ハニーシロップにひたした甘いキス 綱吉はリボーンに抱きしめられ、幸せそうに笑っている。二人の間には穏やかな空気が流れ、とても幸福に満ちている。 「好きだぞ、ツナ」 「俺もだよ。リボーン」 二人とも微笑み、自然と唇を合わせていった。 「ーっ!」 ガバッと音がするほど、綱吉は飛び起きた。辺りを見回し、夢だったことを確認する。ほっとしたのが半分、残念だったのが半分だ。 「夢…ですよね」 朝っぱらから変な夢を見た。いや、変な夢ではないが、心臓に悪い夢だ。綱吉は真っ赤になっているであろう顔を手で隠し、呟く。 「…リボーンに会えないよぉ」 うーっ!と唸っていたが、こうしていても仕方がない。綱吉はベッドから下り、学校へと行く準備をし始めた。 綱吉とリボーンは同じ高校に通う幼馴染である。二ヶ月ほど前に綱吉からリボーンに告白をして、二人は恋人同士となった。小さい頃から二人いるのが当たり前だから、特に変わったことはない。 学校帰りに何処かへ寄ったり、一緒に帰ったり…。付き合う以前となんら変わらない。 始めのうちは綱吉も何かあるだろうと期待していたが、結局なにもないまま過ぎていった。仲違いをすることもなく、穏やかに過ぎていった。 「うーん。ま、いいよね」 と本人も気にはしてなかったが、今日、夢を見てしまった。頭のどこかでは期待していたらしい。 「はぁ…。どうしよ」 綱吉はパンを齧りながら、朝方に見た夢について考える。まぎれもなくあれは自分とリボーンだった。お互い幸せそうに笑っている夢。 「現実には…無理ですね」 ありえないと綱吉は、はなっから否定した。自分でする勇気もないし、リボーンがしてくれるわけもない。手の早いリボーンがしないのだからしないだろう。綱吉はそれでも幸せだ。これ以上なにかを望む必要もなかった。 「つー君!リボーン君が来たわよー!」 「わかったー!今行くー!」 綱吉はパンを牛乳で流し込み、鞄を持って、外へと飛び出した。 「お待たせ!」 「…おせぇぞ」 リボーンは不機嫌そうに言う。だが、じーっと見られ、綱吉は違和感を感じる。 「ど、どうかした?」 小首を傾げる綱吉に手を伸ばし、リボーンは綱吉の口許に触れる。そして、その指を舐め、軽く笑う。 「パンくずついてたぞ」 慌てて食べたんだろ?と言いながら、リボーンはククッと笑っていたが、綱吉には聞こえていなかった。リボーンの指の行き着いた先を見てしまい、それどころの話ではなかった。 「っ!言ってくれたらよかったのに!」 綱吉は頬を染めながら、スタスタと先へ行く。リボーンは照れている綱吉を笑いながら、歩いている。綱吉の赤みはなかなか引かなかった。見てしまったことで、ダイレクトに残ってしまっていたから。 「で、あの筋肉馬鹿がだな…。おい」 「へ?」 帰り道。お互いの話をしていて、リボーンが話をしていた。しかし、リボーンの会話が止まってしまった。 「お前、人の話聞いてたか?」 「き、聞いてたよ!スカルがドジしちゃったんでしょ?」 「違ぇぞ。それは終わった」 綱吉は意識が飛んでおり、途中から全く話を聞いていなかった。聞いてもらえなかったことでリボーンは不機嫌になる。綱吉もちゃんと謝ろうとするが、どうしても顔を見れないでいた。 「ご、ごめん!俺、今日、疲れたみたい。先、帰るね!」 「ツナ!」 最後までリボーンの顔を見ることが出来ずに綱吉は走っていった。納得のいかないリボーンがぽつんと取り残されてしまった。 「あぁー。ダメだぁ…」 家に帰り着き、綱吉は部屋で一人蹲った。今日、一日、夢のことが頭から離れないでいた。リボーンを見るたび、思い出してしまい、紅くなる。しかも、意識をしないで、ずっと唇ばかりを見て、それでも紅くなる。 「明日には忘れていますように!」 お願いだから!と綱吉は祈る気持ちで願い、制服を脱いでいった。 しかし、綱吉の願いは届かず、日に日に増していき、一週間経てば、リボーンと話をすることさえ困難となっていた。 「チャオっす!」 「ぎゃ!な、なんでいるの!?」 今、リボーンは綱吉の部屋にいた。が、綱吉はリボーンを家に上がらせた覚えはない。何故なら今、学校から帰ってきたからである。 「ぎゃ!ってなんだ。失礼な奴だな。ママンに言ったら、すんなり上がらせてくれたぞ」 「へ、へぇー。そうなんだ」 綱吉はリボーンを見ないようにして、離れて座る。しかし、これを許してくれるリボーン様ではなかった。 「最近のお前、変だよな。目を合わせないし、口利かなくなったし」 「そ、そんなことないよ」 妻に隠し事をしている夫のような気分で、綱吉はリボーンに返事をする。確かに隠し事をしてはいるが、言える隠し事ではなかった。 「なんでだ?」 ぐいっと近づき、今、綱吉の目の前にはリボーンの顔があった。あと数センチ近づけば、唇が触れそうな…。 「ん?」 綱吉はふにっと柔らかい感触を感じた。何故か。答え、綱吉からリボーンにキスをしているから。すぐさま離れ、リボーンの顔を見た。ぽかーんとしており、状況が掴めていない様に綱吉には見えた。 「え、あ、えっと…」 綱吉は鈍くなった頭をフルに回転させるが、何を言っていいのかがわからない。それに反して、頬はどんどん赤みを帯びていく。 その間に綱吉にキスをされ、フリーズしていたリボーンが息を吹き返す。吹き返した瞬間、リボーンは笑い出した。 「ククッ…。ダメだっ…想像と…違う!」 「え?え?」 てっきり貶されるか、気味悪がられるかと思っていた綱吉は、予想外の反応に驚きが隠せないでいた。どうしたらいいのかわからず、リボーンが落ち着くまで綱吉はおろおろとしていた。 「オレは振られると思っていたぞ」 「えー!なんで!?」 「一週間目合わせないわ、口利かないわ、別れないといけないのか?と思ってた」 「ち、違うよ!!」 リボーンの話を聞けば、綱吉と目も会わせず口も聞かなくなったから、別れが言いにくい綱吉に代わって、自分からやってきた…とのことだった。 「まさかキスされるとはな」 ククッと笑い出したリボーンに対し、綱吉の頬はまた赤くなっていく。この数十日で何度真っ赤になったことだか。 「ツナからキスしてくれて嬉しかったぞ」 ニッとリボーンに笑われ、綱吉の頬は熟れたトマトよりも赤みを帯びていく。 「気持ち悪かったり…しないの?」 「なんでだ?」 どこがだ?とでも言いたげなリボーンに綱吉は抱きついた。嬉しくてたまらない。本当は怖かった。自分がキスしたいと思っていることがリボーンに伝わり、どう思われるかが。 気持ち悪い。気色悪い。そう思われるのが怖くて、リボーンを避け続けていた。 「…ツナ」 「ん?」 嬉しそうに抱きついている綱吉にリボーンからキスを一つ。そのキスで幸せ一杯に笑う二人がいた。 |