ちょっとの変化




「はぁ…」

綱吉は部屋のベッドに寝転び、ため息をつく。心がもやもやぐちゃぐちゃとしていて、気分が晴れない。原因はわかっている。だが、どうすることも出来ないのが現実だ。

「心配…してくれてたんだよな」

ハンガーに掛けてあるリボーンの上着を眺めながらぽつりと呟く。あんな顔させるつもりはなかった。酷くショックを受けたような哀しげな表情。そんな表情は初めて見た。

「いつも怒ってるもんな」

柳眉を上げ、眉間を寄せて。不機嫌そうな話かけてはいけないオーラを身に纏って。あのメンバーの中では一番苦手な人。でも、自分の歌を一番聴きたがっている人。そして、自分を歌の世界に戻してくれた人。

「いい人…だとは思うけど」

他のメンバーと同じように接したいと思っても、怖さが先に来てしまう。また、怒られたら…。また、怒鳴られたら…。そんなことをぐるぐると考えてしまい、結局は怒られる。自分が悪いとも思う。しかし、もう少し、優しく言ってくれてもいいのではと思ってしまう。

「って、あんな顔させる理由にはならないか」

明日は練習がある。心配してくれたお礼を言って、上着を返そう。それから、哀しげな表情をさせてしまったことも謝ろう。
綱吉は電気を消して、眠りにつこうとした。

しかし、様々なことを考えて一睡も出来ずに翌日を迎えてしまった。






「う…。緊張する」

集合時間よりも三時間ほど早く綱吉は学校についてしまった。今日は休日のため校舎には誰もいない。いるとしても、一人二人先生がいるだけだ。外では運動部がスポーツに汗を流している。

「だ、大丈夫。渡して謝るだけだ。あとお礼も言う」

自分に言い聞かせるようにぶつぶつと唱えながら綱吉は音楽室へと向かう。音楽室が見えてきて、緊張感が高まる。しかし、灯りが付いていないため誰も来ていないだろう。ほっとしながら、扉を開ける。

「少しくらいなら寝れるかも…ぎゃっ!」

誰もいないという安心感から眠気がやってきた。でも、誰かいる。日の光で綱吉のいる位置からは足しか見えないが確かに誰かがいる。

「…リボーン先輩?」

恐る恐るとその物体に近づくとリボーンがいた。周りに紙を散らかして、本人は壁に凭れて寝ていた。綱吉は散らかっている紙を一枚取り、目を通す。

「楽譜…?」

そこには音符が並んで曲を綴っていて、歌詞も書かれていた。新しい新曲みたいだ。こんな朝早くに…?と思いながら、綱吉はリボーンに視線を向ける。見ればリボーンは寒そうに肩を抱いていた。

「あ…」

綱吉は慌てて、袋からリボーンの上着を取り出し、本人に掛けてあげる。そのときリボーンと目が合い、綱吉は更に慌てる。起こしてしまったらしい。

「ご、ごめんなさっ!!」

「ありがとな」

「え…?」

リボーンはそのまますうっと眠りについてしまった。何事もなかったかのように、すやすやと眠りについていた。一方、綱吉は別の意味で慌てていた。

「わ、笑った?」

リボーンは綱吉に礼を言うとき、確かに笑っていた。いつものように怒鳴るわけでもなく、眉間を寄せているわけでもなく。ただ、優しげに笑っていた。

「う…そ?」

リボーンが自分に笑いかけた。その衝撃を綱吉は隠せないでいた。しかし、笑ってくれたことを嬉しく思っている自分がいる。くすぐったいような、照れくさいような、そんな感情。

「笑ってくれた」

そのことで安心した綱吉に急激な眠気が襲ってくる。先ほどの段ではなく、寝たい。綱吉はリボーンの傍に腰掛て、ゆっくりと眠りに落ちていった。






「なんでいるんだ?」

集合時間にはまだ一時間半はある。しかし、自分の隣で後輩がすやすやと気持ちよさそうに寝ている。自分はこの後輩のことで自棄になり、あのあと残って曲作りに没頭していた。そのままここで寝ていたのだが、目を覚ましたらこの有り様だった。

「嫌がらせか?」

近くにいて触れることさえ許されない。ぽつりと呟いた言葉にリボーンは苦笑する。そんなことはない。この後輩はわざわざ律儀に朝早く来て自分に上着を返してくれた。リボーンもそのことはわかっている。

はぁーとため息をついて上着を掛けてやる。優しいから性質が悪い。余計好きになってしまう。じーっと見ていても気持ちよさ気に寝ている。

リボーンは嫌がらせのつもりで、綱吉の頭を撫でた。飛び起きてしまえばいい。だが、リボーンの予想に反して、綱吉はますます気持ちよさ気に笑って寝ている。

「ちっ…。自覚しろ。バカ」

オレに好かれてるんだって。そう想いながら、リボーンは綱吉の唇に自分のそれを重ねていった。
















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