風変わり小僧




人は人が目の前で殺されたとき、どういう行動を取るのだろうか。どういう言動を口にするのだろうか。

狂ったように泣き叫ぶのだろうか。茫然とその場に立ち尽くすのだろうか。あるいは自分が殺されないよう、逃げ惑うのだろうか。

普通の人間ならそうなるのかもしれない。しかし、リボーンには当てはまらないことだった。

この時にも何の感情も抱かなかった。





「クソッ!追っ手の数が多すぎる!!」

脇腹を負傷した男が吐き捨てるように言う。それに肩を負傷している女が、諦めたように笑いながら言葉を紡ぐ。

「ふふっ…。やりすぎたわね。大きなマフィアだったから…」

「こんな時に笑うな!ちっ!どうすればっ!!」

切羽詰まった状態の男とどこか楽しげに笑う女。そんな二人を深い闇色をした二つの瞳が、じっと見つめていた。





「おふたりさん」

突如として聞こえた声に、二人は大袈裟なほど肩をびくつかせて振り向く。そこには、三十人くらいの男たちが銃を持ち、立っていた。

「とても驚いてくれて嬉しいなぁー。一応、初めましてー。ルチーアファミリーのボス、アーベルですー」

口調に特徴のあるリーダー格の男が、この場には似合わない楽しげな声で話す。対象的に、二人の男女はぐっと唇を噛み悔しげな表情で数歩下がる。

「酷いなー。せっかく宜しくって言ってるんだから、そんなに下がらなくてもいいのにー」

「黙れ!俺たちを殺しに来たんだろ!?」

「うふふー。わかってるんだー。じゃあー、殺してもいいー?」

「断ると言ったら?」

「そりゃーもちろん」

ボスであるアーベルがニヤッと楽しげな笑みを浮かべて、部下に指示を出す。部下も楽しげに武器をちらつかせて二人を挑発する。

「全身蜂の巣状態にするに決まってるでしょー?」

「そうくると思ってたぜ!!」

男が吐き捨てるように言い、敵の心臓目掛けて銃を乱射する。ボスと男のやり取りを見ていた女も、怯えた表情ではなくイキイキとした表情で闘いに参加していた。

「強いねー!敵じゃなかったら仲間にいれたいなー」

「ぜってぇはいりたくねぇな!」

「同感。私も嫌だわ」

男と女は互いに互いを守りながら、相手を射殺していく。ボスであるアーベルはそれを感情の読めない表情で眺めていた。





「やっぱり強いねー!敵じゃなかったら、ファミリーにいれてあげても良かったのにー」

「嫌よ。全力で拒否するわ」

敵であるアーベルは仲間が次々と銃殺されていくのに、楽しげに二人を見ている。二人は互いを庇いながら、対戦しているが徐々に疲れが見え始めてきた。

「だよねー!だったら死んでもらおうかー」

ボス自ら、二人に銃を向け構える。警戒する二人だが、部下たちに邪魔され、なかなかボスに集中することが出来ない。

「くっ…!」

脇腹を負傷した男が蹲る。抱えこんだ右手には、赤くなって見えなくなるほど血が滴っている。女は男を庇いながら対戦するが、こちらにも限界がきていた。

「苦しそうだねー。でも、そろそろ楽にしてあげるねー」

アーベルは部下に攻撃をさせることをやめさせ、銃を構えながら二人と対面する。二人は警戒心を強くするが、対等に戦う体力は残っていなかった。

「バイバイー」

バンッ!と銃声が二発響き、男と女はゆっくり倒れていく。眉間から血が噴き出し、そこから赤い湖が出来ていく。ピクリとも動かない。一瞬の出来事だった。





「ゴミ処理おわったねー。帰ろうか!……んー?」

人をゴミ呼ばわりした男は、部下を引き連れてその場を去ろうとする。しかし、妙な違和感を覚え辺りを見回す。

「そこにいるのは誰かなー?」

アーベルは振り向きもせずに言う。その意識は、茂みの方へと向けられている。一見、茂みの方は何も変わった様子はないが、アーベルはそこから動こうとはしない。部下が見に行こうとするのをとめ、体は動かさず首だけを動かし、アーベルは茂みを見つめてみた。

すると、先ほどまで何者の気配も感じなかった茂みに、人の気配がしだした。茂みから、一人の少年が出てくる。先ほど亡くなった男女を静かに見つめていた少年である。

「ねぇーねぇー、君誰かなー?」

ショタ好きであるアーベルは、ニヤニヤしながら少年に近づく。しかし、近づくことは出来なかった。

銃声が響き渡り、アーベルがゆっくりと倒れていく。それは瞬きをする間もない出来事だった。部下たちは驚き、動きを止めてしまう。少年はその一瞬をついて、部下たちを銃殺していく。

やがて、十五人ほどいた部下たちも倒れて動かなくなっていた。

「リボーンだぞ」

自分以外立っている人間がいない中、リボーンは呟いた。リボーンの表情は無表情で、悲しみの色には染まっていなかった。






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