せろ」

いつも女性に優しいフェミニストのリボーンも暴言を吐きまくっていた。最初は丁寧に対応していたリボーンだが、昼休みになっても止まらない女子の群れには不機嫌さを隠しきれていない。

慣れとは恐ろしいもので、最初はリボーンの不機嫌に戸惑っていた女子も、今はその不機嫌さもカッコいいと言いながらチョコを置いていく。

「それで何個目?」

「しらん」

授業が始まる前に教師の目にチョコが止まり、没収されていた。今は昼休みのため、机の上に山積みにされたチョコが大量にある。あと数個置けば、崩れ落ちてきそうなほどだ。

教室はチョコの甘い香りに包まれている。多分、これもリボーンが不機嫌になる原因なんだろうと綱吉は推測している。弁当の匂いが負けて、チョコの香りが充満している。その中で食べる昼ごはんは、はっきり言って美味しくない。だからと言って別な場所で食べれば、女子軍団はその場まで来そうな雰囲気もあった。

そのためリボーンは大人しく自分の席でご飯を食べていた。

「あ、また持ってきた」

前からリボーンにチョコを渡そうとしても山が邪魔して渡せない。その女の子はリボーンの横に立ってチョコを渡してきた。小柄でぴょこぴょこと跳ねているミルクチョコレート色の髪が可愛らしい小動物を思わせるような子。リボーンに直接渡すタイプでは珍しいタイプだった。

綱吉は今までと同じくリボーンは顎を杓って目の前の机の上に置けというふうに指示すると思っていた。しかし、現実は違っていた。

「ありがとな」

「いえ、貰ってくださってありがとうございます!」

リボーンは人にはわからない程度だけど、嬉しそうな顔をしてチョコを貰っていた。女の子も貰ってくれたことが嬉しかったのか、笑顔で教室を去っていった。

「よかったじゃん。次はあの子?」

「まぁな」

綱吉はリボーンの返事に適当に相槌を打って、外を眺めた。そうしなければ、今にも涙が零れそうだった。ぎゅっと握り締めた拳が嫉妬として現れていたのをリボーンが気づくことはなかった。






「ね?なんでチョコ持って帰らなかったわけ?」

「は?」

帰り道。綱吉はリボーンの行動がわからなくなっていた。嬉しそうに貰っていたチョコは担任にわざと没収させていた。一つくらいならリボーンの鞄に隠しておけるはずなのに、それをしなかった。

「嬉しそうにチョコ貰ってたじゃん」

「別にチョコ欲しさに貰ったわけじゃねぇからな」

「意味わかんない。愛情込めて作ったかもしれないのに…」

「チョコなんざ甘いだけで食わねぇからな。あんなもん貰ったってありがた迷惑のこの上ねぇな」

綱吉は隣にいる人物の発言が許せなかった。人がせっかく丹精込めて作ったものをありがた迷惑なんて言うことに。貰う気がないのなら、あんな顔して貰わなきゃいいのに…。

言えない想いが次々と浮かんでは消えていく。

「でもさ、ビターだったかもしれないよ?」

「尚更嫌だな。下手なのを苦さで誤魔化してるのが気に食わねぇぞ」

バシッ!と音がして、リボーンの顔面に何かがぶつかる。それが落ちて見えた視界には今にも泣き出しそうな綱吉がいた。

「リボーンの最っっ低野郎!!」

綱吉は全力疾走で家に帰っていく。リボーンはそれを唖然と見送るしか出来なかった。





「さいていは…俺、かも」

ひくひくとしゃっくりを上げながら綱吉はぽつりと呟く。綱吉の計画通りに行けば、告白して振られて、でも今までどおりに仲良く出来ればと思っていた。
現実は嫉妬して、リボーンに八つ当たりをした自分がいる。

「でもさ、でもさ…」

もしかしたら喜んでくれるかもって。美味しいって食べてくれるかもしれないって。思っていた。
『ありがとう』って自分で伝えたかった。

綱吉が出来ることは、顔を枕に押し付けて、声を押し殺して泣くことだけだった。

















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