見て見ぬ振りを




「ぎゃー!離せよっ!」

「…うぜぇ。黙れ。死にてぇのか?」

まだ身体が痺れて動けない綱吉は、男の耳元で怒鳴り散らす。男はそれが気に食わず、先ほど撃った銃を綱吉の頭へ向ける。

「……」

「分かればいい。物分りの早い奴は嫌いじゃねぇぞ」

綱吉はなにも言えなくなってしまい、男が向かう先をひたすら考えるだけだった。





「ここ、どこー!?」

「オレの家」

連れて来られた場所は男の家らしい。男は綱吉を椅子へとおろすと何処かへ行ってしまった。出て行きたいと思っても、身体が痺れて動けずどうすることも出来ない。
よほど強い痺れ薬が塗られた銃弾を撃たれたらしい。

「足、出せ」

救急箱を持ってきた男を綱吉は睨みつけて、足を出すのを拒む。見ず知らずの奴に世話になりたくない。ましてや相手はハンター。油断も隙もない。

「手当てしてやるから」

「や…!」

出す気がない綱吉に構わず、男は足首を掴み手当てをしようとする。掴まれたことで反射的に蹴ってしまった綱吉の爪が男の頬に当たる。

「っ…」

「あ、ごめんなさい…!」

「いい。足の手当てをするぞ」

男はなにもなかったかのように、綱吉の手当てをする。綱吉にはそのことが不思議で仕方がない。ハンターとヴァンパイア。相容れない関係なのに。

「…俺のことどうするつもり?」

薬を塗り、包帯を巻いてくれる男に話しかける。男は視線を足へと落としたまま、答える。見えた表情は怪訝そうな顔をしている。

「なにがだ?」

「おかしいでしょ?普通殺して当たり前なのに、助けるなんて。俺のこと売り飛ばすつもり?」

人間にとって吸血鬼は憎むべき存在であるが、高値で売れたりもする。吸血鬼の血は万能薬としても有名だからだ。どんな怪我や病気でも簡単に治してしまう。

「そんなことしねぇぞ」

男はため息をつきながら答える。お前なんか売ってどうなるとでも言いたげな視線を向け、救急箱を片付ける。

「じゃあ、なんで助けるの?」

視線に苛つきながら、綱吉は男に尋ねる。

「……別に。なんとなくだ」

「え…?」

一瞬だけ男が泣き出しそうな顔をする。どこか痛みに耐え、辛そうな表情。が、確かめる間もなくポーカーフェイスに戻ってしまった。

「お前は足が治るまでここにいろ。これの方が治りは早いだろうからな」

男は塗り薬を見せた。その薬は、ヴァンパイア専用の薬。それように作られた薬だから、治るのも早いことは間違いなかった。

「…分かった。けど、それ外して?」

綱吉は男のおしゃぶりを指差した。先ほどから疼いたままでしょうがなかった。

「あぁ」

男は言われたとおり外し、箱の中におしゃぶりを仕舞う。これで漸く息を吐くことができる。

「あのさ、痺れって治んない?」

実はまだ痺れていた。手足を動かせれるが、痛い。男はニヤッと笑いながら言う。

「あと、一時間は掛かるぞ」

「うそー!」

「ホントだ」

ククッと楽しげに笑いながら、男はキッチンへと向かった。材料も拾い上げていてくれたらしく、吟味している。

「…ガキだな」

「うるさいよっ!」

こうして今までに出会ったことのないハンターの類いとの摩訶不思議な共同生活が始まった。















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