従兄弟




別れから一年が経ち、今日はボンゴレ継承式の日である。候補に挙げられている綱吉もため息をつきつつ、準備をしている。きちんとした正装をし、身なりを整える。

「はぁ…。絶対なりたくない」

候補でない者の血を飲み続けたが油断は出来ない。候補から外れていないため、こうして通達がきた。自分以外の二人のどちらかになって欲しい…。それが綱吉の切なる願いだった。

「ん。できた」

鏡で自分の格好を見て、綱吉は頷く。念入りにチェックをして綱吉は部屋を出て行った。





「気分悪ぃ…」

何故だと思いながら、リボーンは横になっていた。ここ数日、気分が悪い。寝ていても仕方がないため、なんか薬でもなかったかと起き上がり、冷蔵庫を開ける。


中身は空っぽ。


「あ、そういや三日ほどなんも食べてねぇな」

なにも食べないでずっと調べ物をしていた。そのせいでくる体調不良だった。

「ツナ。買い物に…」

最後まで続かず、途中で途切れる。しーんとしたリビングに言葉は吸い込まれていき、すぐに消えた。

「…いないんだったな」

馬鹿みたいに何度も繰り返す。ふとしたときに声を掛けて、いないことに気づく。自分でもいい加減、覚えろと言いたくなるが、なかなか慣れてはくれない。


―凄いね!こんなの初めて食べた!

―生きるんだ!生きているあいだはちゃんと食べなきゃダメ!せ、せっかく…おいしい、ごはん…つくれるのにっ

―似てる…よね?


「ちっ、胸クソ悪ぃ…」

思い出すだけで嫌になる。とっとと忘れちまえばいい。そう思うのに、忘れられない。日に日に増していく。何故、自分がこれほどまで執着するのかがわかりそうでわからない。
否、理解したらそこで終わりな気がした。





「では、これより次期ボンゴレを発表する」

この一言で、会場は緊張感に包まれた。誰もが固唾を呑んで見守っていた。

「次期ボンゴレは……、


ザンザスとする」

会場は緊張感から拍手喝采へと変貌する。ある者は喜び、ある者は悔しがり、反応はざまざまだったが、喜んでいるものが大半だった。

綱吉の従兄弟であるザンザスが壇上へと上がり、ボンゴレの証であるリングを受け取る。ザンザスがリングを嵌め、拳を高く握り上げたとき、会場の空気は一気に最高潮へとなっていった。

「クフフ、またの機会を狙えばいいですから」

運悪くなれなかった者は、会場を去って行った。


「おめでと!ザン兄!」

「あぁ」

綱吉はザンザスのところへ挨拶に行く。ぶっきらぼうで少し乱暴だが、綱吉はザンザスが大好きである。ぎゅっと抱きついて、お祝いの言葉を掛ける。

「ザン兄がボンゴレか…。凄いなぁ…」

「ハン。逃げてた奴に言われたくねぇな」

「だって…」

ザンザスもこの従兄弟が権力や傲慢さを振り翳したくないことを知っていた。綱吉の頭を撫でて、気持ちを汲み取ってやる。

「あ、俺、ザン兄にお願いがあったんだ」

「なんだ?」

「ん…、ここじゃあれだから、ちょっと」

綱吉は周りを見渡し、話すのを躊躇う。ここには厄介な者が多すぎる。綱吉はザンザスの手を引き、外へと連れ出した。

「で。なんだ?」

「あの…さ。聞いてくれる?」

「だからなんだ?」

綱吉がここまで躊躇するのも珍しい…と思いながら、ザンザスは話すのを待った。いつも笑っていて、唯一懐いてくれている従兄弟。なんでも話し、なんでも相談に乗ってやった。
だから、躊躇するのは珍しかった。

綱吉は意を決したように、ザンザスの双眸を真っ直ぐ見つめ、言った。

「ザン兄の命令で、人間と共存するよう促してほしいんだ」

「あ?」

この馬鹿は今なんと言った?人間と共存しろ?ふざけやがって。思ったことを全部表情に出しているザンザスに怯えながらも、綱吉は言葉を紡いだ。

「ザン兄の代で終わらせてよ。人間が死ぬまで血を吸わないよう命令してよ!お願いっ!」

人間を嫌っている吸血鬼は最後の一滴まで血を飲み干してしまう。吸血鬼を嫌う人間は銃で簡単に殺してしまう。その悪い連鎖が続き、人間も吸血鬼も互いを憎み恨みあってきた。

ボンゴレとなったザンザスが命令をすれば、そのようなことをする吸血鬼はいなくなる。綱吉はそれを望んでいた。お互いがお互いを殺しあうのではなく、共存していく道を。

「…ダメだ」

「っ…なんで!」

その一言で綱吉の瞳には涙が溜まっていく。それは零れていき、頬から顎を伝い、地面へと落ちていく。嗚咽を漏らして泣き出した綱吉にザンザスが声を掛ける。

「…だが、お前からキスしたら、してやってもいいぞ」

「…!」

小さな頃からのお互いの合図。綱吉が何かをザンザスに頼むときは、キスをする。

「ありがと!ザン兄!大好き!!」

綱吉はザンザスに抱きついて、相手の頬へとキスを贈った。















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