暖かい腕に抱かれて




「いたぞっ!ヴァンパイアだ!撃ち殺せ!!」

男の大声にバタバタと慌てたように走っていく人々。皆、対ヴァンパイア用の銃を持ち、血眼になって捜し回っている。何人もの人間が、一つの獲物に対して銃を乱射するが、ヴァンパイアはそれをかわしていき、見えなくなる。

「…ちっ。見失った…」

一人の男が悔しそうに舌打ちをし、銃をおろす。この中で一番腕が立つハンターが追うのをやめてしまったため、仲間達もそれに倣う。その場に居た全員が、様々な表情を宿しながら去っていった。






「あぁー。疲れた」

綱吉は項垂れて安堵の息を吐く。物陰に潜むことで今回はなんとか逃げ切ったが、元々追われ慣れていない身としては次に追われても生き延びれるか分からない。

「ちょっと出かけただけでこれだもんなぁ…」

ガシガシと頭を掻き、今宵の夕飯を買いに行くため、建物へと飛び移った。





人の姿をし、人の生き血を啜る怪物。それがこの世で、吸血鬼と呼ばれる所以であった。
人間からは忌み嫌われ、同族同士も気が合わない奴が多い。人々は己が生き延びるため、武器を持ち吸血鬼と戦う。悲しいことだが、それが事実。生きるか死ぬかの瀬戸際争いを続けなければならない。

人は自分と違うものを見ると、拒絶をする。吸血鬼がいい例だ。ただ少し違うだけで、なにもかも拒絶をする。受け入れようとは絶対にしない。
吸血鬼に血を吸われると自分もそのようになってしまう。不老不死の化け物に。そう考えているせいで、簡単に命を奪ってしまう。


十字架を見ると怯む。にんにくが嫌い。太陽の光に当たると灰になる。

これは全て嘘八百を並べ、人間が創り出した弱点に過ぎない。十字架やにんにくを見てもなんとも思わない。太陽の光は苦手なだけで、当たっても灰にはならない。

誤解をされ続けたまま、人間と吸血鬼は殺し合いをしてきた。





「よし!買い物終わりっと」

買いたかった材料を全て揃え、綱吉は満足そうに家へと向かう。今日はあったかいクリームシチューにする予定だ。

来た道を戻り、建物へと飛び移ろうとした。


−パンッ!


銃声が聞こえたと思ったら足首に激痛が走り、そのまま地面へと転落してしまう。叩きつけられ、息が出来ない。足首から痺れていき、逃げることもままならない。

油断していた。危険を知らせる、模様が疼いていたというのに。共鳴を起こす、おしゃぶりが近くにあったというのに。

「見つけたぞ、化け物め」

ハッとしたときにはもう遅かった。まだ煙の出ている銃口を向けられていた。全身黒尽くめの男に。

「じゃあな」

弾倉を回され、カチッと音がし、次の弾が設置された。その男はニヤッと不敵に笑い、どこか小馬鹿にしたような眼差しが綱吉を捉えた。





「っ…!」

殺されると分かっていながらも、綱吉はその男を睨みつけた。

何故、ヴァンパイアだという理由で殺されないといけない?自分達にだって、痛みや苦しみが分かる心を持っている。ただ、人ではないだけだ!

口には出せない思いを瞳に込めて、相手と視線を交わす。


「お前…」

「いたのかー!殺せたのかー!?」

なにか言いかけた男の言葉を遮って、遠くから別の男の声がする。先ほどの銃声を聞きつけた、けたたましい足音が近づいてきた。

「…ちっ!」

その男は舌打ちをしたかと思うと、突然、綱吉を担いだ。驚く間もなく、男は綱吉をつれて走り出していた。


応援に駆けつけた男が来ると、そこには誰もいなかった。







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