別れのとき 「はぁ…。どうしよ」 綱吉はため息をつきながらとぼとぼと歩いている。家に帰ればいいのだが、この気持ちのまま帰りたくはなかった。 「どうしようもないよね」 なにも言わずに出てきてしまった。しかし、結果的にはそれでよかった。あほなことを言ってリボーンを困らせるよりはずっとましだ。気づいたときには終わっていた。これで傷も浅くてすむ。 「うん。帰ろ!」 また違う人を好きになればいい。今度は人間ではなく、同じ吸血鬼の可愛い女の子を。綱吉はそう思うことで自分の気持ちを整理し、家へと歩き出した。 「どこ行きやがった!」 リボーンは闇雲に綱吉のことを探していた。どこに行ったのか、どこに居るのかさえわからない。しかしどこかで泣いている。たぶん自分のせいで…。 リボーンはそう感じていた。 「ちっ。なんでだ」 探さなくったって別にいい。探す必要はない。自分の頭は冷静にそう判断している。だが、胸騒ぎがする。このまま会えないのではと。 「いいじゃねぇかよ。会えなくったって」 会うべきして会ったわけでもなんでもない。たまたま出会った。ただそれだけ。なのに、妙な胸騒ぎはやむことなく強くなる。 「ん?いた!」 数メートル先に蜂蜜色の頭を発見し、リボーンは足を速める。見つかったことに酷く安心している自分を不思議に思いながら。 「ツナっ!」 「え…?」 振り返った綱吉は困惑した表情を見せていた。 「バカツナ!」 「……」 リボーンはぎゅっと綱吉を抱きしめる。触れられたことに安堵の息をつくリボーンを綱吉は押しのける。 「……」 「なっ…!?」 見上げられる綱吉の顔を見て、リボーンは驚きを隠せない。眉間を寄せて、瞳に強い意志を宿す。まさにアイツそっくりだった。 「似てる…よね?」 生きるのが嫌になるほど大切に思っていた人に、と綱吉の双眸は尋ねていた。リボーンの表情で察した綱吉の瞳は涙でいっぱいになっていく。 「み……だった、んだ」 「は…?」 小さな声で聞こえないリボーンは再度尋ねようとしたが、何者かによって口を塞がれてしまう。手も一纏めにされ、銃を持つことさえ叶わない。 「クフフ…美味しそうな人間ですね」 「骸!?」 綱吉が驚いた声で、何者かに声を掛ける。何者も声を掛けられ綱吉の方を振り向く。 「ボンゴレ!?」 「!」 お互いがお互いに何故ここに?と暗に言っているが、リボーンには関係なかった。 ボンゴレ…。ヴァンパイア界を総纏めしている吸血鬼に対する敬称。その血にはヴァンパイアを牛耳れる力があり誰もがその血を欲している。 ハンターにとってはその辺にいる吸血鬼より殺す価値のあるヴァンパイア。なぜなら、そのヴァンパイアを殺せばこの世には吸血鬼はいなくなるとされているから。 「クフフ。ボンゴレにお会いできるとは光栄です。しかし、こんな人間の血なんて貴方様には相応しくない。頂いてもいいですよね?」 「…っ」 骸は綱吉の了解も得ずに、リボーンの首筋へと牙を向ける。ヴァンパイアの成せる力のため、リボーンは逃げることも避けることも出来ない。 「…骸。俺の血、欲しくない?」 綱吉は自分の手に爪を立て、血を流す。それに反応した骸はリボーンを手放し、綱吉に近づく。自由になったリボーンは素早く銃を取り、標的を二人に定める。 「人間より貴方様の血の方が美味しいですからね」 綱吉の手を取り、骸は口を近づける。血を舐め、今、リボーンが銃を構えたことに気づいたといわんばかりに振り返る。 「クハハハ。無駄…ですよ」 クフフと独特な笑みを絶やして、骸は綱吉を抱きしめる。そのまま宙を舞い三叉戟を足元に突き立て、あっけなく姿を消してしまった。 |