桜色の恋心




恋は突然というが、まさしくその通りだったと思う。人生初の一目惚れ。相手は男で、自分も男。同姓に恋をして初めは戸惑っていたが、今は違う。
でも、今日の綱吉は泣きっぱなしだった。





綱吉がその先輩と出会ったのは入学して間もない頃。移動教室の場所がわからず、授業に遅れそうになっていた。

「どこだ、どこだっ…!のわっ!?」

キョロキョロと辺りを見回して教室を探していた。そのため段差に気づかず、転倒。教材はもちろんのこと、筆箱の中身までもぶちまけてしまった。

他の移動教室帰りらしき生徒達と鉢合わせになり、皆唖然としていた。綱吉は早くこの場を立ち去りたくて、急いで拾おうとするが、視線が気になり拾えないでいた。

「大丈夫か?」

「はい…。すみません…」

そんな中、一人の男子生徒が声を掛けてくれた。一緒に拾ってくれ、お礼を言おうと綱吉は顔を上げて固まった。

「あの……きれー…」

相手の整った顔に見惚れてしまい、思わず出た言葉だった。しかし、ここで言うべき言葉ではなかった。

「は?」

相手は怪訝そうな目で見つめ、聞き返してきた。綱吉は自分の言った言葉のおかしさに気づき、慌てて弁解する。

「す、すみませっ!て、手伝ってくっ、くださり、ありがとうござい…ますっ」

「ぶっ!」

相手はあまりにも綱吉が早口でテンパりながら話すものだから、吹き出してしまった。ククッと楽しそうに笑いながら、謝ってきた。

「ククッ…悪ぃ。面白くてな。ほら、これだぞ」

「あ、ありがとう…ございます」

相手の笑っている顔を見て、綱吉の胸は高まっていく。ドキドキと脈打ち、頬も赤くなっていくのがわかった。

手を出して、相手が拾ってくれた物をもらおうとするが、返してくれなかった。どうしたんだろ?と不思議に思いながら、相手を見つめる。

「血…出てんぞ」

「え?」

言われて綱吉は自分の掌に視線を落とす。そこには転んだときに怪我をしたんであろう傷跡があった。もう血も止まっていて、後で消毒すれば大丈夫だろう。

「行くぞ」

「え?え?」

急に相手に腕を掴まれ、立たされる。そのまま何処かへと歩き出し、綱吉も着いて行かざるを得なくなってしまった。





着いた場所は保健室だった。相手は事情を養護教諭に話し、綱吉を消毒させる。消毒をしている間にも時間は過ぎてしまい、授業開始のチャイムが鳴ってしまった。

「あっ!」

自分は遅れてもいいが、相手は遅らせてはいけない。くるっと上半身だけ動かして、扉のほうを見れば誰もいなかった。

「はい。出来たわよ。もう、転ばないようにね」

お礼をいい、養護教諭に移動教室の場所を聞いて、綱吉は保健室を出た。その後、走って教室に向かったが間に合わず、こっぴどく怒られてしまった。

しかし、綱吉の胸は何故か温かかった。

その相手が生徒会長であることを知ったのは、次の日のこと。壇上に立つ、生徒会長はリボーンという名前の人だった。綱吉の予想通り、女子からの人気が凄く、何故か女性の先生からも人気があった。……顔か?

人のことを言えない綱吉だが、廊下ですれ違うとき、学校帰りに見かけたときなどに、なんとかきちんとお礼を言おうとしたが、言えなかった。

何故なら、恋をしているから。

その恋に気づいたのも数ヶ月過ぎてからのことだった。放課後にたまたま空き教室の前を通ったとき、話し声が聞こえてきた。男と女の声が。男の声は毎日のように、朝聞いている。
女が告白をしたとき、綱吉は逃げ出していた。家に帰り着いたときは、ぼろぼろと涙を零して座り込んでいた。心は恐怖と不安に包まれていた。

数日経っても、リボーンに恋人が出来たという噂は立たなかった。これに綱吉は酷く安心した。そのときに自分はリボーンに恋をしていることに気がついた。





最初の出会いから丸一年が経とうとしている。あの日から一度も声を掛けることが出来ず、リボーンは卒業しようとしていた。

時間が過ぎていく中で、今日こそはリボーンに話しかけようと綱吉は気持ちを固めていく。

卒業式も終わり、皆が体育館から出て行く。綱吉も遅れてだが、出て行った。必死にリボーンを探すが、周りは人だらけで誰が誰なのかわからない状態だった。

「っ…!」

溢れてくる涙を止めることが出来ず、綱吉はお気に入りの場所へと走り出していた。唯一、自分の抑えていた気持ちを解放することが出来る場所へと。

「見つかんな…かった…っ!」

屋上の給水タンクのスペース。綱吉はそこに小さくなって座る。涙は溢れ、嗚咽は止まらない。せっかく言おうとした言葉を漏らす。

「好き…って言いたかったっ!」






「…言えばいいだろ?」

「!?」

綱吉が屋上へと来たときには誰もいなかったはずだ。しかし、声がした。その場へと近づいていくとリボーンが缶コーヒーを片手に座っていた。

「なんで…?」

「ん?ダリぃから逃げ出してきた」

リボーンの話を聞けば、同級生や後輩の女の子がうざくて逃げ出してきたらしい。

これは神様がくれたチャンスだと思うが、後一歩が出なかった。馬鹿みたいだが、本人に聞いてみる。

「言っても…いいん…ですかね?」

「いいんじゃねぇか?多分」

「っ…。お、俺は先輩のことが好きですっ!」

リボーンに推されて綱吉は言った。自分の気持ちを。恐る恐る顔を上げてみれば、リボーンが両手を広げて待っていてくれた。

綱吉は迷わず、その胸に飛び込み、ぽろぽろと嬉しくて泣き出した。















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