リボーンの過去 「で。なにが食べたいんだ?」 「んー。お腹は空いてるけど、特に食べたいものってないな。リボーンは?」 「オレも特にねぇな」 「そっか…。どうしよ」 綱吉はうーんと考えながら、とりあえず好きなものをカゴの中に入れていく。チョコ、饅頭、ビスケット、飴玉など、お菓子を入れていった。その中身を見たリボーンがボソッと呟く。 「全部菓子かよ」 「え!ダメ…?美味しいよ」 「オレは甘いの嫌いだからな」 「うわ…。かわいそー」 「ご飯を買いに来てんのに、菓子を買うお前に言われたくないぞ」 菓子を食べれないリボーンに綱吉は憐れんだ眼差しを向ける。しかし、リボーンはリボーンで綱吉に言い返す。そんな言い争いが、買い物終了まで続いた。 ちなみにご飯はミートスパゲティとなった。理由は綱吉が赤いものが食べたかったからだ。地味に血が飲めなかったことを恨んでいるらしい。 「ツナ、茹で上がったか?」 「もー少し」 リボーンが具材を炒め、綱吉がパスタを茹でている。綱吉はパスタを一本菜ばしで取り、硬さを確認するが、まだ硬い。 「遅せぇ」 「いやいや。俺のせいじゃないし。パスタの問題でしょ!」 リボーンが呟き、綱吉のせいだといわんばかりに見つめてくる。しかし、茹でている綱吉には問題はない。問題はパスタのせいである。数分経ち、綱吉がもう一度確認をする。 「ん。大丈夫」 いつの間にか準備してあったザルにパスタを移す。よく水を切って、リボーンの炒めた具材の中に入れていく。その後、リボーンが味付けを調節して出来上がった。 「さき運んどくよ」 「あぁ」 皿に移したスパゲティを綱吉はテーブルに運ぶ。リボーンは何かを作っているらしいが、お腹の空いた綱吉は待ちきれずにうずうずとしている。 「ねぇ、早く食べようよ」 「さき食べてていいぞ」 「一人で食べるのはいや」 二人で食べたほうが美味しいに決まっている!とリボーンが席に着くのを待っている綱吉に苦笑しながら、リボーンはあるものを作っていく。自分の好物である、エスプレッソを。 淹れ立てのエスプレッソを持って、リボーンが席に着くと、綱吉は不思議そうにそれを眺めている。 「なに?それ」 「エスプレッソだぞ。オレの好物だ」 「美味しいの?」 「あぁ。飲むか?」 リボーンに促され、綱吉は一口飲んでみた。 「苦っ!」 「やっぱりな」 してやったりといわんばかりに、リボーンはニヤッと笑ってエスプレッソを飲んでいく。それを綱吉は涙目で睨みながら、がぶがぶと水を飲んでいく。 「苦過ぎでしょ。それ!」 「大人の味だぞ」 「意味わかんない」 綱吉はリボーンの言葉をスパンと切り捨て、ミートスパゲティへとフォークを伸ばす。一口食べ、満面の笑みを浮かべる。 「美味しい!…けど、わかんない。美味しい味付けが出来る人なのに、そんな苦いのが好きだなんて…」 「様々な味を知ってるからな」 「ふーん」 ふんっと自慢げにいうリボーンを横目に綱吉はフォークを進めていく。 なぜだか綱吉はリボーンの口許から目を外せないでいた。 自分が口を当てた部分でリボーンもエスプレッソを飲んでいる。大したことでもなんでもないのに、綱吉はそれを見ていると恥ずかしくなっていく。 わけのわからない胸の高鳴りを無視して、また一口とスパゲティを食べていった。 あっという間に食べ終わり、片づけをした。その後はリボーンも綱吉もゆっくりと寛いで過ごした。 「ねぇ…一回だけだと思ってたんだけど、なんでこう何度も続くのさ?」 綱吉が不満を露わにリボーンを問い詰める。無理もない。初めてご飯を食べなかった日が続いたときから、一ヶ月ほど経った。 その間に五度ほど、全くなにも食べない日が何日か続くということがあった。 リボーンにとってはなんでもないことらしいが、綱吉にとっては重要なことだった。お腹が空いても居候同然の身のためむやみやたらに催促は出来ない。 もう…我慢出来ないというところで、リボーンに言う。その度、リボーンは忘れてたと言っては買い物に行く。 はぁ…とため息をつきながら、綱吉はリボーンに尋ねる。 「お腹空かないの?」 「空かないな」 「なんで?普通生きてれば空くものだよ」 「さぁな。知り合いが吸血鬼に殺されてからなんとなく忘れる」 リボーンはどうでもよさげに言っているが、綱吉は信じられなかった。それって。それってさ…。 「まるで生きていたくないって言ってるようなものだよ?」 綱吉の問いかけにリボーンはなにも言わなかった。否定もしないし、肯定もしない。そのことが綱吉には悲しかった。 「生きるんだ!生きているあいだはちゃんと食べなきゃダメ!せ、せっかく…おいしい、ごはん…つくれるのにっ」 「泣くなよ」 突然泣き出してしまった綱吉をリボーンは慰めようと頭に手をやろうとする。だが、綱吉はそれを払いのけるかのように、キッ!と睨む。 「泣いてない!怒ってるんだっ!」 怒っていると言っても綱吉は涙を流していた。ひくひくとしゃっくりを上げながら泣いていた。リボーンはなぜ綱吉が涙を流すのかが分からず、ただ困惑気味に頭を撫でてやることしか出来なかった。 リボーンは綱吉のことを助けてくれた。殺せたのに殺さないで生かしてくれた。それなのに、自分の命は大切にしてくれない。 そのことが綱吉には許せず、腹立たしかった。 |