優しいぬくもり 「うへぇ…。38℃もあるよ…」 綱吉は体温計を見て嫌そうに呟いた。 「無理したからかなぁ…」 ため息をつきながら、横になりつつ事の出来事を思い出した。 事の始まりはこんな情けない話だった。 ボンゴレボスに就任して暫く、様々な出来事が起きた。東洋人だと馬鹿にされ、刺客を送られてそれを撃退。古株のじいさん達の説得など。 色んなことを寝る間も惜しんでやった挙げ句が風邪ときた。 就任早々ダメツナである。 面白いくらいに慌てた獄寺がボンゴレ屈指の医療チームを組み、大げさなほどの看病を受け今に至る。 「風邪なんて何年ぶりだろ」 少なくとも中学以来ひいてないよなと思いつつ、綱吉は首が動く範囲で辺りを見回した。 だだっ広い部屋にぽつんと一人。風邪のときは人肌が恋しいというが、その通りかもしれない。 なんとなく寂しい気持ちになってきた。 「ガキじゃあるまいし」 寝よ寝よと小さく呟き、綱吉は眠りについた。 ここにも綱吉を心配している者が一人いる。が、知ったのが皆より遅れてしまったため若干ご機嫌斜めなリボーン様である。 そのリボーン様は何をしているのかというと、お粥を作っているのである。 無駄にコック風にコスプレをして。リボーン様曰く、超一流のコックらしい。 アサリに鶏肉を入れたちょっと中華風に美味しく作っている。 「こんなもんだろ」 味見をしてご満悦な様子で、お粥を皿に装い綱吉の自室へと向かった。 バンッ!と何かが壊れる音がして、綱吉は飛び上がりながら目を覚ました。 その音のした方を見ても煙しか見えず、何が起こったのかも分からない。 壁に撃ち込まれた銃弾を見て、何事!?また、襲撃!!?と綱吉が恐怖の色を見せながら、事の収まりを待っていると現れたのは元家庭教師現お抱えヒットマンのリボーンだった。 「チャオっす」 「チャオっすじゃねぇ!ひぃぃぃ!病人に銃を向けないでください!」 綱吉がツッコミを入れるものの、リボーンに愛銃をこめかみに向けられあえなく撃沈。 「まだまだダメなボスにねっちょりと指導を…」 「で、用件はなに?」 ボスらしく威厳を纏わせて言っている綱吉だか、頭に熱さまシートを貼り寝巻き姿では格好がつかない。 さらりと無視されたリボーンは不機嫌そうに持ってきたお粥を綱吉の目の前に出す。 「おかゆ?なんで、また?」 「さぁな。腹が空いてるだろうと思って、優しーいオレがわざわざ作ってやったんだぞ」 綱吉はありがとうと素直に言いたいのだが、言いづらい。 「…ありがと」 してもらったことには代わりはないのだから、しぶしぶ礼を言う綱吉。 「当然」 「でも、ドアと壁の修理代は払ってもらうからね」 「あぁ」 「すごく高いよ?」 見るも無残に大破してしまった装飾が素晴らしかった扉を見て、ため息ひとつ。壁に射ち込まれた弾丸を見て、またため息をついた綱吉はざっと見繕った修理代を言った。 「ポケットから出せるな」 「ウソだろ!?」 普通のことのように言うリボーンが綱吉には信じられなかった。扉だけでも億は下らないのに、何でもないことのように言ってしまえるリボーン様である。 「それより、食わねぇと冷めちまうぞ」 リボーンはほかほかと湯気が立つお粥を蓮華に掬い、冷ましてやる。 「ちょっと待て!何故にお前が食べる?か、顔ちかっ!」 なんとリボーンは蓮華に掬ったお粥を口移しで綱吉に食べさせようとしたのである。それを何とか阻止した綱吉は熱ではない顔の熱さにどぎまぎとしながら、ゆっくりとお粥を食べていく。 「ちっ、口移し…」 「いらんわ!お粥くらい普通に食わせろ!」 まだ言うリボーンをぴしゃりと黙らせる綱吉は幸せそうにお粥を頬張っていく。 「ごちそうさまでした」 きちんと手を合わせて言う綱吉。それを見届けたリボーンは皿をさげ、薬と水を手に持ち動かない。 「頂戴」 「口移しでな」 「却下…出来ませんよね。分かった、いいよ」 リボーンの纏ったオーラに気圧され、綱吉は訂正し許可を出した。すぐさまリボーンは薬と水を口に含み、綱吉に飲ませる。飲み込みきれなかった水が綱吉の首筋から寝巻きを濡らしていき、なんとなくえろい。 「んくっ…。ありがと」 礼を言った綱吉をそのまま雰囲気に流して、もう一度キスしようと唇を近づけたリボーン。綱吉も目を閉じ、それに答えようとした。 「10代目ー!お加減はいかがですか?」 「ツナー!具合はどうなのか?」 「沢田ー!極限に大丈夫なのかー?」 「ボンゴレ、具合はいかかです?」 「クフフ…。クロームが貴方を心配していましたよ」 「君たち全員邪魔だよ。咬み殺されたいの?」 守護者それぞれが自分なりの手土産を持って別の扉から雪崩れ込んできた。獄寺、山本、笹川、ランボは心配をして。骸、雲雀はしぶしぶといった具合を装い内心心配そうにやってきた。 が、全員予期もしない出来事に固まる。 「…っ、なん…で?」 見られたことで熟れた林檎のように真っ赤になりながら、口元を手で隠し綱吉は小さく声を漏らす。 「てめぇら、覚悟は出来てるよなぁ?」 それに逸早く解凍されたリボーンはにこぉっと地獄の底からやってきた死神の如く笑みを見せながら、愛銃を撫で守護者たちと向き合う。 守護者は守護者で、冷や汗を流す者、ガタガタと震えだす者、余裕そうな引きつった笑みを見せる者、実に反応は様々だった。 「ねっっっちょりと指導してやるぞ」 今のリボーンは綱吉のことや邪魔されたことで、苛立ちはリミッターを遥かに超えていた。 逃げる守護者をお抱えヒットマンが地の果てまで追い掛け回すという、前代未聞の地獄絵図が出来上がってしまった。 「…行っちゃった」 でも、まぁ、いっかと横になり、守護者に心配され嬉しく思いながら、リボーンにキスされた唇に触れ幸せな眠りに落ちていく綱吉であった。 |