ボンゴレ




「しけた面してますねぇ」

「え…?」

綱吉は骸にお姫様抱っこをされながら移動していた。骸は綱吉を抱えているにも関わらず、ひょいひょいと屋根伝いに飛んでいく。

「いつもへらへら笑っているのが貴方様でしたよ。今は泣きたいのを必死に堪えているように見えますよ。聞いてあげるから話してごらんなさい。ま、その分、血を頂きますけどね」

「…。俺、身代わりだったんだ。なのに、馬鹿みたいに恋してた。助けてもらって好きになって、もしかしたらリボーンも俺のこと好きかもって期待して、結局ダメだった」

ぽろぽろと大粒の涙を流しながら、綱吉は話した。途中でしゃべれなくなったけれど、構わずに骸に話した。

「でしょうね。稀、ですよ。人間と一緒になれるなんて。貴方様の両親ぐらいじゃないですか?」

「うん。かも」

綱吉の両親は吸血鬼と人間だ。父親が吸血鬼で母親が人間。しかし、二人とも幸せに暮らしている。

綱吉はあんなに仲のいい夫婦を見たことがなかった。それほど、お互い幸せそうに笑っている。






吸血鬼と人間の混血だが、綱吉は吸血鬼だ。そして次期ボンゴレ候補の一人でもある。本人は全く納得していないが。

「沢田家の血の問題ですか?人間に惚れるなんて」

「しらないよ」

「貴方様は次期ボンゴレ候補なんですよ。僕からしてみれば羨ましい位置にいるんです。自覚したらどうです?」

「…ザン兄がなればいいんだよ」

「はぁ…。欲のない方ですね」

ため息をついて骸はこの話を終わらせた。本当に欲というものとは縁のない方である。

普通なら血なんて飲ませたりしないのに、この方は飲ませる。飲ませればライバルが増えるため、それだけ自分がボンゴレになる率が減るから飲ませることをしない。

「あ、骸も血、飲ませてね」

「はいはい」

むしろ候補でない人の血を飲み、血を薄め、自分がなるのを避けたがる。本当に変わった吸血鬼である。

骸はこの我が儘な王子を抱えて、彼の家へと向かった。






あの後、リボーンは足早に家へと帰った。扉を乱雑に閉め、どすどすと足音を立てながら部屋へと入る。

「ツナがボンゴレ…か」

自分の呟いた声に苛立ちが隠せない。ボンゴレを潰せば、吸血鬼はいなくなる。敵をみすみす逃した自分に腹が立つ。綱吉に心を許しかけていた自分にも腹が立つ。

「殺しときゃよかったな」

あの時。初めて綱吉と出会ったときに殺しとけば、こんな思いはしなくてよかったのかもしれない。殺せばよかったのに、戸惑った自分がいた。


似てる…ただそれだけで。


同じ顔してたって、同じ瞳をしていたって、あいつと綱吉は違う。わかっていたのに、躊躇して殺せなかった。

「は…」

乾いた笑いしか出てこない。ハンターである自分が吸血鬼を殺さないのは可笑しい。リボーンは拳を握り、呟く。

「次、会ったら…殺す」

呟いた言葉とは裏腹に、リボーンの双眸は不安と悲しみに揺れていた。















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