それぞれの想い 昼から夜へと移り変わる夕刻時。この頃になると、吸血鬼たちは起き始め活動をし始める。狩りに行く者や寝足りないとまた寝てしまう者、様々な吸血鬼がいる。 綱吉の場合は食事をする時間だった。 「綱吉殿!食事の時間ですよ!」 扉を開け、ずかずかと無遠慮に入ってくる者は一人しかいない。小さい頃からの召使でありながら友達でもある、バジルである。 「わかっているよ、バジル君!そんなに急かさないで」 「あ、申し訳ないです」 バジルに手伝ってもらいながら準備をして、皆が食事をする部屋へと急いでいった。 「遅ぇぞ…」 「ごめん、ザン兄!」 綱吉は謝りながら、ザンザスの頬にキスをして許しを乞う。従兄弟に甘いザンザスもこれで許してくれることが多いため、今回も例外なく簡単に許してくれた。 「じゃ、食べるぞ」 「「いただきます」」 普通は召使であるバジルはザンザスや綱吉と一緒に食事をすることは、許されない行為である。しかし、綱吉がバジルは友達だとザンザスに伝えたところ、一緒に食べるのが習慣となっている。 「ザン兄、ありがとね」 ザンザスは食べながら、なにがだ?とでも言いたげな視線を綱吉に向ける。その視線を綱吉は嬉しそうに受け止め、話し出す。 「命令、してくれたんでしょ?俺、すっごく嬉しかった!」 「あ、拙者も聞きましたよ!ザンザス様が人間を殺さないよう吸血鬼に命令したって。それを聞いて拙者も嬉しかったです」 「ふん、カスが」 ザンザスは暴言を吐き捨てながら、食事を平らげていく。二人はそれを見て、クスッと嬉しそうに笑いながら、食事に手をつけていった。 「さて、次はデザートですね!」 食事が終わり、別の召使達が片づけをした後、バジルが嬉しそうに言う。三人の目の前には、紅い液体の入ったグラスが置かれる。目の前にある血は、輸血用の血である。病院に勤めている吸血鬼が定期的に贈ってくる。それをグラスに注いだものである。 ヴァンパイアといえば、人間に噛み付き血を啜るイメージが持たれているが綱吉達は違う。貴族と呼ばれる吸血鬼はそんなことはしない。そんなことをするのは貴族以下の吸血鬼たちである。 「美味しそうです。いただきます」 バジルは嬉しそうに飲んでいき、ザンザスも飲んでいく。しかし、綱吉だけが手を出さないで、じっと見ているだけだった。 「飲まないのか?」 ザンザスに声を掛けられ、綱吉はビクッと肩を震わせる。意識が飛んでいたらしい。 「んー。お腹空いてないからいいや。じゃ、部屋に戻るね」 綱吉は席を立ち、部屋へと歩き出した。それを二人は心配そうな目で見つめていた。 「綱吉殿、入ってもいいですか?」 「…いいよ」 バジルは許可を貰い、綱吉の部屋へと入る。その手はトレイを持っており、錠剤と水が置かれていた。座っていた綱吉の横に立ち、差し出す。 「ザンザス様からです。飲めとおっしゃってました」 「ん、ありがと」 綱吉は錠剤を水で流し込んだ。この錠剤は病気などをしたときに、血を簡単に補給するために作られた錠剤である。 「どうしたの…?」 持ってきたトレイにコップを置き、バジルの方を向いた。向いた先にいたバジルは心配そうな不安そうな眼で綱吉を見つめていた。 「あの…聞いてもいいですか?」 「うん、いいよ」 綱吉にはバジルの言いたいことが大体予想出来ていた。隣に座らせ、話すよう促す。バジルは言いにくそうな、でも言いたげな瞳で綱吉を見つめ、ぽつりぽつりと話し出した。 「最近の、いえ、ボンゴレが決まる一年ほど前から綱吉殿の様子がおかしいと思っていました」 バジルは召使でなく、友人として思ったことをすっぱり言った。そして少し間をおき、話し始めた。 「ぼーっとすることも増え、時折哀しげな表情をしていることも増えました。血をあまり口にしなくなったのも一年ほど前からでした。そして家にも帰りたがらない」 最初の方は俯きながらだったが、今度はじーっと綱吉の方を見て言う。 「何故なのでしょうか?なにかお辛いことでもあったのでしょうか?拙者は心配でなりません」 じーっと見つめてくる瞳はとても真摯だ。曇りもなく本当に心配しているのが、綱吉にも伝わる。綱吉は何処から話していいかわからなかったが、一番の理由を話した。 「人間にね…恋してるんだ」 「え…?」 「一緒にいちゃいけないんだ。けど、血を見るとその人の血が飲みたくなる。家に帰らないのは、父さんと母さんが仲良くしているのを見たくないから」 「…親方様と母方様が吸血鬼と人間だから…ですか?」 「うん。父さんと母さんが幸せそうなのを見ると、きっと今以上に辛く悲しくなると思うんだよね。だからいいんだ」 何処か遠くを見ているような表情をしている綱吉を見て、バジルは立ち上がり言う。 「おぬしは納得なさってるのですか!?拙者には全然納得なさってないように見えます。辛い、悲しい、で逃げているように思えてなりません。何故です?好きなら一緒にいていいじゃないですか!」 「…っ!」 大声に怯む綱吉にバジルは慌てて謝る。 「すみません!怒鳴るような真似をしてしまって!綱吉殿…?」 謝りながら綱吉の様子がおかしいことにバジルは気づいた。身体が震えていた。 「本当は納得してない。一緒にいたい。けど、無理なんだっ。ダメなんだ…っ!」 それ以上はなにも言えなくなり、綱吉は泣き出してしまった。バジルは震えて悲しい涙を流す友人を抱きしめてやりながら、なんとか力になりたいと考えていた。 「ふーん。なるほどな」 部屋で調べものをしていた男は、電気を消し床へとついた。 それぞれが想いを胸に抱きながら、時が過ぎていく。 |