ビターチョコ




振られるためにチョコをあげる。そんな人ってこの世に何人いるんだろう。たぶん自分だけなんだろうなと綱吉は考えため息をつく。

沢田綱吉はリボーンという男に恋をして、数年が過ぎようとしている。どちらも男。その時点でこの恋は間違っている。間違っていても恋をしてしまった。諦めきれずにここまで来てしまった。






「えっと…。あってるよな?」

綱吉はチョコと格闘している。切り刻んだビターチョコを湯せんで溶かしている。しかし、元が不器用なせいで何度も水を入れてしまいチョコをダメにしている。

「あ!…まただ」

あと少しで全部溶けきるというところで水を入れてしまった。いいところまでいっていただけに、ダメージが大きい。綱吉は頬を叩いて自分に気合を入れ、もう一度挑戦する。

「溶けた。あとは流し込んでっと」

型にチョコを流し込み表面をならして、冷蔵庫に三十分ほど寝かせる。悪戦苦闘しただけに上手く出来ていてほしい。綱吉は冷蔵庫の前で祈るようにして手を叩き、片づけへと取り掛かった。






綱吉とリボーンは小さいときからの幼馴染みだった。小中が同じで高校も同じ。綱吉の出来の悪さに皆投げ出したのに、リボーンだけは投げ出さなかった。そのため今、同じ高校に行けている。

「やった!合格した!!」

「ハン!俺が教えたんだぞ。当たり前だ」

「うん。ありがとっ!リボーン」

嬉しくってリボーンに抱きつく綱吉。リボーンに頭を撫でられ、綱吉は嬉しそうな顔をする。これからもずっと一緒にいれる。綱吉はそう信じて疑わなかった。



高校に入って暫く経ち、気がついたことがある。リボーンって凄くモテるということ。中学では男女交際は珍しげに映るが、高校はそうじゃない。同じクラスに数組カップルがいても可笑しくないし、他校で付き合っているという話は何度も耳にした。

中学ではリボーンに近寄らなかった女子も高校では近寄ってくる。振って欲しいと思っても来るもの拒まず去るもの追わず主義のリボーンは誰とでも付き合っていた。フリーになったと思ったら、すぐに違う彼女を作っている。

一緒にいれる時間は彼女のいないほんの何日かだけ。あとは彼女との時間を大切にするリボーンがいる。綱吉もそれに対してなにも言わない。言うと負けたように思えるし、自分が嫉妬をしていることにも気づかれたくはなかった。

そんなリボーンがまさかのフリー。明日のバレンタインにはたくさんの女子がリボーンにチョコを渡すだろう。それに習ってさりげなく渡せたらと思う。リボーンのことだから、勘付いて二度と近寄っては来ないと思う。

悲しいけれど、それが綱吉の狙いだった。






「固まったかな?」

綱吉は冷蔵庫からチョコを取り出す。チョコは上手く固まっており、形も整っていた。

「うん。上出来」

あとはメッセージを書くだけなのだが、綱吉の手は止まってしまう。何を書いたらいいのかがわからない。書きたいことがいろいろと頭に浮かんでしまい、どれを書いたらいいのかがわからない。

「ど、どうしよ…。大好き…じゃ、ありきたり?愛してるじゃ重過ぎる?かといってハッピーバレンタインもおかしいし…」

一人ぶつぶつと呟きながら、綱吉はメッセージを考える。いつも思っていて、おかしくないこと。あ、とひらめき綱吉はゆっくりと丁寧にメッセージを書いていく。

メッセージを書き終え、綱吉は満足げに微笑む。あとは、これをもう一度、冷蔵庫にいれ固めたら完成だ。メッセージは失敗しなかった。ほぼ完成といってもいい。




「出来たー!」

冷蔵庫に入れたチョコを取り出し、ラッピングする。不器用なため少しリボンがおかしくなったが、愛情はたっぷり込めてある。

「伝わるといいな」

ふふっと笑いながら、綱吉はラッピングにキスをした。その日、綱吉はもしかしたら…と色々と考えてしまい眠れなかったのはいうまでもない。







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